相続財産管理人日誌11

相続財産管理人日誌、第11回目です。

 

相続財産管理人弁護士としての日々の体験談を記していきます。

 

今回は、被相続人が有していた自宅不動産の取り扱いです。

 

なお、相続財産管理人の選任申立てがなされる場合、被相続人は不動産を有していることが多いです(そもそも、不動産の清算のために申し立てられることが多いためです)。

 

まずは、自宅不動産について、現地調査を行います。

 
ここでは一軒家を想定します。

 
外側から観察できる事項だけでも、少なくとも次のことを調べます。

 

・雑草や樹木が多い茂っていないか、隣家や道路にはみ出していないか
・占有者がいないか
・害虫がいないか(蜂の巣の有無など)
・家屋が傷んでいないか(倒壊の危険性、屋根や壁の穴の有無など)

 

相続財産管理人になると、原則として1年以上相続財産を管理することになりますので、近隣の方への影響も考える必要があります。

 

雑草や樹木がはみ出している場合は剪定をする必要がありますし、害虫がいる場合は駆除する必要もあります。

 
家屋に倒壊の危険性がある場合、売却までの間、最低限の補修をしておく必要があります。

 

私が管理した家屋には、蜂の巣ができておりました。

 
自宅の鍵がなかったため、鍵交換作業中に蜂の巣があることが発覚し、刺激しないように慎重に鍵交換作業を行った経験があります。

 
その後すぐに申立人と相談したところ、駆除してもらうことができましたが、場合によっては相続財産管理人が害虫駆除業者等を手配して駆除することも考えられます。

 

自宅建物の内部に入ったら、まずは次のことを行います。

 

・老朽化状況の確認(特に床板が腐っていないか)
・腐敗物、害虫の存在の有無の確認
・電気、ガス、水道が止まっているか否かの確認
・間取りの確認
・施錠状況の確認
・相続財産に関わる資料の捜索

 

古い家の場合、床板が老朽化していることがあります。

 
歩行中に床が抜けてしまうと大怪我をする可能性がありますので、場合によっては補強が必要になります。

 
そうでなくても、床に何が落ちているかわからないため、安全靴やワークブーツなど、頑丈な靴を用意していった方が無難です。

 

腐敗物がある場合、臭いがひどいと管理作業に悪影響があります。

 
また、害虫が発生します。

 
これらは早急に処分します。

 
私が管理した家屋には、通電している冷蔵庫が存在していたことがありましたので、中身を処分し、ブレーカーを落としたうえで、冷蔵庫の周りに殺虫剤をまきました。

 

間取りを確認すると同時に、部屋の写真を撮っておきます。

 
これは、後で家財道具を処分する際の目録を作成するために役立ちます。

 

玄関以外の窓、勝手口等について、施錠されているかを確認します。

 
空き家は空き巣の被害に遭うことが多いためです。

 
窓ガラスの場合、雨戸があれば雨戸も閉じておくとガラスを割って侵入されるリスクを低減できます。

 

これらのことを行ったうえで、現金、預金通帳や請求書など、相続財産に関わる資料の捜索を行います。

相続財産管理人日誌10

本日も、本ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

相続財産管理人日誌第10回目となる今回は、預貯金以外の金融資産についてです。

 

被相続人の預貯金を解約し、相続財産管理人口座へ移行することと、被相続人の株式や投資信託の売却換価・保険の解約返戻金等を受け取ることは、一見似ています。

 

しかし、相続財産管理人業務としては大きな違いがあります。

 

預貯金の解約は、相続財産管理人の権限内の行為であるので、裁判所の許可が必要ありません。

 

一方で、株式や投資信託の売却、保険の解約返戻金等の受け取りは、権限外行為となりますので、裁判所に申立てをしたうえで、許可を得る必要があります。

 

証券会社や保険会社も、権限外行為許可審判書の提示を求めてきますので、失念する可能性は高くないとは思いますが、預貯金の解約に比べてプロセスが増えることに注意が必要です。

 

株式や投資信託の売却金を受け取るにあたり、証券会社に口座を作らなければならないことがあります。

 

この口座に一度入金され、その後で相続財産管理人口座へ送金するという流れになります。

 

また、保険の解約をし、解約返戻金等を受け取る場合は、保険会社によっては死亡診断書のコピーの提示を求めてきます。

 

申立人がこれを提供できる場合は良いのですが、そうでない場合は非常に厄介です。

 

死亡診断書を作成した病院が分かる場合は、その病院にコピーの提供をお願いするということもあります。

 

しかし、その病院すらわからない場合、被相続人の最後の本籍地を管轄する法務局に対し、死亡届記載事項証明書というものの発行を受けるほかありません。

 

この死亡届記載事項証明書は、申請すれば発行を受けられるというものではなく、民間の保険を受け取る目的では、原則として発行してもらえません。

 

そのため、裁判所に状況を説明して上申したうえで、事務連絡というものを発行してもらい、これを法務局に示すという手続きが必要です。

 

法務局としても極めて例外的な手続きになりますので、これでも死亡届記載事項証明書が発行できないという場合、裁判所からの嘱託によって発行するということもあり得ます。

相続財産管理人日誌9

相続財産管理人日誌、第9回目です。

 

相続財産管理人弁護士としての日々の体験談を、秘密の漏洩にならない範囲で紹介していきます。

 

相続財産管理人口座を作成し、被相続人の預貯金の存在が判明したら、次は預貯金の解約と、相続財産管理人口座への送金を行います。

 

この手続きも非常に時間がかかるため、早めに着手した方が良いです。

 

基本的には、相続財産管理人選任審判書、相続財産管理人の身分証明書、相続財産管理人印鑑証明書と印鑑、相続財産管理人口座の情報が最低限必要になります。

 

