情報セキュリティの話8

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

今回は、情報セキュリティのお話の8回目です。

 

前回はベネッセの顧客情報漏洩事件における、企業側の注意義務について、システム面と人的な側面から検討してみました。

 

次に、注意義務違反が存在したとして、原告(漏洩した顧客情報に含まれていた顧客)に対し、情報漏洩による損害が発生したといえるかという問題があります。

 

具体的には、顧客情報(子及び親の氏名、性別、生年月日、郵便番号、住所、電話番号等)が漏洩しただけで、不法行為に関する責任を定めた民法709条における、「法律上保護される利益を侵害した」といえるかという問題です。

 

【参考条文】
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

これについては、最判平成29年10月23日は次のように判示して差し戻し、差し戻し審において損害が認められました。

 

「本件個人情報は,上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきであるところ(最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)、上記事実関係によれば、本件漏えいによって、上告人は、そのプライバシーを侵害されたといえる。」

 

なお、最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決は、憲法判例百選にも掲載されている有名な判例で、プライバシーにかかわる情報が法的保護の対象になることを示したものです。

 

顧客情報を漏洩させたこと自体が損害を発生させたといえるとして、今度はどの程度の損害が生じたといえるかという問題を検討する必要があります。
この点については、次回お話いたします。

情報セキュリティの話7

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

情報セキュリティに関するお話の7回目です。

 

今回からは、セキュリティにかかわる法的な話題について取り上げます。

 

セキュリティに関する法的な問題が生じる場面には様々なものがありますので、情報漏洩が起きた際の企業の責任という論点について述べていきます。

 

題材としては、一般的にも有名な事件である、ベネッセの顧客情報漏洩事件を取り扱います。

 

ベネッセの顧客情報漏洩に関する裁判例、判例は多数ありますが、企業の過失についての論点が含まれる東京高判令和3年5月27日の裁判例をもとに、システム面、人的な面におけるセキュリティ対策を考えてみます。

 

ベネッセの顧客情報漏洩事件の内容は、要約するとベネッセのIT業務を委託されていた会社において、業務を委任されていた人物が私物スマートフォンを業務用PCに接続してMTP方式で顧客情報を抜き取り、名簿業者に売却したというものです。

 

そして、流出した顧客情報の中に含まれていた顧客が原告となり、ベネッセと、ベネッセのIT業務を委託されていた会社に損害賠償を求めた事件です。

 

ベネッセのIT業務を委託されていた会社にも注意義務違反があったとして損害賠償責任が認められ、その注意義務違反の内容は、次の2つです。

 

ひとつは、執務室内への私物スマートフォンの持込禁止措置を施さなかったことです。
執務室内への私物スマートフォンの持込禁止は、人的な側面におけるセキュリティ対策であり、簡便かつ確実に行うことができる情報漏えい防止の方法といえます。
大量の顧客情報を扱う会社において、この対策が行われていないことについて注意義務違反があったとされました。
(なお、業務への支障があるとして、私物スマートフォンの持ち込みを禁止することができない事情があったという反論もなされましたが、私物スマートフォンの持ち込みには情報漏洩を防止することを上回る利益はないとされました。)

 

もうひとつは、業務PCにおいて、私物スマートフォンへのデータ転送を防ぐセキュリティ設定がなされていなかったことです。
より正確には、業務PCにはセキュリティソフトが導入されており、スマートフォンへのデータ転送を防ぐ設定がなされていなかったわけではありません。
しかし、スマートフォンへのデータ転送放棄にはMSC方式とMTP方式というものがあるうちの、MSC方式のみデータ転送を禁止する設定がなされていました。
当時はMSC方式が主流であったものの、MTP方式の利用も増えており、MTP方式によるデータの抜き出しは予見できたとされ、MTP方式によるデータ転送を禁止する設定を施していなかったことにつき、注意義務違反があったとされました。
これは、システム面におけるセキュリティ対策を施さなかったことについての注意義務違反です。

 

なお、ベネッセについても、IT業務の委託先を適切に監督し、個人情報が漏えいしないように、少なくともセキュリティソフトの設定が適切に行われているか否かの確認を行う義務があったとされ、この義務を果たしていなかったことにつき注意義務違反があるとされました。

情報セキュリティの話6

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情報セキュリティのお話の6回目となります。

 

前回は入口対策についてお話をしましたので、今回は出口対策について説明します。

 

入口対策は外部のネットワークからの侵入やマルウェアの持ち込みを防ぐものであるのに対し、出口対策は社内ネットワークから外部へのデータの流出や不正サイトへのアクセスを防止するためのものです。

 

業務等でインターネットから情報を取得することがある以上、正規の通信の形式で社内ネットワークに入り込むデータを遮断するわけにはいきません。

 

典型的なものとしては、不正なリンク先を記載したメールや、圧縮形式のファイルとなっているマルウェアを添付したメールなどが挙げられます。

 

