【相続放棄シリーズ】28 相続財産管理人選任申立

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ28回目は、相続財産管理人選任申立てについてです。

 

正確には、相続放棄とは別個の手続きですが、相続放棄後の相続財産の処理のために必要となる場合もあるので、ここで紹介させていただきます。

 

 

1 相続財産管理人
一言でいうと、相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を清算する役割を持つ人です。

 

被相続人の財産は、相続人がそもそもいないか、または相続人全員が相続放棄をすると、法概念上、相続財産法人という法人になります。

 

相続財産管理人は、この法人の代表者に位置づけられます。

 

そして、被相続人の財産、たとえば預貯金であれば管理口座に移して管理し、不動産であれば汚損や倒壊等を防ぐ等の管理をします。

 

また、裁判所の許可を得て、必要に応じて財産を換価したり、処分したりします。

 

相続人、受遺者、特別縁故者が現れなかった場合、最終的には相続財産を国庫に納めます。

 

 

2 相続財産管理人が選任されるケース
大まかに3つのパターンがあります。

1つめは、元相続人が相続財産の管理に困っているケースです。

 

特に、古い建物が存在する場合です。

 

建物は人が使っていないと、急速に老朽化します。

 

時が経つにつれ、倒壊の危険が高まったり、不法占拠者が現れるなど、トラブルの発生率が上がります。

 

このようになってしまうと、元相続人に対して、何らかの責任追及がされる可能性もあります(あるいは、法的責任はないにせよ、近隣住民や市役所等から、事実上いろいろな要求がされ、対応に困ることもあります)。

 

そこで、相続財産管理人に相続財産の管理責任を委ね、処分をしてもらうという選択をすることがあります。

 

2つめは、債権者が債権回収をするケースです。

 

被相続人に借金がある場合、相続人が返済を免れるために相続放棄をすることがあります。

 

その結果、債権者は相続人に対して支払いを求めることができなくなるため、相続財産の中にめぼしい財産がある場合には、これを換価して弁済を受けるという選択を取ることがあります。

 

この場合、債権者が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをします。

 

3つめは、市町村等が空き家管理のために申し立てるというケースです。

 

近年、被相続人の家屋が放置され、地域の安全が脅かされたり、土地の有効活用ができなくなるという問題が増えています。

 

空き家の中には、相続人が元々不在のものや、相続人全員が相続放棄をしたものもあります。

 

このような空き家について、市町村等が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをし、空き家の処分をするという形になります。

 

 

3 相続財産管理人選任申立ての手続き
家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任申立書と、付属資料を提出します。

 

付属書類の中には、財産目録がありますので、可能な限り正確に被相続人の財産を調査して、疎明資料とともに提出します。

 

また、相続人全員が相続放棄をしたことで相続人不在となった場合には、相続放棄申述受理通知書の写しや、相続放棄照会結果の写し等を添付します。

【相続放棄シリーズ】28 相続財産管理人選任申立て

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ28回目は、相続財産管理人選任申立てについてです。

 

正確には、相続放棄とは別個の手続きですが、相続放棄後の相続財産の処理のために必要となる場合もあるので、ここで紹介させていただきます。

 

1 相続財産管理人
一言でいうと、相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を清算する役割を持つ人です。

 

被相続人の財産は、相続人がそもそもいないか、または相続人全員が相続放棄をすると、法概念上、相続財産法人という法人になります。

 

相続財産管理人は、この法人の代表者に位置づけられます。

 

そして、被相続人の財産、たとえば預貯金であれば管理口座に移して管理し、不動産であれば汚損や倒壊等を防ぐ等の管理をします。

 

また、裁判所の許可を得て、必要に応じて財産を換価したり、処分したりします。

 

相続人、受遺者、特別縁故者が現れなかった場合、最終的には相続財産を国庫に納めます。

 

2 相続財産管理人が選任されるケース
大まかに3つのパターンがあります。

 

1つめは、元相続人が相続財産の管理に困っているケースです。

 

特に、古い建物が存在する場合です。

 

建物は人が使っていないと、急速に老朽化します。

 

時が経つにつれ、倒壊の危険が高まったり、不法占拠者が現れるなど、トラブルの発生率が上がります。

 