かなり例外的な手続きとなりますので、可能な限りは、窓口で金融機関の担当者の指示を仰ぎながら書類等を書く方が得策です。

 

多くの金融機関は、相続財産管理人の代理人でも手続きを認めてくれます。

 

その場合の書類(委任状)についても、事前に記載事項を確認しておくとよいです。

 

ゆうちょ銀行に被相続人の預金がある場合、解約後の送金は、同じゆうちょ銀行の口座にしかできません。

 

相続財産管理人口座がゆうちょ銀行以外である場合は、次の2つの方法で預金を移動します。

 

ひとつは、一旦証券をもらい、現金化したうえで、相続財産管理人口座へ預け入れをするというものです。

 

被相続人の預金が多額である場合、一時的に多額の現金を持ち歩かなければならないため、精神的な負担は大きいですし、実際に危険性もあります。

 

もうひとつは、ゆうちょ銀行にも口座を作る方法です。

 

お金の流れがわからなくなってしまうと危険ですので、ゆうちょ銀行においても相続財産管理人名義の口座を作り、一度この口座に被相続人の預金を移した後で、元々有している相続財産管理人口座へ送金するとよいです。

相続財産管理人日誌8

本ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

相続財産管理人日誌第8回目は、預貯金等の金融資産の調査についてです。

 

相続財産管理人選任申立書には、財産目録という添付書類があります。

 
そして、財産目録に記載された財産を疎明する資料(預金通帳の写しや、株式・投資信託のレポートなど)も添付されます。

 

申立人が被相続人の財産について詳しく調査している場合は、財産目録によって、網羅的に大方の相続財産を把握することができます。

 

一方、諸事情により、申立人が被相続人の財産の情報をあまり入手できない場合もあります。

 
被相続人の自宅の鍵がない場合や、債権者等の利害関係者が申立人となる場合です。

 

このときは、金融資産の情報がほとんどない状態で申立がなされます。

 

このような場合、相続財産管理人は、ゼロから金融資産の情報を調査しなければなりません。

 

具体的には、次のステップを踏んで調べます。

 

1 被相続人の所持品、家屋の調査
被相続人が所有していた物を調べます。

 
遺留品を預かっている人がいれば、その人から遺留品を受け取ります。

 
また、基本的には、被相続人の自宅を訪問し、捜索を行います。

 
具体的には、預金通帳や、証券会社のレポート、保険証券・保険レポート等を探します。

 
(なお、預金通帳など重要な物については、相続人のいない被相続人が孤独死などをされていると、警察から市役所等に預けられ、相続人不在として処分されていることもあります)

 
これらにより、被相続人が資産をを有していたであろう金融機関が判明しますので、当該金融機関に対して、しらみつぶしに照会を行うという手順になります。

 

2 預金通帳等が一切見つからない場合
遺留品や自宅を捜索しても、預金通帳等が見つからない場合は、とても大変です。

 
一般的に、銀行口座を一つも持っていないという人は非常に稀です。

 
そのため、一応の調査を行う必要があります。

 
この場合は、まずゆうちょ銀行とメガバンクから照会をかけます。

 
お歳を召していた方であれば、ゆうちょ銀行に口座を持っていることは多いです。

 
また、被相続人が地方にお住いであった場合、自宅近くにある地銀や農協、信用金庫も当たってみるとよいです。

相続財産管理人日誌7

今回は相続財産管理人日誌、第7回目です。

 

相続財産管理人弁護士としての体験談を紹介していきます。

 

前回、相続財産管理人用の口座開設の際に必要となる具体的な資料等について述べました。

 

今回は、口座開設の際に一緒に行ってしまうとよい手続きについて説明します。

 

相続財産管理人に選任された際、不動産登記や相続財産管理人口座開設と並行して、相続財産の調査を行います。

 
これは、相続財産管理人の業務の一つとして、相続財産目録を作成の上、裁判所へ提出する必要があるためです。

 
相続財産目録の提出時期は、通常、相続財産管理人選任の日から2か月後です。

 
相続財産調査には時間がかかることもあるので、かなり急ぐ必要があります。

 
なお、2か月では調査を終えられない事情がある場合、その旨を裁判所へ説明し、一旦は審判から2か月後の時点で判明している財産の報告をします。

 

申立人提供資料により、金融資産の具体的な情報が揃っている場合には、金融機関を訪れた際、その時点における残高を教えてもらうと、すぐに財産目録へ反映することができます。

 

申立人が元相続人や親族以外の者である場合など、申立人の金融資産に関する情報がない場合は、一旦、口座開設窓口において、被相続人の口座が存在していないか、質問してみます(銀行側から教えてくれることもあります)。

 
メガバンクなどの場合、被相続人が口座を持っていることも多いです。

 
その際、口座番号、支店名、残高を教えてもらうと、財産目録を早めに作ることができます。

 
私は、相続財産管理人口座開設をした銀行に、たまたま被相続人の口座があることが判明し、残高もそれなりにあることがわかったため、その後の管理費用の見通しを早期に立てることができました。

相続財産管理人日誌6

今回も本ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

相続財産管理人弁護士の日誌、第6回目です。

 

前回、相続財産管理人に選任された後、相続財産管理人用の銀行口座を作成するというお話をしました。

 

その際に、通常金融機関から求められる資料につき、次の通り説明します。

 

1 相続財産管理人選任審判書原本
被相続人が死亡したこと、被相続人に相続人がいないこと、自身が裁判所から相続財産管理人として選任されたことを金融機関に示すために必要です。