これらの目的は、個人情報を不正に入力させるサイトへの誘導や、社内ネットワーク上のデータの外部送信です。

 

そこで、社内ネットワークからインターネット方向への通信を監視し、不正と考えられる通信を遮断することができれば、情報流出を防止することができます。

 

これが出口対策です。

 

システム面における出口対策は、社内ネットワークとインターネットとの間に、ゲートウェイを設置し、不正なインターネット向け通信を検知した場合に遮断することです。

 

より具体的には、社内ネットワークからの不正なアクセス先のURLやIPアドレスを検知した場合に、通信を遮断することが基本となります。
これらのURLやIPアドレスの情報については、パターンファイルを随時更新する形で取得します。
(そのため、発生して間もない不正サイトについては対応しにくいという問題もあります(ゼロデイエクスプロイト))。

 

人的な面における出口対策は、セキュリティ対策の基本でもありますが、不審なメールに記載されたURLリンクをクリックしないことや、添付ファイルを開かないことです。
他には、社内ネットワークとは別経路でインターネットに接続可能なPC等を社内ネットワークに接続してはならない旨の規定を定め、守らせることが挙げられます。

情報セキュリティの話5

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今回は、情報セキュリティに関するお話の5回目となります。

 

セキュリティ対策の概念のひとつとして、入口対策と出口対策というものがあります。

 

まず、入口対策についてお話しします。

 

入口対策というのは、インターネットなど、外部から社内ネットワークへの侵入(入口からの侵入)を防ぐというセキュリティ対策です。

 

入口対策は、社内ネットワークという概念ができてから、それほどに時間を経ずになされてきた、基本的なセキュリティ対策です。
現在においては、論じるまでもなくなされているセキュリティ対策と言っても過言ではないと考えられます。

 

具体的には、インターネットと社内ネットワークの間にファイアウォールを設置し、リモートワーク用のVPNゲートウェイ経由の接続など、社内ネットワーク外部からの接続については限定された通信のみが通過できるようにするというものがあります。

 
そのほかにも、マルウェアが添付されたメールがメールサーバーに届く前に遮断するというものや、ファイアウォールで侵入(および侵入の試みと考えられるアクセス)を検知した場合にセキュリティセンターにアラートが上がる仕組みを構築するというものが挙げられます。

 

このように、入口対策は、システム面での対応が基本となります。

 

もっとも、人的な面での対策が不要というわけではありません。

 

最近ではメールサーバーの進化等によって減りましたが、メールに不審なファイル(特に実行ファイル)が添付されている場合には、当該ファイルを開かないように社内教育をすることは今でも大切なセキュリティ対策となります。

 

また、コロナウイルスによってリモートワークが普及したために発生した新たな問題もあります。

 
リモートワークは、ネットワーク通信の観点から見ると、外部からインターネットを経由して、社内ネットワークにアクセスをすることになります。
IDやパスワードなど、リモートワークをする際の接続に関する情報を社外の人に知られてしまうと、不正侵入を許してしまう可能性があります。
これは一種のなりすましでもあるので、システムでは不正な侵入として遮断することができません。

 
そのため、リモートワークに関する接続情報は決して外部の人に知られないよう、しっかりと社内教育をしておく必要があります。

情報セキュリティの話4

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情報セキュリティのお話の4回目となります。

 

前回に引き続き、セキュリティ事故とヒューマンエラー対策についてのお話となります。

 

会社等の組織における代表的なセキュリティ事故としては、データが入ったメディアの紛失(置き忘れなど)、データの誤送信(メール、FAXなど)、メール操作の誤りによるマルウェア感染が挙げられます。

 

今回は、データが入ったメディアの紛失(置き忘れなど)の対策について説明します。

 

データが入ったメディアの紛失の典型的な例としては、職務上のデータが保存されたUSBストレージやノートPC、スマホを、職場以外の場所に落としたり置き忘れてしまったりし、その後見つからなくなってしまうというものが考えられます。

 

これらのメディアが第三者に渡ってしまった場合、その第三者が警察や建物の管理者等に届けてくれない限りは、回収は困難となり、メディア内部の情報を見られてしまう可能性があります。

 

1つめの対応策としては、そもそもメディアを外部に持ち出す必要がない業務設計をする、ということが挙げられます。
大切なのは、メディアを外部に持ち出さないというルールを定めることではなく、メディアを外部に持ち出さなくても円滑に業務が遂行できるようにすることです。
紛失のリスクを負ってまで、業務上のデータが入ったメディアを持ち歩きたい人は、通常いないと考えられます。
黙示のものを含め、現場の担当者では抗えない何らかの事情があり、やむなく持ち出しているということも多いです。

 

2つめの対応策としては、万一メディアを紛失しても、第三者がその中身にアクセスできないようにすることです。
具体的には、パスワードによるロック(できればハードウェアレベルの暗号化)、生体認証によるアクセス制限、遠隔操作によるデータ消去が挙げられます。
ただし、これらの対応策の効果は絶対的なものではありません。
高いデータ復元技術を持つ第三者が操作することで、情報が漏洩してしまう可能性も、ないとまでは言い切れないという点には注意が必要です。