このようになってしまうと、元相続人に対して、何らかの責任追及がされる可能性もあります(あるいは、法的責任はないにせよ、近隣住民や市役所等から、事実上いろいろな要求がされ、対応に困ることもあります)。

 

そこで、相続財産管理人に相続財産の管理責任を委ね、処分をしてもらうという選択をすることがあります。

 

2つめは、債権者が債権回収をするケースです。

 

被相続人に借金がある場合、相続人が返済を免れるために相続放棄をすることがあります。

 

その結果、債権者は相続人に対して支払いを求めることができなくなるため、相続財産の中にめぼしい財産がある場合には、これを換価して弁済を受けるという選択を取ることがあります。

 

この場合、債権者が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをします。

 

3つめは、市町村等が空き家管理のために申し立てるというケースです。

 

近年、被相続人の家屋が放置され、地域の安全が脅かされたり、土地の有効活用ができなくなるという問題が増えています。

 

空き家の中には、相続人が元々不在のものや、相続人全員が相続放棄をしたものもあります。

 

このような空き家について、市町村等が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをし、空き家の処分をするという形になります。

 

3 相続財産管理人選任申立ての手続き
家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任申立書と、付属資料を提出します。

 

付属書類の中には、財産目録がありますので、可能な限り正確に被相続人の財産を調査して、疎明資料とともに提出します。

 

また、相続人全員が相続放棄をしたことで相続人不在となった場合には、相続放棄申述受理通知書の写しや、相続放棄照会結果の写し等を添付します。

【相続放棄シリーズ】27 債権者側の対応2

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ27回目となる今回も、債権者サイドについてのお話をします。

 

今回は、特に問題となりがちな、被相続人が賃貸住宅に住まわれていた場合の、賃貸人の対応です。

 

1 相続放棄と賃貸物件
相続人が相続放棄をする場合、被相続人の賃貸物件との関係では、大きく分けて2つの問題があります。

 

1つは、賃貸物件の賃貸借契約の問題です。

 
賃貸借契約によって発生する被相続人の賃借権は、相続財産となります。

 
一般論として、賃借権は価値の高い財産であることから、相続人が賃貸借契約を合意解除してしまうと、相続財産の処分に該当してしまう可能性が残ります。

 
その結果、相続放棄ができなくなる可能性があります。

 

もう1つは、被相続人の残置物です。

 
被相続人の残置物も、相続放棄をする場合、原則として一切処分することができません。

 
実務上、売却できない(換価価値がない)ものについては、相続財産を形成しない(いわゆるゴミの扱い)ものとして、処分しても問題ないとすることもあります。

 
しかし、相続財産の処分として見られる可能性も残ります。

 

2 賃貸人側の立場
上記の問題は、相続放棄をしようとしている相続人以上に、賃貸人側として非常に深刻なものだと考えられます。

 

賃貸借契約が解除できず、かつ残置物を除去することもできない状態では、新たな賃貸人に家屋を貸すことができません。

 

そのため、賃料を得ることができない状態が、長期間にわたって生じるリスクがあります。

 

法的に解決するとすれば、すべての相続人が相続放棄をするのを待ち、裁判所へ相続財産管理人選任の申立てをしたうえで、賃貸借契約の解除と残置物の処分をすることになります。

 
(もし被相続人に財産があれば、未回収の賃料等を回収できる可能性もあります)

 

もっとも、相続人全員が相続放棄をするのを待つだけでも相当な時間がかかります。

 

大まかに見ても、兄弟姉妹(場合によってはその代襲相続人)まで相続放棄を終えるには、6か月以上かかる可能性があります。

 

さらに、その後に相続財産管理人選任申立てをし、相続財産管理人の選任を待って財産の処分が完了するまでも、相当の期間を要します。

 

その間、家屋を貸し出すことができませんので、機会損失は相当なものとなります。

 

3 私見
相続放棄と、被相続人の賃貸借契約との間の問題については、現行法での解決には限界があると感じています。

 

被相続人の残置物については、財産的価値がないことを証明できるようにしたうえで処分することもありますが、現行法上、相続人側がリスクを負うことになります。

 