 
相続財産管理人口座作成の際の書類に記載する住所や名称も、通常は審判書に書かれた通りにします。

 
なお、金融機関によっては、戸籍謄本類の提出を求めてくることがあります。

 
しかし、本来的には提出の必要はないと考えられます。

 
理由は、相続財産管理人選任申立ての段階で、すでに被相続人に関するすべての戸籍謄本類が裁判所に提出され、裁判所が審査をしたうえで、相続人が不在であることが確認されているためです。

 
そして、このプロセスを経なければ相続財産管理人の審判書は発行されませんので、審判書を以て、戸籍謄本類のチェックは不要であると説明がつきます。

 
もしも、それでも金融機関が応じない場合は、裁判所へ相談します。

 
それでも難しい場合、申立人から戸籍謄本類の写しが提供してもらえればそれで対応し、提供してもらえない場合の最終手段として、改めて戸籍謄本類を収集します。

 

2 身分証明書(弁護士会発行のカードのほか、運転免許証などが求められることもあります)
自身が、審判書に記載された相続財産管理人と相違ないことを証明するために用います。

 
通常、顔写真付きの身分証明書を用います。

 

3 裁判所が発行する印鑑証明書
家庭裁判所に申請することで、相続財産管理人用の印鑑証明書を発行してくれます。職印でも登録できます。

 

4 印鑑証明書に登録した印鑑

金融機関によって、当日口座が開設されて通帳等が発行されるところと、後日口座を開設し通帳を引き渡すところがあります。

 
スケジュール繰りには注意が必要です。

【相続放棄シリーズ】28 相続財産管理人選任申立

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ28回目は、相続財産管理人選任申立てについてです。

 

正確には、相続放棄とは別個の手続きですが、相続放棄後の相続財産の処理のために必要となる場合もあるので、ここで紹介させていただきます。

 

 

1 相続財産管理人
一言でいうと、相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を清算する役割を持つ人です。

 

被相続人の財産は、相続人がそもそもいないか、または相続人全員が相続放棄をすると、法概念上、相続財産法人という法人になります。

 

相続財産管理人は、この法人の代表者に位置づけられます。

 

そして、被相続人の財産、たとえば預貯金であれば管理口座に移して管理し、不動産であれば汚損や倒壊等を防ぐ等の管理をします。

 

また、裁判所の許可を得て、必要に応じて財産を換価したり、処分したりします。

 

相続人、受遺者、特別縁故者が現れなかった場合、最終的には相続財産を国庫に納めます。

 

 

2 相続財産管理人が選任されるケース
大まかに3つのパターンがあります。

1つめは、元相続人が相続財産の管理に困っているケースです。

 

特に、古い建物が存在する場合です。

 

建物は人が使っていないと、急速に老朽化します。

 

時が経つにつれ、倒壊の危険が高まったり、不法占拠者が現れるなど、トラブルの発生率が上がります。

 

このようになってしまうと、元相続人に対して、何らかの責任追及がされる可能性もあります(あるいは、法的責任はないにせよ、近隣住民や市役所等から、事実上いろいろな要求がされ、対応に困ることもあります)。

 

そこで、相続財産管理人に相続財産の管理責任を委ね、処分をしてもらうという選択をすることがあります。

 

2つめは、債権者が債権回収をするケースです。

 

被相続人に借金がある場合、相続人が返済を免れるために相続放棄をすることがあります。

 

その結果、債権者は相続人に対して支払いを求めることができなくなるため、相続財産の中にめぼしい財産がある場合には、これを換価して弁済を受けるという選択を取ることがあります。

 

この場合、債権者が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをします。

 

3つめは、市町村等が空き家管理のために申し立てるというケースです。

 

近年、被相続人の家屋が放置され、地域の安全が脅かされたり、土地の有効活用ができなくなるという問題が増えています。

 

空き家の中には、相続人が元々不在のものや、相続人全員が相続放棄をしたものもあります。

 

このような空き家について、市町村等が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをし、空き家の処分をするという形になります。

 

 

3 相続財産管理人選任申立ての手続き
家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任申立書と、付属資料を提出します。

 

付属書類の中には、財産目録がありますので、可能な限り正確に被相続人の財産を調査して、疎明資料とともに提出します。

 

また、相続人全員が相続放棄をしたことで相続人不在となった場合には、相続放棄申述受理通知書の写しや、相続放棄照会結果の写し等を添付します。

相続財産管理人日誌5

今回は相続財産管理人日誌、第5回目です。

 

相続財産管理人弁護士として体験したことを、秘密の漏洩にならない範囲で紹介していきます。

 

 

相続財産管理人は、選任されたらできるだけ早く、相続財産管理人用の銀行口座を作成します。

 

これは、被相続人名義の預金を移行して管理したり、不動産等を売却した際の売却金を保管する目的で作成します。

 

名義は通常「亡(被相続人の名前)相続財産管理人(管理人の名前)」として作成します。

 

この口座で被相続人に関する金銭を一元管理します。

 

相続財産の管理に必要な金銭を、この口座から引き出して使用することもできます(場合によっては裁判所の許可が要ります)。

 

逆に、仮に自分の事業用の口座や、個人の口座を使用してしまうと、お金の出入りが複雑になり、管理できなくなる可能性があります。

 

場合によっては横領にもなりかねないので、確実に相続財産管理人専用の口座を作成し、一元管理する必要があります。

 

相続財産管理人口座の開設は、金融機関の方から見ると、かなり特殊な手続きです。

 

感覚的には破産管財人口座よりも少ないと思いますので、もはやイレギュラー対応の領域になってくるとも思えます。

 

これに加え、コロナウィルスの影響により、窓口が予約制になっていたりなど、相続財産管理人口座開設にはとても時間を要する可能性がありますので、早めに手続きに着手した方が良いです。

相続財産管理人日誌4

今日もブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

弁護士の鳥光でございます。

 

今回は相続財産管理人日誌第4回目となります。

 

 