 

結論としては、できる限り外部にメディアを持ち出さなくても済む業務設計をし、どうしてもメディアを持ち出さなければならない事態に備えて、データへのアクセス制御を施すことが、データが入ったメディアの紛失(置き忘れなど)への有効な対策となります。

情報セキュリティの話3

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情報セキュリティのお話の3回目となります。

 

今回は、過失によるセキュリティ事故防止について述べます。

 

これは、人的な面でのセキュリティ対策に属するものであり、主にシステム担当者ではない一般的な従業員等の挙動に着目した対策です。

 

まず、重要な前提として、ヒューマンエラーは発生しうるという概念を念頭に置く必要があります。

 

これは、何らかの作業をする人が、どれだけ誠実な性格を持っていたとしても、そしてどれだけ細心の注意を払いながら作業をしていたとしても、確率論的にミスは生じるという考え方です。

 

筆者は、航空会社に勤めていたことがあり、この考え方は、航空機の整備部門では古くから取り入れられている考え方であると教わったことがあります。
航空機の整備においては、ひとつのミスが大きな危険を生んでしまうことがありますが、それを望んで整備をする方などはいるはずがないのです。
むしろ、これ以上ないくらい緊張感を持って作業をしているにもかかわらず、小さなものも含め、危険が生じてしまうことがあります。

 

ヒューマンエラーの発生は、その作業をした方個人の自助努力だけでは防ぎようがありません(上述の前提は、このように言い換えられます)。
そのため、ヒューマンエラーが実際の事故につながることを抑制するためには、組織的な対応により、セーフティネットを設ける必要があります。
そのような対策をしておらず、ヒューマンエラーによる事故の責任まで個人に負わせる組織は客観的にみても危険であり、従業員の観点からしても、信用できない就労環境であるともいえます。

 

次回以降、代表的なセキュリティ事故と、ヒューマンエラー対策について説明します。

情報セキュリティの話2

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情報セキュリティのお話の2回目となります。

 

前回は、外部からの不正アクセス対策における、システム面、人的な面での対策について書きました。

 

今回は、組織内部からのアクセス対策について書いていきます。

 

まずシステム面における対策については、センシティブな情報が保存されたデータベースへのアクセス制御があります。
具体的には、顧客名、顧客の住所、顧客の連絡先(電話番号)などが保存されているデータベースについては、ローカルネットワークに設けられたファイアウォールの内側に設置し、業務においては特定のアプリケーションサーバーのみがアクセスできるように厳格なアクセス制御をします。
言い換えれば、社内PC等からはアクセスができないようにしておき、顧客のデータをまとめて抜き出すことができない仕組みにしておきます。

 

もっとも、システムである以上、保守運用の際には端末PCからコンソールを使ってアクセスしなければなりません。

 
そこで人的な面での対策として、顧客データの抜き出しを防止するため、ログイン、ログアウト履歴だけでなく、入力コマンドなどの操作全てを記録するゲートウェイを、データベースとコンソールとの間に設置することがあります。
これにより、不正なデータの持ち去りを抑止することができます。
また、操作ミスなど、何らかの過失によって顧客データが消失した際の原因究明にも役立ちます(単なるデータ消失なのか、不正なデータ持ち去り後の隠蔽工作であるかを切り分けることもできます)。

 

顧客データをクラウドサービス上で使用する場合には、サービス提供プロバイダに対して、上述のようなシステム構成とするよう要件定義をし、システム構築段階でサーバー、ネットワーク構成をチェックするとともに、リリース前には、特定のアプリケーションサーバーおよびコンソール以外からのアクセスができないことのテスト結果を確認するということも大切です。

情報セキュリティの話1

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

今回からは、情報セキュリティのお話を載せていきます。

 
以前にも何回か情報セキュリティのブログを書きましたが、2年以上前のことなので、改めて記事を書いていく所存です。

 

情報セキュリティは、どのような業務であっても、とても大切な分野であることに異論はないと思います。

 

弁護士など士業の世界も例外ではなく、むしろ依頼者の方のご住所などの身上に関する情報、財産に関する情報など、非常にセンシティブな情報を扱うことから、厳格なセキュリティ対策が求められるといえます。

 

私は前職において、情報セキュリティに関係する業務に就いていたことがあります。

 

IPAが主催する、情報セキュリティスペシャリスト(現在の情報処理安全確保支援士に近いもの)試験にも合格しています。

 

当時は、外部からの不正アクセス対策、組織内部からのアクセス対策、そしてマルウェア(一般的にコンピューターウイルスと呼ばれるもの)対策を行っていました。

 

いずれの対策においても、システム面での対策と、人的な面での対策が必要となります。

 

そして、この2つの面における対策は、車の両輪のようにつながっており、どちらか一方のみ対策をしても、高い効果は望めません。

 