賃貸借契約を消滅させるためには、相続人と賃貸人との間で合意解除をすることはできないため、賃貸人側から賃料未払い等を理由とした法定解除をしてもらう必要があります。

 

そもそも、賃借人が亡くなり、その相続人が相続放棄をするリスク自体が、あまり認識されていないという現状もあるかと思います。

これは私の思い付きでしかありませんが、一つの方法として、賃貸人は賃貸用不動産を取得する際、不動産会社が賃借人の死亡とその相続人が相続放棄をし得る旨を説明し、かつ、そのような場合に備えた保険商品などができてくれればよいのではないかと考えております。

【相続放棄シリーズ】26 債権者側の対応1

令和3年6月になりました。

 

梅雨の時期なので、天候の変化はもちろん、食中毒等にも気を付けたいところです。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ26回目です。

 

今回は、相続放棄がなされた際の、債権者側の対応のうち、金銭債権を有している貸金業者や金融機関側の対応を考えてみます。

 

1 相続放棄の効力

まず、原則の確認です。

 

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになります。

 

この効力は非常に強力です。

 

元相続人は、被相続人の財産・負債に関しては、(管理責任を除き)完全に無関係の存在になります。

 

被相続人にほぼ財産がなく、負債のみがあった場合は、元相続人には管理責任もありません。

 

本来的には、相続人は、被相続人の金銭債務のうち、法定相続割合に該当する部分を負担します。

 

そのため、債権者は、相続人に対し、法定相続割合の限度で、被相続人の債務の弁済を求めることができます。

 

しかし、相続人が相続放棄をした場合、法的に被相続人の債務を負わなくなくなりますので、請求は不可能となります。

 

2 法定単純承認事由

相続放棄は、法定単純承認事由に該当する行為がなされていた場合、効力を失います(正確には、単純承認になります)。

 

債権者としては、債務者である被相続人の相続人が相続放棄をしたとしても、法定単純承認事由が存在することを主張し、相続放棄の効力を覆して、金銭の支払を請求できる途はあります。

 

もっとも、実務上、これを行うのは容易ではないことが多く、実際このような請求がされるケースは非常に少ないです。

 

相続放棄をした元相続人が、任意の支払に応じることはほぼないため、もし支払いを請求するのであれば、訴訟等によるのが通常です。

 

債権者側は、金銭消費貸借契約の存在や、相続の発生を請求の原因として、元相続人に請求します。

 

これに対し、元相続人は、相続放棄をしていることを理由に、支払う義務はない旨の反論をします。

 

そして、債権者側が再反論として、法定単純承認事由の存在を主張することになると考えられますが、この時、法定単純承認事由の存在を、証拠を以て証明しなければなりません。

 

被相続人の不動産を相続し、名義変更も行ったうえで売却したなど、客観的記録である不動産登記情報を以て証明可能であるような場合を除き、法定単純承認事由の存在を証明することは、一般的には非常に困難です。

 

3 実際の金銭債権者の対応

相続放棄をした元相続人に対し、被相続人の金銭債務の履行を求めることは容易ではありません。

 

債権額が大きく、かつ法定単純承認事由の存在を容易に証明できそうな場合を除き、相続放棄をした元相続人に対して支払いを求めることは、労力・費用対効果の面において合理的でないことが多いです。

 

そのため、多くの場合、相続人が相続放棄をすることを伝えた段階で請求を一時停止し、相続人が相続放棄をしたことを知った段階で回収不能として処理します。

 

貸金業者や金融機関としては、相続人が遠縁である場合などは、回収不能として処理をするために、相続放棄申述受理通知書の写しが必要という場合もありますので、相続放棄が完了したら、相続放棄申述受理通知書の写しを早急に提供します。

【相続放棄シリーズ】25 付随問題への対応2

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ25回目の今回は、前回に引き続き、相続放棄に付随する問題への対処法を説明していきます。

 

1 被相続人の負債
結論としては、支払う必要はありません。

相続放棄が成立した後は、はじめから相続人ではなかったことになります。

被相続人の負債を相続しませんので、支払いに応じる法的根拠がなくなります。

実務上の対処法としては、まず相続放棄をすることを決めた段階で、債権者へ連絡します。

債権者側へ伝えることで、いったん請求を停めてもらえるためです。

相続放棄が完了し、相続放棄申述受理通知書が発行されたら、その写しを債権者へ提供します。

 