相続財産管理人が選任されると、裁判所から、相続財産管理人が選任された旨の官報公告がなされます。

 

これによって、被相続人の相続財産について、相続財産管理人が就いたことが、世間一般の方が知ることができるようになります。

 

ところで、相続財産管理人に選任されると、不動産業者の方からお声がかかるようになります。 

 

理由は次の通りです。

 

相続財産管理人の最終目的は、相続財産の清算です。

 

特に、不動産は、売却換価することになります。

 

相続債務が存在し、預貯金等で返済ができない場合は、不動産を売却した金銭でもって弁済を行います。

 

不動産業者の方としては、この売却換価処分について、仲介を行うことにメリットがあります。

 

不動産の売買において、媒介をすることで、手数料が発生します。

 

媒介をするためには、買い手を探したり、境界問題の有無や法令上の制限を調査したり、売買契約書を作ったり、重要事項説明書の作成及び面前での説明をしたりなど、とても多くのことを行わなければなりません。

 

売主や買主の代わりにこれらをやってもらうのですから、正当な対価としての手数料を受け取ることができます。

 

相続財産管理人は、相続人または特別縁故者が現れた場合及び不動産に買い手がつかなかった場合を除き、通常であれば相続財産に含まれる不動産を確実に売却します。

 

そのため、不動産業者の方から見れば、Win-Winの関係になれます。

 

相続財産管理人の業務を行う弁護士としては、普段から相談しやすい不動産業者の方がいると、とても心強いところです。

相続財産管理人日誌3

本ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

 

相続財産管理人日誌の、第3回目です。

 

 

相続財産管理人に選任されると、初期の段階で申立人との面談を行うことが多いです。

 

申立人本人が申立てをしている場合は、(当然ですが)申立人とお話をします。

 

申立人に代理人がいる場合、代理人と一緒にお話をするということもあります。

 

私が相続財産管理人選任申立ての代理人をしたときは、申立人本人と一緒に相続財産管理人のもとを訪れてお話をしました。

 

コロナウィルスのこともあるので、zoomなどのリモート会議システムを使って面談をするというケースも増えているようです。

 

被相続人の財産に関する資料があれば、面談の際に申立人から相続財産管理人へ引き渡すことも多いです。

 

主なものとしては、自宅・自動車の鍵や、預貯金通帳、現金などがあります。

 

これらを引き渡してもらえると、鍵の開錠作業や、金融機関に対する預貯金照会をせずに済むことがあり、相続財産管理人としてはとても助かります。

 

面談後、自宅土地建物がある場合で、申立人が当該土地建物に詳しい(申立人が被相続人の子であり、同居していた時期があるなど)ときは、申立人と一緒に自宅土地建物へ行くこともあります。

相続財産管理人日誌2

相続財産管理人日誌第2回目です。

 

本ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

 

相続財産管理人弁護士としての体験談を、秘密の漏洩にならない範囲で記していきます。

 

 

相続財産管理人に選任され、相続不動産の登記を行うことと並行して、相続財産管理人選任申立てを行った申立人との面談により、詳しい事情を伺いました。

 

今回は、やはり相続財産に関する情報はほとんど得られていないとのことでした。

 

これは特に申立人に非があるのではなく、類型上仕方のないことでした。

 

一方、申立人は立場上、相続財産以外については、様々な資料を取得、提供しやすい方でしたので、申立書の写し一式や、公的な書類を提供してもらうことができました。

 

実は、これは後ほどとても重要な意味を持ってきます。

 

特に、申立書一式に含まれる戸籍謄本類の写しは、被相続人の預貯金の解約・名義変更、金融資産の売却換価の際、必要となるケースがあります。

 
(相続財産管理人選任審判書を示すだけでよい場合が多いですが、保険会社等は、相続人が不存在であることを証明するのに足りる戸籍謄本類一式の写しを要求することがあります。)

 

もしも、改めて戸籍謄本類一式を集めるとなると、膨大な手間と費用がかかります。

 

相続財産管理人選任申立てのために必要な戸籍謄本類は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、すべての相続人の死亡記載戸籍(または相続放棄をしたことを示す書類)のほか、被相続人の父母の出生から死亡までの連続した戸籍です。

 

これらを改めて収集するのは、非常に大変です。

 

相続財産の換価処分にも大きな影響を与えます。

 

そのため、申立人から、相続財産管理人選任申立の際の書類一式をいただくことは、とても大切なのです。

相続財産管理人日誌1

今日もブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

私は弁護士業務の中でも、相続放棄にとても注力しております。

 

そんな中、先日相続財産管理人に選任され、業務を進めております。

 

相続放棄シリーズのスピンオフとして、相続財産管理人業務のことについても、これから記していこうと思います。

 

 

相続財産管理人に選任されたのは、少し前です。

 

家庭裁判所からご連絡をいただき、引き受けさせていただく旨の回答をしました。

 

その後、まず裁判所へ足を運び、事案概要の説明を受けます。

 

同時に、記録の閲覧も行います。

 

あまり具体的には記せませんが、今回は相続人全員が相続放棄をしたケースではなく、当初から相続人が不存在であるケースでした。

 

相続財産に関する情報が少ない類型ですので、相続財産調査が大きな課題になることが予想されました。

 

相続財産の中に自宅土地建物が存在していましたので、すぐに現地に行きました。

 

老朽化が進んでいる場合は補強等が必要になりますし、占有者が存在する可能性もあります。

 

実務上の問題として、害虫や害獣が住み着いていることもあり、業務を円滑に進めるためには、これらの駆除も必要になることがあります。
(実際、蜂に襲われました。これについては、別の記事で紹介します。)

 

一見したところでは、特に問題はなさそうでした。

 

特段傷んでいるところもなく、雑草等も少ない状態でした。

 