まず、外部からの不正アクセスについては、ファイアウォールの設置(ポリシー設計)や、VPNシステム設置・管理など、システム面での対策が基本になると考えられます。
外部ベンダーのデータセンター(いわゆるクラウド)を使用する場合には、セキュリティに関する詳細な要件定義をするとともに、設計のレビュー、システムテスト結果の確認を行い、外部からの不正アクセスを防止できる作りになっているかの確認も必要になります。

 

そして、人的な面での対応としては、過失による設定ミスの予防、発生時の早期対応ができるようにしておくことが必要となります。
システムに限らず、たとえ誠実で真面目な人が作業を行ったとしても、ヒューマンエラーは確率論的に起き得るということを前提にします。
設定変更は2名以上の体制で行い、かつ作業時の入力コマンドの履歴を残す、変更後の設定データのスクリーンショットを撮るなどし、リリース作業内容に間違いがないかを逐一確認するようにします。
また、設定ミスが放置されることを防ぐため、定期的なペネトレーションテストを行い、不正アクセスが可能な状態になっていないかも確認します。

 

システム面、人的な面のいずれかにおいて、故意または過失があり、損害が生じた場合、誰がどのような責任を負うのかが問題となります。
一般的に、システムに関する法的なトラブルは、責任の所在がとても複雑になります。
そのため、開発、保守運用の契約において、ユーザーとベンダーの役割分担などを明確にしておく必要があります。
リリース体制や作業内容の履歴を記録することも、故意や過失の発生を防止するとともに、もし損害が発生した場合の調査を可能にしてくれます。

 

次回は、組織内部からのアクセス対策について書いていきます。

空き家活用の話18

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

空き家については、増加していることが問題とされることが多いです。

 

しかし、少し前のNHKのウェブサイトの記事によれば、移住希望者の数に対して、空き家の数が足りないという地域があるとのことです。

 

https://www.nhk.jp/p/ts/2W7WM664QP/blog/bl/p49ydrXMn4/bp/pOBXX6373a/

(リンクは公開時点のもの。リンク切れの際はご容赦ください。)

 

空き家の数が足りていないがゆえのことではありますが、老朽化した古民家を修繕して住む方もいらっしゃるという点はすごく良いと感じました。

 

家を修繕して使い続けるという文化が根付くことで、家は消耗品ではなく資源・資産になると思います。
(もちろん、日本は台風や地震など、家がダメージを受ける自然現象が多いので、限界はあるとは思いますが)

 

普段、相続財産清算人の業務などで一軒家を清算する場合、多くは現状有姿で売却し、その後解体されます。

 
残置物がとても多かったり、10年以上放置されていてひどく傷んでいる家も多いので、解体することはやむを得ないと考えつつも、心のどこかでは家を再生できたらよいのにと思うことはありました。

 

修繕が必要であるがゆえに、購入の候補から外れてしまう空き家もあると思います。

 
そこで、大工さんなどのプロの方ではない方でも、ある程度簡易な修繕であればできるという技術を持つようになれば、選ぶことができる空き家も増えると考えております。

空き家活用の話17

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

NHKのウェブサイトに、「遺品部屋」という名称で、空き家となった集合住宅の部屋についての特集が掲載されていました。

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231024/k10014235141000.html

(リンクは公開時点のもの。リンク切れの際はご容赦ください。)

 

ご高齢で直系尊属がすでにおらず、かつ配偶者や子供がいない(または先にお亡くなりになられている)場合、兄弟姉妹がいれば兄弟姉妹が相続人になります。

 

取り上げられているケースは、マンションやアパートなどの集合住宅に独居していた高齢者の方がお亡くなりになられたというものです。

 

もっとも、ご高齢の方の場合には兄弟姉妹の方もお亡くなりになられていることもあり、兄弟姉妹の子(いわゆる甥や姪)が相続人になることが多くあります。

 

甥や姪になると、お亡くなりになられた方とは疎遠であることも多いです。

 
集合住宅の管理者等が弁護士等を通じて連絡をするまで、甥や姪は、叔父や叔母にあたる被相続人がお亡くなりになられたこと自体を知らないということもあります。

 

そして、集合住宅の部屋以外にはめぼしい財産もなく、逆に多量の残置物(いわゆるゴミ)があったり、管理費の滞納が多額にのぼっているということさえあります。
(ご生前の段階から事理弁識能力を失って管理費が払えていなかったり、お亡くなりになられた後、長期間が経過することで管理費の滞納額が増えます)

 

このような状況であると、相続人としては、よほど時間にもお金にも余裕がある場合を除き、相続放棄をせざるを得ないというのが現状であるかと考えられます。

 

相続人は相続放棄により(相続財産を現に占有していない限り)一切の責任を免れますが、遺品部屋は物理的には残り続けます。

 

このままでは遺品部屋の中の残置物処分も、遺品部屋の売却も、管理費の回収もできないため、管理者等や他の住民の方が困ってしまいます。

 