2 残置物
法律上は、何もする必要がありません。

原則論でいえば、相続人全員が相続放棄をした後、賃貸人が相続財産管理人選任の申立てをし、相続財産管理人に明渡を求めればよいためです。

もっとも、賃貸人からの明渡要求が厳しく、精神的に辛いというケースもあります。

また、後述するように、被相続人の保証人になっている場合は、明渡完了までの間の家賃(相当額)を支払わなければならなくなります。

相続財産管理人選任を待っていると、保証人として支払う金額が大きくなる恐れがあります。

実務上は、明らかに財産的価値のない残置物は、いわゆるゴミとして扱い、相続財産を形成しないと解釈し、処分して明渡すこともされています。

ただし、裁判所が明確に認めたわけではないので、法定単純承認事由となるリスクが残ることは認識が必要です。

財布(現金)や預金通帳など、財産的価値があるものは、しっかり保管しておきます。

 

3 不動産(建物)、自動車
現行法上、これらを処分すると、原則として、法定単純承認事由に該当することになります。

土地建物を売却することはもとより、建物を取り壊すことも法定単純承認事由に該当します。

自動車の廃車手続、廃棄も同様です。

これらを、法定単純承認事由に該当することなく処分するには、相続財産管理人選任の申立てが必要になります。

被相続人に債権者がいて、かつ売却価値のある不動産、自動車であれば、債権者側が相続財産管理人選任の申立てをする可能性もあります。

 

4 被相続人の保証人になっている
結論としては、相続放棄をしても保証債務を免れることはできないため、支払いに応じる必要があります。

保証の範囲は、保証契約によって変わる可能性があるため、保証契約の中身をしっかり確認します。

特に住宅の賃貸借の場合、原則として、保証人には明渡義務そのものはなく、原状回復義務および明渡遅延期間の賃料相当額の支払義務があります。

明渡ができないため、法律論的には、相続財産管理人選任の申立てをし、賃貸物件内の残置物処分と、賃貸借契約の解除をする必要があります。

もっとも、非常に時間も費用も要することから、実務上は、残置物を別の場所に保管するか、リスクを負って財産的価値がないものを処分するという方法がとられることも多いです。

また、保証人になっている場合に気を付けたいのは、被相続人が賃貸物件で死亡した場合です。

いわゆる事故物件になったとして、保証人に対し、損害賠償を求められることがあります。

被相続人が自殺をしたのか、病気や事故で亡くなったのかによっても、損害賠償義務の有無や額が変わってきます。

自殺の場合には、損害賠償義務を認めた裁判例もあります。

そのため、死因についてはしっかりと資料、証拠を集めたうえ、厳格な交渉を行います。

【相続放棄シリーズ】24 付随問題への対応1

令和3年4月になりました。

 

暖かい日も増え、日によっては暑いくらいかもしれません。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ24回目です。

 

今回と次回は、私が今まで相続放棄業務を行ってきた中で、相続放棄に付随して発生する問題や、これに対する対応法について記していきます。

 

1 相続放棄は手続そのものより付随問題対応が難しい
相続放棄の手続き自体は、例外的なケースを除き、相続放棄申述書を作成し、戸籍謄本等の添付資料と一緒に家庭裁判所へ提出することでできます。

これだけであれば、そこまで大変な手続きではありません。(子が亡くなった場合の親の相続放棄や、兄弟姉妹の相続放棄は、集める戸籍謄本類が多いため、専門家でない方が行うのは簡単ではありません)

しかし、相続放棄を希望される方は、被相続人に関する何らかの付随問題を抱えていることが多いです。

単に相続放棄申述書を裁判所に提出しただけでは解決しないことがあります。

そして、あくまでも私見ですが、専門家としても、相続放棄の手続きをするだけではなく、依頼者の方が抱えている諸問題も一緒に解決するべきであると思います。

では、相続放棄に付随する問題としてどのようなものがあるのでしょうか。

 