家庭裁判所より、相続財産管理人選任審判書を受け取ったら、すぐに登記を行います。

 

これは、亡くなった方の名義であった土地建物が、相続人不存在によって相続財産法人になったことを示すとともに、その管理人が誰であるかを公に示すことを目的とします。

 

これを行っておかないと、後日土地建物を売却換価することもできなくなります。

 

相続財産である土地建物を管轄する法務局(支局)へ行き、登記申請書と審判書等を用い、登記手続きを行います。

 

一般的な相続登記に比べると、必要な書類は少なく、かなり簡単に手続きを完了することができます。

 

もっとも、被相続人の登記上の住所の名称が変わっていた(物理的な住所は同じ)ため、市役所で住所表記が変更された証明書も取得して提出する必要がありました。

 

これにより、約2週間で登記が完了したので、変更後の登記(全部事項証明書)を取得し、裁判所へ報告しました。

【相続放棄シリーズ】28 相続財産管理人選任申立て

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ28回目は、相続財産管理人選任申立てについてです。

 

正確には、相続放棄とは別個の手続きですが、相続放棄後の相続財産の処理のために必要となる場合もあるので、ここで紹介させていただきます。

 

1 相続財産管理人
一言でいうと、相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を清算する役割を持つ人です。

 

被相続人の財産は、相続人がそもそもいないか、または相続人全員が相続放棄をすると、法概念上、相続財産法人という法人になります。

 

相続財産管理人は、この法人の代表者に位置づけられます。

 

そして、被相続人の財産、たとえば預貯金であれば管理口座に移して管理し、不動産であれば汚損や倒壊等を防ぐ等の管理をします。

 

また、裁判所の許可を得て、必要に応じて財産を換価したり、処分したりします。

 

相続人、受遺者、特別縁故者が現れなかった場合、最終的には相続財産を国庫に納めます。

 

2 相続財産管理人が選任されるケース
大まかに3つのパターンがあります。

 

1つめは、元相続人が相続財産の管理に困っているケースです。

 

特に、古い建物が存在する場合です。

 

建物は人が使っていないと、急速に老朽化します。

 

時が経つにつれ、倒壊の危険が高まったり、不法占拠者が現れるなど、トラブルの発生率が上がります。

 

このようになってしまうと、元相続人に対して、何らかの責任追及がされる可能性もあります(あるいは、法的責任はないにせよ、近隣住民や市役所等から、事実上いろいろな要求がされ、対応に困ることもあります)。

 

そこで、相続財産管理人に相続財産の管理責任を委ね、処分をしてもらうという選択をすることがあります。

 

2つめは、債権者が債権回収をするケースです。

 

被相続人に借金がある場合、相続人が返済を免れるために相続放棄をすることがあります。

 

その結果、債権者は相続人に対して支払いを求めることができなくなるため、相続財産の中にめぼしい財産がある場合には、これを換価して弁済を受けるという選択を取ることがあります。

 

この場合、債権者が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをします。

 

3つめは、市町村等が空き家管理のために申し立てるというケースです。

 

近年、被相続人の家屋が放置され、地域の安全が脅かされたり、土地の有効活用ができなくなるという問題が増えています。

 

空き家の中には、相続人が元々不在のものや、相続人全員が相続放棄をしたものもあります。

 

このような空き家について、市町村等が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをし、空き家の処分をするという形になります。

 

3 相続財産管理人選任申立ての手続き
家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任申立書と、付属資料を提出します。

 

付属書類の中には、財産目録がありますので、可能な限り正確に被相続人の財産を調査して、疎明資料とともに提出します。

 

また、相続人全員が相続放棄をしたことで相続人不在となった場合には、相続放棄申述受理通知書の写しや、相続放棄照会結果の写し等を添付します。

【情報セキュリティ】4 セミナー受講2

猛暑が続く季節となりました。

 

熱中症予防と体調管理には気を付けたいところです。

 

前回に引き続き、セキュリティ対策セミナーで学んだことについて記していきます。

 

今回は、テレワーク普及に伴って増えたサイバー攻撃についてです。

 

 

1 偽の会議招集等
コロナウィルスの蔓延により、テレワークやオンラインミーティングが普及してきました。

 
士業においてもテレワークをする方は増えましたし、会議やセミナーなどもオンライン出開催されることが増えました。

 
ネットワークを介して業務環境やミーティング環境へ接続する以上、接続先を指定する必要があります。

 
接続先情報は、メールなどで発信されることが多く、メールに記載されたアドレスにアクセスすることで、オンラインでの業務が可能となります。

 
この仕組みを悪用し、あたかもセミナーやオンラインミーティングの招集を装ったメールを送信する手法があります。

 
メールに記載された接続先にアクセスすると、マルウェアを仕込まれたりするという仕掛けです。

 
これに対しては、見覚えのない招集が来た場合、いったん疑ってみる以外の対処法はありません。

 

 

2 PC画面ののぞき見
非常に原始的かつ古典的な情報漏洩です。

 
オンラインで業務をすることができる環境が整うと、当然執務室以外の場所でPCを開く機会が増えます。

 
自宅の自分の部屋や、ホテルの部屋などでPCを開く分には問題は少ないですが、カフェや電車など、他の人が画面を見ることができる環境でPCを開いてしまうと、場合によっては機密情報を見られてしまいます。

 
特に、今はスマホを用いて誰でも長時間の録画が可能です。

 
PCの画面を録画されてしまう可能性もあります。

 
PCののぞき見は、のぞき見が起きる環境でオンライン業務を行わないことでしか、対策を取ることができません。

 

 