どうにかするには、利害関係人(本件であれば管理費の債権者である管理者等も該当します)が相続財産清算人の選任申立てをしなければなりませんが、これには専門知識に加え、100万円程度の予納金が必要となります。

 

これは、決して小さいとはいえない負担です。

 

個人的には、この部分を何とか手当てする仕組みがあればという思いがあります。 

今回のケースとは異なりますが、賃貸住宅においては、住民がお亡くなりになられた際、残置物の処分権限は賃貸人に移り、撤去が可能となる旨の条項を含めた契約書モデルなども存在します。

 

これによって、賃貸物件が塩漬けになることを防ぎ、再び他の方に貸すことができるようになります。 

今回のようなケースにおいては、思い付きのレベルではありますが、例えば集合住宅の持ち主がお亡くなりになり、かつ相続人不在(もともと不在または相続人が全員相続放棄をした)の場合には、相続財産清算人選任申立ての弁護士費用及び予納金をカバーするという内容の管理者向け保険商品があればと思う次第です。

空き家活用の話16

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

職業柄、通勤以外の場面においても、電車で移動することがしばしばあります。

 

都心部以外を走行している際、特に住宅の多い地域で窓の外を眺めていると、空き家なのではないかと推察される建物が見えることがあります。

 

そのような建物が駅の近くにあることもあり、仮に本当に空き家であったとすると、個人的にはもったいなさを感じることもあります。

 

経験上、次のような特徴がある建物は、空き家である可能性があります(もちろん、何らかの事情を抱えた方がお住まいの可能性もあります)。

 

①ツタや草木が建物や敷地内で伸び放題になっている

②塀や窓が破損している、金属製の外壁がボロボロに腐食している

③常に雨戸が閉まっている、玄関ドアが板などで塞がれている

 

①は、個人的にはもっとも典型的な特徴であると考えております。

 
特に、玄関を草木が覆いつくしている場合、出入りが長年なされていないということになります。

 

②については、住人がいるものの単に修理ができない事情があるということも考えられますが、住居の機能を著しく損なった状態のままであるのは、住居として使用されていない可能性があります。

 

③については少し特殊ですが、近隣の方が当該建物が空き家であることを知っていて、防犯のために外側から雨戸を閉めたり玄関ドアを塞いだりしたという可能性があります。

 
実際、私が管理した空き家のひとつは、玄関ドアが施錠されていない状態であったので、釘で打ち付けられていました。

 
おそらく最後の住人の方が、施錠をしないままお亡くなりになり、そのことを知った近隣の方がご厚意で防犯のために玄関ドアをふさいでくれたのだと思います。

空き家活用の話15

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

住宅不足の解消策として、京都市では空き家税(正確には「非居住住宅利活用促進税」)を導入する予定です。

 

https://www3.nhk.or.jp/news/contents/ohabiz/articles/2023_0412.html

(リンクは公開時点のもの。リンク切れの際はご容赦ください。)

 

京都市内では現在、特に市の中心部において住宅の価格が高騰し、住宅の手配ができない世代がやむを得ず市外に流出しているという問題があるとのことです。

 

一方、京都市内には10万軒以上の空き家があります。

 

そこで、空き家に対して課税をすることで、空き家を売却したり賃貸したりする動機づけをし、これまで住宅の購入等が難しかった方が住宅を手配できるようにして人口流出を抑えるというのが空き家税の狙いです。

 

ここからは私見ですが、特に人口の多い地域で空き家が増えてしまうと、住宅不足と住宅価格の高騰を引き起こすと考えております。

 

空き家は、存在している限り、その敷地を他の方が利用することができません。

 

そして、空き家が増えれば増えるほど、宅地として使用できる土地は減っていきます。

 

その結果、物理的に住宅が不足していくとともに、宅地の希少価値が上がり、住宅の価格が高騰してしまうことになります。

 

すでに相続人が不存在となってしまった空き家については、家庭裁判所を通じた手続きにより清算をしない限り流通させることはできませんが、まだ所有者が存在している空き家については、所有者の意思により流通させることができます。

 

家を売るということに対する精神的な障壁は決して低いものではなく、課税という手段が本当に適切かという観点もあります。

 
もっとも、空き家の所有者に、空き家の売却等を強く動機づける手段が他にあるかというと、それもすぐに思いつくものではありません。

 

京都市以外にも、空き家が多数存在する自治体はあります。

 
今後、各自治体が空き家に対してどのような対策を講じていくのか、とても興味深いところです。

空き家活用の話14

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

東京近郊のベッドタウンを散策すると、空き家になっていると思しき家屋を時折見かけます。
(職業柄、勘が鋭くなっています笑)

 

明らかに樹木が覆い茂っていて一切管理されていない状態の家屋もあれば、親族や近所の方が手入れをしていてきれいな状態が保たれている家屋もあります。

 

そして、あくまでも客観的なデータ調査等はしていない、主観的な話ではあるのですが、ここ最近、東京近郊のベッドタウンにある空き家が処分され、新たな家が建てられていく傾向にあると感じております。