2 相続放棄に付随する問題

(1) 被相続人の負債
被相続人が貸金業者等からお金を借りていた、家賃を滞納していた、入院費を滞納していた、等があります。

原則としては、相続人が債務を相続しますので、相続人へ支払い請求がされることになります。

 

(2) 残置物
被相続人が賃貸物件に住んでいた場合、生前に使用していた衣類や家財道具等が残ります。

賃借権や明け渡しの義務も相続の対象となりますので、賃貸人は相続人に対して明け渡し等を求めることになります。

 

(3) 不動産(建物)、自動車
相続人全員が相続放棄をすると、不動産や建物は相続人不在となります。

もっとも、不動産や自動車は、物理的には残存し続け、元相続人は管理責任を負うことになります。

建物がある場合、倒壊等の危険があり、何らかの責任を問われる可能性が残ります(管理責任の内容は、明確には確立していません)。

自動車についても、他人の土地上にある場合、撤去を求めてくることがあります。

 

(4) 被相続人の保証人になっている
相続人が、被相続人の保証人になっている場合があります。

被相続人の借金の保証人になっている場合もあれば、被相続人が自宅の賃貸借契約をする際の保証人になっている場合もあります。

保証人になっている場合、保証契約はあくまでも債権者と相続人との間で締結されるものであるため、相続放棄をしても保証債務から免れることができません。

 

次回、これらについての対処法について説明します。

【相続放棄シリーズ】23 公営住宅

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

令和3年2月です。

 

コロナウイルスも相変わらず猛威を振るっております。

 

緊急事態宣言により、収束することを心から願っております。

 

今回は、被相続人が公営住宅に住んでいた場合の扱いについてです。

 

1 通常の賃貸借契約

被相続人が民間のアパートやマンション等を借りて住んでいた場合、被相続人には賃借権があります。

 

賃借権は、借りている不動産を使用収益する権利であり、非常に強力で価値のある権利です。

 

そのため、相続人が被相続人の賃貸借契約を合意解除することは、法定単純承認事由に該当する可能性が残ります。

 

(賃料の滞納を理由に、賃貸人から一方的な意思表示で行える法定解除をしてもらうという手はあります。)

 

2 公営住宅

民間のアパートやマンションに対し、公営の住宅の場合、居住する権利の性質が異なります。

 

公営住宅は誰でも居住できるわけではなく、一定の要件(収入等)を満たさなければ居住できません。

 

つまり、居住する人の個別の属性に応じて付与される権利であり、一身専属権のような性質があります。

 

そのため、公営住宅に居住する権利は、相続の対象にはなりません。

 

このように判断した裁判例もあります。

 

3 同居親族がいる場合

公営住宅において、被相続人と同居していた親族がいる場合、一定の要件のもとで継続使用ができることがあります。

 

この場合、公営住宅に居住する権利は、あくまでも同居親族固有の権利と考えられるため、相続によって居住権を得たことにはならないと考えられます。

【相続放棄シリーズ】22 相続財産管理人

2月になりました。

 

一年のうちで一番寒い時期であると同時に、三寒四温ともいわれ、寒暖差が激しいので健康管理には気を付けましょう。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は、相続人全員が相続放棄をし、相続人不在となった場合についてです。

 

1 相続人全員が相続放棄をした場合

相続放棄には順位があります。

 

単純化すれば、子→直系尊属(両親、祖父母等)→兄弟姉妹の順となります。

 

子や兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっていた場合、その代襲相続人に相続されます。

 

先順位相続人が相続放棄をし、順に後順位相続人も相続放棄をすると、最終的には相続人が不在になります。

 

このようになると、被相続人の財産は、相続人不在となります。

 

2 管理責任

相続人全員が相続放棄をしたとしても、元の相続人には、被相続人の財産に関する管理責任が残ります。

 

この管理責任の内容は、明確にはなっていないのですが、少なくとも相続財産管理人へ引き渡すまで、棄損、滅失をしないようにする責任があると考えられます。

 

被相続人の財産が、預貯金のみであったり、少額の現金など小さな動産のみである場合はほどんと問題ありません。

 

問題となるのは、被相続人の財産に不動産や自動車が含まれる場合です。

 