3 オンライン会議の盗み聞き
PCののぞき見と同様に、他の人に聞かれる環境でオンライン会議をしてしまうと、会話の内容を知られることがあります。

 
特に、イヤホンをセットしてオンライン会議をしてしまうと、自覚なく大きな声で話してしまうことが多いです。

 
その結果、少し離れている場所にいても、会話の内容が聞こえてしまうことがあります。

【情報セキュリティ】3 セミナー受講1

令和3年8月になりました。

 

今年も35℃を超えるような日もあり、健康管理上、熱中症対策が大切です。

 

さて、先日弁護士ドットコム様開催の弁護士向けセキュリティセミナーを受講しました。

 

セミナー講師は、前職時代にセキュリティ診断を依頼したこともある、LAC様でした。

 

小職がセキュリティの現場に関わっていたのは10年近く前なので、最新の動向を学ぶうえで、大変参考になりました。

 

以下、今回と次回に渡り、学んだことを、私見を交えて紹介します。

 

 

1 アンチウィルスソフトだけではダメ
サイバーセキュリティ対策の手法として、最も基礎的かつポピュラーなものの一つは、(ネットワークにつながっている)PCにアンチウィルスソフトを導入することです。

 
もちろん、これは必ず行わなければならないと言っても過言ではないセキュリティ対策です。

 
しかし、アンチウィルスソフトは、セキュリティ事故発生の確率を下げることができるにすぎません。

 
アンチウィルスソフトには、2つの弱点があります。

 
1つは、真新しいマルウェアに対しては無防備であるという点です。

 
マルウェア検出方法のうち、最もポピュラーなものは、パターンマッチング法です。

 
これは、プログラムの文字配列を見て、マルウェアであるか否かを判断する手法です。

 
この手法は、前提として、アンチウィルスソフト側で、マルウェアプログラムの文字配列データを保持している必要があります。

 
そのため、文字配列データがない最新のマルウェアを検出することができません。

 
この現象は、ゼロデイ・エクスプロイトなどと呼ばれます。

 
もう1つは、平時行われる動作を用いた攻撃を防げないという点です。

 
具体的には、マルウェアを仕込んだ不正なウェブサイトへのアクセスを防げないという点です。

 
インターネットの閲覧は、通常の業務でも行うため、アンチウィルスソフトからすると、見分けがつきません。

 
このような攻撃に対しては、インターネットゲートウェイにおける出口対策をする必要があります。

 
もっとも、出口対策も、ゼロデイ・エクスプロイトに対しては対抗できません。

 

 

2 サイバー攻撃の多くは金銭を目的としたもの
最近よく聞くマルウェアの一つに、ランサムウェアと呼ばれるものがあります。

 
これは、感染したPC内のファイルを暗号化し、暗号化解除と引き換えに金銭を要求するというマルウェアの一種です。

 
重要なデータが暗号化されてしまうと、業務の進行や取引などの重大な支障が生じることから、身代金支払に応じてしまうケースもあります。

 
サイバー攻撃というと、一般的なイメージとしては、一部のマニアが愉快犯的にマルウェアを作り出してばら撒いたり、特定の思想信条を有する人が国や大資本組織を攻撃するというものがあるかと思います。

 
もちろん、このようなケースもありますが、大半は金銭目的によるものです。

 
もっとも、金銭目的による攻撃者は、闇サイトから攻撃ツールや脆弱性情報を取得して、攻撃を行います。

 
その大元の攻撃ツール、脆弱性情報を提供している人は、愉快犯なのかもしれません。

【情報セキュリティ】2 原始的な対応が一番大切

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

本格的に暑くなる時期が迫って参りました。

 

体調管理には気を付けたいところです。

 

今回は、前回に引き続き、情報セキュリティのお話です。

 

 

1 システム分野における情報漏洩のイメージ
情報を外部から盗み出すというと、どのようなイメージを持たれますでしょうか。

 

高度な技術を持ちながらも、これを悪用する人が、日夜黒い画面(CUI)に複雑なコマンドを入力し続け、企業等のシステムに侵入して情報を抜き出す、という場面を想像するかもしれません。

 

あるいは、何万行ものプログラムで構成されたコンピューターウィルス(マルウェア)を作成し、ネットワークに載せて流すことで、コンピューターウィルスに感染したシステムから情報を流させるというイメージもあるかもしれません。

 

もちろん、これは間違いではないです。

 

実際、このような形でデータが流出することもあります。

 

(企業のウェブシステムのアウトサイドファイアウォールのログなどを見ると、毎秒のようにポート番号をスキャンされていたりします)

 

このような攻撃に対する対応はもちろん大切ですが、これはシステム技術者に任せるしかありません。

 

情報漏洩対策は、上記のような高度な技術を持った攻撃に対するものだけでは足りません。

 

むしろ、もっと身近な場所で、原始的な手法によって発生する情報漏洩の方が多く、これに対する対応の方が重要です。

 

そしてこれは、システム技術者はもちろんですが、事業に携わる方全てが行わなければなりません。

 

 

2 原始的な原因による情報漏洩
先に例を列挙すれば、パスワードの盗み見・盗み聞き、書類の持ち出し・スマホでの撮影、メール・FAXの誤送信、USBメモリによるデータの抜き出しなどが挙げられます。

 

これらは、いずれも特殊な技術は要りません。

 

システム技術者でなくても、誰でもできてしまう(起こってしまう)ことです。

 

私の知っている事務所では、辞めた従業員が夜中に顧客ファイルをごっそり運び出し、そのまま連絡が取れなくなったいうこともありました。

 

従業員の出入りの管理や、鍵の回収等、システムとは全く無関係な、原始的な対策をしっかり行わないと、このような形で情報セキュリティが保てなくなります。

 

情報漏洩の多くは、内部の者(内部に出入りする者含む)による、意図的な持ち出しか、または過失による流出です。

 