 

私が昔から知っている、少なくとも10年以上は放置されていて、見るからに老朽化が進んで危険な状態であった家屋も(しかも、近隣の方の話によれば、持ち主はすぐ近くにお住まいとのこと)、今年に入って大手の不動産業者が買い取り、解体されて更地になりました。

 

背景のひとつには、コロナ禍によってリモートワークが普及したことがあるのではないかと思っています。

 

コロナ禍の前は、職住近接など都心に住む価値観が優勢で、東京近郊のベッドタウンは廃れていく様相を呈していました。

 
私自身も数年前までは東京の中心に近い場所に住んでいましたし、実家のあるベッドタウンはバスの本数やゴミ回収の回数が減るなどしていました。

 

ところが、コロナ禍後は、フルリモートの業務形態を設ける企業なども現れ、通勤の負荷などが問題にならなくなったことから、多少都心から遠くても安くて良い住環境が得られるベッドタウンに住居を構えたいという方が増えたのではないかと思います。

 

実家の近所においても、つい最近、駐車場であった土地をデベロッパーが買い取り、小さく分割されて複数の分譲住宅が建設されたりしています。

 

少し前までは、ベッドタウンの家は、相続時にはいわゆる「負」動産になるという風潮がありましたが、思わぬところで(土地の)価値が上がり、価値のある財産になってきたのかもしれません。

空き家活用の話13

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

今回は、空き家の管理や処分をする際に、現場レベルで問題となる、残置物についてお話しします。

 

残置物とは、家屋の中に残されている物の総称です。

 

代表的なものとしては、机やいす、ベッド、テレビ、冷蔵庫、タンスなどの家財道具や、着古した衣類などが挙げられます。

 

残置物が空き家管理や処分に及ぼす影響としては、次の2点が考えられます。

 


財産に関する資料や価値のある財産を調査する作業の負荷が上がる。

 


処分費用がかかる(残置物込みで現状有姿で売却した場合には、処分費用相当額の値引きがなされる)。

 

1については、通常の生活相応の量の家財道具であれば、あまり大きな問題にはなりません。

 
問題になるのは、何らかのご事情によって多量の物品や廃棄物が家屋内に溜め込まれてしまったまま(いわゆるゴミ屋敷状態)、持ち主がお亡くなりになられたというケースです。

 
このような場合、家屋内部の捜索に要する労力はとても大きなものになります。

 
また、物が倒れてきたり、粉塵を吸い込むといった危険性もあるので、これらを回避するための準備も大切です。

 
食品など、腐敗する可能性のあるもの(またはすでに腐敗しているもの)は、放置すると汚損が進んでしまうので、すぐに回収して処分する必要があります。

 
実際私は、ゴミの山の中から、お亡くなりになられた方の預貯金や現金を発見し、管理対象としたこともあります。

 

2については、管理をする人が自力で処分することができれば、費用は相当抑えられますが、現実には難しいこともあります。

 
実際には廃棄物回収の専門業者へ依頼することになると考えられますが、その場合は数十万円の費用がかかります。

 
空き家を改修して住んだり、貸したりする意思がなく、売却する場合には残置物を残したまま現状有姿で買い取ってもらうという方法もあります。

 
この場合、残置物の処理は買主側が行うことになるので、費用負担も買主になります。

 
売却価格は、残置物の処分費用を差し引いたものになりますので、土地の価値や家屋の再利用の可否などの諸条件によっては、売却価格はとても低くなる可能性があります。

 
私が管理していた空き家においても、家屋内には多量の残置物があり、土地の面積は小さく、家屋も取り壊すしかないほど老朽化していたため、東京近郊ではありましたが、売却価格は50万円程度となったケースもあります。
(それでも引き取ってもらえただけ助かりました)

空き家活用の話12

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

今回は、所有者不在・所有者不明の空き家に関して、法律的な観点のレベルではないのですが、問題意識のレベルで感じることについて述べます。

 

相続人が不存在になってしまった空き家や、所有者が不存在または連絡が取れない空き家を再び流通させることができる制度として、相続財産清算人や不在者財産管理人、所有者不明土地管理制度があります(所有者不明土地管理制度の場合、土地とその上の建物が対象)。

 

これらの制度においては、空き家やその敷地の活用の観点からは、現状2つのハードルが存在すると思っております。

 

1つめは、空き家やその敷地を買いたいだけの方は、申立権者になれないという点です。

 

空き家やその敷地から、何らかの侵害を受けている隣地所有者など、法的な請求権を有している方であれば申立ては可能と考えられますが、そうでない場合には現状として申立ては難しいといえます。

 

また、仮に空き家やその敷地を買いたい方が申立てをして、清算人や管理人が選任されたとしても、必ずしもその申立てた方に売り渡すことができるとは限りません。

 

不動産の売却は裁判所の許可を得る必要があるため、他により良い条件で買い受けるという方がいる場合、一般論としては、そちらに売り渡すことになってしまいます。

 