特に建物が存在している場合、老朽化によって隣接地等に被害が生じる可能性があります。

 

法的に損害賠償責任を負うか否かとは別に、何かしらの連絡が入り、トラブルにはなる可能性があります。

 

そのため、保存行為として、補修等を行っていかなければならなくなります。

 

未来永劫補修を行うことは、とても大きな負担になります。

 

他方、建物の取り壊しは法定単純承認事由になるため、行うことができません。

 

そこで、相続財産管理人選任の申立てを行うという選択肢が出てきます。

 

3 相続財産管理人

相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を管理する役割の人です。

 

利害関係人が裁判所へ申し立てることで、選任されます。

 

行うことは、大まかに、相続財産の調査、債権者の調査、相続財産の換価、債権者への配当です。

 

処分することができなかった相続財産は、国庫に帰属されます。

【相続放棄シリーズ】21 判明していない相続債務

令和3年1月になりました。

 

つい最近元号が変わったという感覚でしたが,もう3年目にもなるのですね。

 

今回は相続放棄シリーズ21回目,被相続人の相続債務についてです。

 

1 相続債務

相続放棄の大きな効果の一つに,被相続人の債務を免れることができるというものがあります。

 

自己破産と異なり,租税に関する債務も免れることができます。

 

被相続人に債務があるか否かについては,遺品の中に債権者からの請求書があったり,被相続人死亡後に債権者からの通知書が送られてきたりすることで判明します。

 

もっとも,問題は,すべての債務を網羅的に把握することが簡単ではないという点です。

 

債権者からの請求書が発見されたりすると,他にも債務が存在するのではないかという疑いが生じます。

 

相続人の立場で,CICやJICCから被相続人の信用情報を取得することで,どの貸金業者から,どの程度の金銭の借入をしているかを把握することはできます。

 

もっとも,債権譲渡がなされていたり,個人からの借入があったりする場合は,信用情報によっても調査しきることができないこともあります。

 

2 真の動機は「どんな債務が潜んでいるかわからない」こと

相続放棄の動機は,「債務超過」すなわち被相続人の保有資産よりも,負債の方が多いため,負債から免れたいというものが非常に多いです。

 

もっとも,上記の通り,負債の全貌が明らかになっていることは稀です。

 

むしろ,債務者本人が死亡してしまっている以上,どこにどれだけの債務を有していたかを100%調査しきることは,理論的にも困難です。

 

そこで,相続人でなくなることで包括的に相続債務を免れる,という相続放棄が功を奏します。

 

相続放棄をしてしまえば,将来突然判明していなかった債務の弁済を迫られたとしても,対応できるためです。

 

相続債務をすることで,いつ誰から債務の弁済を求められるかわからない,という恐怖から解放されます。

 

3 実際に,相続放棄をしてからしばらく経って債権者から支払請求されることもある

相続放棄の手続をした時点で判明していた相続債務の債権者に対しては,相続放棄申述受理証明書を提示するなどにより,請求をストップしてもらいます。

 

ところが,相続放棄を終えてからしばらくして,債権者を名乗る者から相続人に対する請求がなされることがあります。

 

これは,相続放棄をしたことは公開されないため,債権者側は相続人が相続放棄をしていることを認識できないことに起因します(正確には,裁判所に対して相続放棄の申述の有無を照会することはできますが,債権者にはそこまで調査するメリットがありません)。

 

そのような場合も,やる事は同じです。

 

まず債権者に連絡を取り,相続放棄をしたことを伝えます。

 

そのうえで,相続放棄申述書を提示することで,通常は解決します。

 

もっとも,法律の専門家でない本人が,債権取立のプロに連絡を取り,お話をすることはとても怖いかもしれません。

 

もしかすると,答え方によっては,支払い義務を発生させられるかもしれないという心理が働くためです。

 

そのような場合,相続放棄を担当した弁護士を通じて,債権者との話を付けてもらうことが有効です。

【相続放棄シリーズ】20 質問状のあれこれ

新年が明け,1月になりました。

 

思えば,コロナウィルスは昨年の1月くらいに話題に上り始め,それからいろいろな面で生活が変わりました。

 

相続放棄シリーズ第20回目の今回は,裁判所から送付されてくる質問状についてです。

 