意図的な持ち出しは論外ですが、過失による情報漏洩は、起こしてしまった当の本人も、深刻な精神的ダメージ(場合によっては損害賠償責任)を負います。

 

そのため、仕組みでもって、原始的なセキュリティ事故が起こらないようにすることが大切です。

【情報セキュリティ】1 情報セキュリティスペシャリスト

令和3年7月になりました。

 

これから暑い日も増えてくると予想されます。

 

熱中症には気を付け、しっかりエアコンを入れ、水分補給を行うことが大切です。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は、情報セキュリティについてのお話です。

 

 

1 顧客情報
私は、弁護士になる前、航空会社の情報システム部門に勤務していたことがあります。

 

航空会社は、膨大な数の搭乗者の方の情報を扱います。

 

また、マイレージ関連のサービスにおいては、ご住所やご家族の情報など、非常にセンシティブな情報を扱わなければなりません。

 

航空サービスは、政治家や著名人の方なども使用します。

 

そのため、顧客情報は極めて厳重に取り扱わなければなりません。

 

もちろん、航空業界に限らず、お客様の重要な情報を扱うお仕事であれば、顧客情報の管理は重要な課題となります。

 

弁護士の業務も、お客様の財産に関する情報や、身分関係の情報など、非常にセンシティブなものを扱いますので、細心の注意が必要となります。

 

 

2 情報セキュリティスペシャリスト
そこで当時の私は、仕事の一環として情報セキュリティを体系的に学ぶため、情報セキュリティスペシャリスト(現在は廃止され、後継資格として情報処理安全確保支援士)という資格試験の勉強をしていました。

 

情報セキュリティスペシャリストは、情報処理の促進に関する法律に基づき、経済産業省の管轄で、独立行政法人情報処理推進機構が実施する、国家認定資格のうち、専門性、複雑性、責任性、規模が大きい高度情報処理技術者試験の一つとして位置づけられていました。

 

1回不合格となったものの、高度情報処理技術者試験としては珍しく春と秋の年2回試験が実施されていたので、1年以内に2回目の受験で合格することができました。

 

出題範囲は幅広く、暗号化やサイバー攻撃手法の意義を問うものから、プログラミングの脆弱性、ネットワーク(ファイアウォール含む)の構築・設定ポリシー、人的対策など、様々な問題が出題されました。

 

 

3 セキュリティのリテラシーはシステム関係者以外にとっても重要
システムに関する分野は非常に多岐にわたります。

 

多くは、システム関係者側にとって必要な知識です。

 

もっとも、セキュリティ関しては、システム関係者だけでなく、システムを利用する側も十分に知っておくべきものであると考えております。

 

さらにいえば、情報漏洩は、システムに起因するとは限りません。

 

極端な話、事業所の鍵を閉め忘れた隙に、顧客ファイルを持ち去られるということもあります。

 

このような事象に対する対策も含め、セキュリティリテラシーは、事業に関わる方すべてにおいて、高度なものが求められると考えております。

 

【相続放棄シリーズ】27 債権者側の対応2

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ27回目となる今回も、債権者サイドについてのお話をします。

 

今回は、特に問題となりがちな、被相続人が賃貸住宅に住まわれていた場合の、賃貸人の対応です。

 

1 相続放棄と賃貸物件
相続人が相続放棄をする場合、被相続人の賃貸物件との関係では、大きく分けて2つの問題があります。

 

1つは、賃貸物件の賃貸借契約の問題です。

 
賃貸借契約によって発生する被相続人の賃借権は、相続財産となります。

 
一般論として、賃借権は価値の高い財産であることから、相続人が賃貸借契約を合意解除してしまうと、相続財産の処分に該当してしまう可能性が残ります。

 
その結果、相続放棄ができなくなる可能性があります。

 

もう1つは、被相続人の残置物です。

 
被相続人の残置物も、相続放棄をする場合、原則として一切処分することができません。

 
実務上、売却できない(換価価値がない)ものについては、相続財産を形成しない(いわゆるゴミの扱い)ものとして、処分しても問題ないとすることもあります。

 
しかし、相続財産の処分として見られる可能性も残ります。

 

2 賃貸人側の立場
上記の問題は、相続放棄をしようとしている相続人以上に、賃貸人側として非常に深刻なものだと考えられます。

 

賃貸借契約が解除できず、かつ残置物を除去することもできない状態では、新たな賃貸人に家屋を貸すことができません。

 

そのため、賃料を得ることができない状態が、長期間にわたって生じるリスクがあります。

 

法的に解決するとすれば、すべての相続人が相続放棄をするのを待ち、裁判所へ相続財産管理人選任の申立てをしたうえで、賃貸借契約の解除と残置物の処分をすることになります。

 
(もし被相続人に財産があれば、未回収の賃料等を回収できる可能性もあります)

 

もっとも、相続人全員が相続放棄をするのを待つだけでも相当な時間がかかります。

 

大まかに見ても、兄弟姉妹(場合によってはその代襲相続人)まで相続放棄を終えるには、6か月以上かかる可能性があります。

 

さらに、その後に相続財産管理人選任申立てをし、相続財産管理人の選任を待って財産の処分が完了するまでも、相当の期間を要します。

 

その間、家屋を貸し出すことができませんので、機会損失は相当なものとなります。

 

3 私見
相続放棄と、被相続人の賃貸借契約との間の問題については、現行法での解決には限界があると感じています。

 

被相続人の残置物については、財産的価値がないことを証明できるようにしたうえで処分することもありますが、現行法上、相続人側がリスクを負うことになります。

 

賃貸借契約を消滅させるためには、相続人と賃貸人との間で合意解除をすることはできないため、賃貸人側から賃料未払い等を理由とした法定解除をしてもらう必要があります。

 