住宅地などの場合、空き家が存在している土地の隣地所有者が、当該土地の買受けを希望することがあります。

 

このような場合、実務上は、いったん専門業者の方に現状有姿、境界確定なし、契約不適合責任免除の条件で買い取ってもらい、この専門業者の方が諸問題を片付けた後で隣地所有者の方に買い取ってもらうという形になることもあります。


(ボロボロの空き家が存在し、塀なども壊れている土地建物の場合、専門業者でない方に契約不適合責任免除で売却するのは、現実的には難しいです)

 

2つめは、予納金が高額になる可能性があるという点です。

 

相続財産清算人選任の申立ての場合、被相続人の財産状況によっては、裁判所の裁量で予納金の減額がなされることもありますが、一律で100万円としている裁判所もあるともいわれています。

 

所有者不明土地管理制度の方の予納金は、相続財産清算人選任申立てに比べると低めになるとは聞いてはおりますが、まだ始まったばかりの制度ですので、相場が固まっていないというのが現状であると考えられます。

 

予納金を何らかの形で手当てすることで、申立人の負担を軽減するスキームを組むことができるのが望ましいと思っています。

 
思い付きのレベルですが、空き家やその敷地を買いたい方が、申立権者に予納金等を出資して相続財産清算人選任申立てをし、その後空き家やその敷地を買いたい方が当該不動産を買い受ける、というような仕組みがあったらな、と思います。

空き家活用の話11

本ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

 

弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

今年、土地所有法制が大きく変わりました。

 

相続土地国庫帰属制度、所有者不明土地管理制度、管理不全土地管理制度が施行され、すでに申立ても行われはじめています。

 

使い勝手の面では様々な意見が出されているところですが、まだ始まったばかりの制度ですので、これから少しずつブラッシュアップされていくのではないかと思います。

 

利用や管理が困難になってしまっていた土地や建物に対応する制度が生み出されたこと自体が、大きな一歩だと感じています。

 

これらの制度は、現時点においては、区分所有建物についてはカバーされていません。

 

マンションなどの区分所有建物においても、所有者が不明になっていたり、誰も済んでいない状態になっているものが増えています。

 

区分所有建物については、例えば共用部分の変更決議や建て替え決議など、戸建ての建物にはない特有の管理手続きが存在します。

 

そして、所有者と連絡が取れない区分所有建物が増えてしまうと、これらの手続きをとることができず、マンション全体の管理が滞ってしまうという問題があります。

 

また、放置され続けているなど、管理不全の専有部分が存在している場合にも、適切な管理を行えるようにする必要もあります。

 

所有者の所在がわからなかったり、所有者と連絡が取れない区分所有建物の管理については、現在法制審議会でも検討がなされているとのことですので、今後の展開に注目したいところです。

空き家活用の話10

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

ニュースサイトなどをチェックしていると、空き家に関する記事をよく見かけるようになりました。

 

京都では空き家などに課税するいわゆる空き家税の導入がなされることが決定したり、高級住宅地として有名な東京の世田谷区は全国の自治体の中で最も空き家が多いという話題が出てくるのは、空き家に対する関心の高まりを表しているのだと考えられます。

 

これらの空き家の中には、所有者がいるが居住・管理がされていないものと、相続人不在により所有者がいなくなってしまったものが混じっていると考えられます。

 

令和5年4月1日以降は、どちらのケースにおいても、法律上対応ができるようにはなりました。

 

空き家が増えることの問題は、主に2つあると考えております。

 

1つめは、倒壊や汚損、獣害・虫害、不法占有などによる、近隣住民からみた住環境の悪化です。

 

実際、近隣住民から住環境が悪化している旨の申入れを受けた自治体が、相続財産清算人(旧相続財産管理人)選任の申立てをするというケースもあります。

 

もう1つは、住宅地の供給不足です。

 

特に、ベッドタウンや住宅街など、比較的人口が多い地域で問題になります。

 

京都での空き家税の導入の背景には、住宅の供給不足という事情があったと言われています。

 

自治体が土地の有効活用のため、近隣住民からの申入れがなくても、率先して相続財産清算人(旧相続財産管理人)の選任申立てをしているというケースもあります。

 

世田谷区などは、基本的にはとても価値の高い土地であると考えられますので、空き家になったまま再利用できない状態が続いてしまうのは、社会的にも損失が大きいと考えられます。

 

今後、自治体主導の空き家対策が進んでいくことを望みます。

空き家活用の話9

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

受け持っている相続財産管理人(令和5年4月1日以前に選任)としての事案が、一つ終了しました。

 

被相続人の財産を、原則的にはすべて売却換価し、預貯金にしたうえで、小切手化して国庫に引き継ぐという手続きをします。
(相続人がおらず、債権者への弁済、特別縁故者への財産分与後に財産が残る場合)

 

銀行での手続きには、予想外に時間を要することもあるので、スケジュールに余裕をもって手続きをします。

 

国庫に納める預貯金の中には、被相続人の自宅土地建物を売却した際の売却金も含まれています。

 

義務はないのですが、見届けたいという思いから、被相続人の自宅土地建物があった場所に行ってみました。

 

すでに解体が済み、更地となっていました。

 
一部擁壁が壊れていたため、その修理が始められていました。

 

おそらく、きれいに造成して生まれ変わった後、今後ご自宅を建てたいという方に譲渡されるのだと思います。

 

こうして、時が止まってしまった不動産が、また新たな世代に渡っていくというのは、いつ見ても良いものだと感じます。

 

個人的には、もう一歩先のことにもチャレンジしていきたいと思っております。

 

まだ具体的な計画等があるわけでなありませんが、空き家を解体せず、クリーニングやリフォームをして次の方に住んでもらうというモデルを作れないかと思っています。

 

または、DIYの技術を持っている方、DIYを趣味としている方に譲渡し、古い空き家のDIYをしながら生活することを楽しんでいただくというのも良いと考えております。

空き家活用の話8

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

所有者不明土地管理制度及び所有者不明建物管理制度にならび、管理不全土地管理制度及び管理不全建物管理制度も2023年(令和5年)4月1日より開始(施行)されました。

 

管理不全土地管理制度及び管理不全建物管理制度は、所有者による適切な管理が行われていないために、近隣に悪影響や危険を生じさせているまたは生じさせるおそれがある不動産について、裁判所が管理人を選任する制度です。

 

裁判所のWebサイトにも、管理不全土地(建物)管理命令の申立て等に関する書式が用意されています。

 

https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/vcmsFolder_1958/vcms_1958.html

 

申立てができるのは、利害関係人および地方公共団体の長等とされています。

 

なお、管理不全土地管理制度及び管理不全建物管理制度に基づく申立てがなされた場合、所有者の手続保障を図る観点から、原則として裁判所は土地・建物の所有者の陳述を聴かなければなりません。

 

管理人は、管理不全土地・建物の手入れや修繕等の保存行為及び管理不全土地・建物の性質を変えない範囲での賃貸等の利用行為、土地・建物の価値を高める改良行為について、裁判所の許可を得ずに行うことができます

 

土地・建物を処分する(処分行為)ときには、所有者不明土地管理制度及び所有者不明建物管理制度と同様、裁判所の許可を得ることが必要です。

 

特に、土地の売却や建物の取り壊しを行う場合には、裁判所が許可を出すための要件として、土地・建物の所有者の同意が必要とされています。

 

なお、先ほど、管理不全土地管理制度及び管理不全建物管理制度に基づく申立てがあった際は、裁判所は原則として所有者の陳述を聴かなければならいと説明しました。

 

その際、管理対象となる土地、建物に所有者が居住しており、管理人による管理行為を妨害することが明確に予想され、管理人による実効的な管理が期待できないような場合には、民事訴訟に基づく解決(所有権に基づく妨害排除請求や妨害予防請求などの物権的請求権の行使等)によって対応することが適切であると判断され、管理命令が発令されないということも考えられます。

空き家活用の話7

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弁護士・税理士の鳥光でございます。

 

所有者不明土地管理制度及び所有者不明建物管理制度が、2023年(令和5年)4月1日より開始(施行)されました。

 

所有者不明土地管理制度は所有者不明となっている不動産について裁判所が管理人を選任する制度です。

 

裁判所のWebサイトにも、所有者不明土地(建物)管理命令の申立て等に関する書式が用意されています。

 

https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/vcmsFolder_1958/vcms_1958.html

 

所有者不明土地管理制度は、従来の相続財産管理(清算)制度や、不在者財産管理制度と異なり、「不動産単位」で管理を行うことが可能です。

 

現行の制度では対象となる人(不在者や被相続人)の全財産を管理することになるのに対し、所有者不明土地管理制度は特定の不動産のみを管理することができます。

 

申立ては、利害関係人および地方公共団体の長等とされています。

 

裁判所が申立てに基づいて選任した管理人には、管理対象の不動産と当該不動産にある動産の管理権限が与えられます。

 
そして、管理人は、管理対象の不動産の管理だけでなく、裁判所の許可を得て不動産の売却、建物の取り壊しなどの処分もできます。

 
不動産を不法に占拠する者がいた場合の明け渡し請求なども行えます。

 

もっとも、管理人が選任されるまでの審査の基準は、相続財産管理人(清算人)の選任の申立てに比べると、厳格なものであろうことが想定されます。

 

裁判所が用意している申立書等の書式を見ても、所有者の調査状況等についての報告書等の添付が必要であることからも明らかです。

 

相続財産管理人(清算人)の選任のときとは異なり、理論上は土地建物の所有者が存在しています。

 

その土地建物について、所有者以外の者に売却や取壊しの権限を与えるというのは、所有者に対する大きな権利制限を伴うことから、管理人選任のための審査が厳格になるのは当然のことでもあります。