そもそも、賃借人が亡くなり、その相続人が相続放棄をするリスク自体が、あまり認識されていないという現状もあるかと思います。

これは私の思い付きでしかありませんが、一つの方法として、賃貸人は賃貸用不動産を取得する際、不動産会社が賃借人の死亡とその相続人が相続放棄をし得る旨を説明し、かつ、そのような場合に備えた保険商品などができてくれればよいのではないかと考えております。

【相続放棄シリーズ】26 債権者側の対応1

令和3年6月になりました。

 

梅雨の時期なので、天候の変化はもちろん、食中毒等にも気を付けたいところです。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ26回目です。

 

今回は、相続放棄がなされた際の、債権者側の対応のうち、金銭債権を有している貸金業者や金融機関側の対応を考えてみます。

 

1 相続放棄の効力

まず、原則の確認です。

 

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになります。

 

この効力は非常に強力です。

 

元相続人は、被相続人の財産・負債に関しては、(管理責任を除き)完全に無関係の存在になります。

 

被相続人にほぼ財産がなく、負債のみがあった場合は、元相続人には管理責任もありません。

 

本来的には、相続人は、被相続人の金銭債務のうち、法定相続割合に該当する部分を負担します。

 

そのため、債権者は、相続人に対し、法定相続割合の限度で、被相続人の債務の弁済を求めることができます。

 

しかし、相続人が相続放棄をした場合、法的に被相続人の債務を負わなくなくなりますので、請求は不可能となります。

 

2 法定単純承認事由

相続放棄は、法定単純承認事由に該当する行為がなされていた場合、効力を失います(正確には、単純承認になります)。

 

債権者としては、債務者である被相続人の相続人が相続放棄をしたとしても、法定単純承認事由が存在することを主張し、相続放棄の効力を覆して、金銭の支払を請求できる途はあります。

 

もっとも、実務上、これを行うのは容易ではないことが多く、実際このような請求がされるケースは非常に少ないです。

 

相続放棄をした元相続人が、任意の支払に応じることはほぼないため、もし支払いを請求するのであれば、訴訟等によるのが通常です。

 

債権者側は、金銭消費貸借契約の存在や、相続の発生を請求の原因として、元相続人に請求します。

 

これに対し、元相続人は、相続放棄をしていることを理由に、支払う義務はない旨の反論をします。

 

そして、債権者側が再反論として、法定単純承認事由の存在を主張することになると考えられますが、この時、法定単純承認事由の存在を、証拠を以て証明しなければなりません。

 

被相続人の不動産を相続し、名義変更も行ったうえで売却したなど、客観的記録である不動産登記情報を以て証明可能であるような場合を除き、法定単純承認事由の存在を証明することは、一般的には非常に困難です。

 

3 実際の金銭債権者の対応

相続放棄をした元相続人に対し、被相続人の金銭債務の履行を求めることは容易ではありません。

 

債権額が大きく、かつ法定単純承認事由の存在を容易に証明できそうな場合を除き、相続放棄をした元相続人に対して支払いを求めることは、労力・費用対効果の面において合理的でないことが多いです。

 

そのため、多くの場合、相続人が相続放棄をすることを伝えた段階で請求を一時停止し、相続人が相続放棄をしたことを知った段階で回収不能として処理します。

 

貸金業者や金融機関としては、相続人が遠縁である場合などは、回収不能として処理をするために、相続放棄申述受理通知書の写しが必要という場合もありますので、相続放棄が完了したら、相続放棄申述受理通知書の写しを早急に提供します。

【受験シリーズ】11 純粋未修者

令和3年も5月になりました。

 

暖かくなってきたので、コロナウィルス感染も減っていくことを祈ります。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は、受験シリーズ第11回目です。

 

1 純粋未修者
ロースクールにおける造語(スラング)の一つに、純粋未修者という言葉があります。

これは、ロースクールの未修者コース(3年間)に入学し、法学部出身ではない人のことを指します。

前提として、ロースクールには大きく2つのコースがあります。

1つは、法律を勉強したことがない人(未修者)向けのコースです。

3年間のカリキュラムで修了となります。

もう1つは、法学部などで法律を勉強した人(既修者)向けのコースです。

2年間のカリキュラムで修了となり、入学試験に合格しないと入れません。

本来的には、未修者向けコースは、法学部出身者ではない人を想定したコースです。

しかし、現実には、法学者出身の人がたくさんいます。

少なくとも、私が入学したときはそうでした。

そのため、未修者向けコースの中でも、法学部出身者でない人のことを、法学部出身者と分ける趣旨で、「純粋」未修者と呼ぶことがあります。

私は理工学部出身で、法律とは関係のない仕事をしたのちにロースクールへ入学しましたので、純粋未修者でした。

 

2 純粋未修者には厳しい現実
純粋未修者は、法律に関するバックグラウンドが全くありません。

既修者や、法学部出身の未修者と比べ、スタートラインで大きく出遅れる形となります。

法律の知識だけでなく、答案作成経験や、点取りテクニックなど、あらゆる面で差があります。

ロースクールは基本的に相対評価であり、ロースクールによっては相対的成績下位者を留年させることもありますので、純粋未修者は進級すら危ぶまれることになります。

3年で無事修了できる純粋未修者は、入学時の半分以下になることもあります。

 

3 それでも合格できる
私は純粋未修者ですが、何とか1回で司法試験に合格することができました。

純粋未修者であるだけでなく、受験時には30代後半であり、体力も思考力も、大半の受験生よりも劣っていました。

もともとの学力がずば抜けて高いわけでもありません。

本来、司法制度改革は、法律以外の分野出身の人材を法曹界に増やそうという狙いがありました。

純粋未修者が司法試験に合格できないどころか、受験に至ることすらできない現実を、私は変えたいと思っています。