1 相続放棄申述後の流れ

法律上の相続放棄を行う際には,相続放棄申述書という書類を作成し,戸籍謄本類などの必要書類を添付して,期限内に管轄の裁判所に提出します。

 

なお,申述書を提出して,裁判所で事件番号が付与されれば,原則として期限の問題はなくなります。

 

裁判所によって受付がなされた後,裁判所によって,質問状が送付されます。

 

質問状は,「照会書」や「照会書兼回答書」などの名称が付けられることが多いです。

 

質問状は,送付の仕方や,質問の内容などが裁判所によって区々です。

 

2 送付の仕方

本人が相続放棄の申述を行っている場合,通常は申述書に記載した住所地へ質問状が送られてきます。

 

本人が裁判所へ直接申述書を持ち込む場合,受付の場所で質問状を記入するよう指示されることもあります。

 

裁判所で記入した場合は,特に不備等がなければ,後で質問状が送られることはないです。

 

代理人弁護士が本人の代理として申述を行っている場合は,さらにバリエーションが増えます。

 

代理人弁護士宛ての質問状が代理人事務所に送付される場合,本人宛の質問状が本人の住所地に送付される場合のほか,本人宛の質問状(本人が記入する必要がある)が代理人弁護士の事務所に送付されることもあります。

 

代理人宛ての質問状の場合,郵送の場合もあれば,FAXの場合もあります。

 

また,裁判所によっては,電話照会ということもあります。

 

3 質問状の内容

裁判所が質問状を送付する趣旨は,本人の真意で申述していることの確認,および法定単純承認事由に該当する行為の有無の確認にあると考えられます。

 

質問の内容は,この2点にフォーカスしたものが中心となります。

 

質問の数は,3~5問程度の場合もあれば,10問以上に及ぶ場合もあります。

 

裁判所によって運用が異なることに加え,相続人死亡から3か月以上経過している場合など,イレギュラーな事情があると質問が増えたり,複雑化する傾向があります。

 

代理人弁護士宛てに質問状が発行される場合,経験上は,かなり質問がシンプルです。

 

弁護士が介入していることから,ある程度の信用性が担保されているという前提があるためだと考えられます。

 

なお,弁護士が代理人に就いている場合に限り,質問状を送付しない(つまり質問なし)裁判所もあります。

【相続放棄シリーズ】19 被相続人が事業を行っていた場合

9月に入りました。

 

徐々に暑さは和らいでいくと考えられるものの,まだまだ猛暑の日もあるかもしれませんので,熱中症対策は重要です。

 

被相続人の財産状況を理由に相続放棄を検討する際,相続財産を調査する必要があることがあります。

 

今回は,相続放棄シリーズ19回目,被相続人が個人で事業を営んでいた場合についてです。

 

法律上は,相続放棄は被相続人が自営業者であったか雇用されていたかは問題になりません。

 

もっとも,前提となる財産の調査は,前者の方が格段に労力を要する傾向にあります。

 

1 被相続人が個人事業主であった場合

法人の代表者ではなく,個人で自営業をされていた場合です。

 

業種や規模にもよりますが,財産状況が非常に複雑になる傾向にあります。

 

小売り業のように,在庫を有する業態の場合,多品種を扱っていると,在庫のカウントと評価額の計算だけでも膨大な作業になることがあります。

 

また,仕入先とお得意様がいくつもある場合,買掛金,売掛金のような金銭債権,金銭債務も多数存在します。

 

意外と盲点なのが,被相続人が医師であった場合です。

 

特に調剤も行っていた場合は,多品種の薬剤が存在することもあり,専門的な分野なので仕入先も区々だったりします。

 

税理士などが被相続人の顧問についていた場合は,会計書類の作成も委任を受けている場合が多いので,まずは顧問税理士の方に話をして,被相続人死亡時点での財産に関する資料を請求するところから始めます。

会計書類には,在庫の状況や,売掛金,買掛金のほか,手元現金や預貯金などの情報が載っているからです。

 

被相続人が自身で会計帳簿等を作成していた場合は,非常に困難になることがあります。

 

この場合は,被相続人の遺産整理を地道に行っていくほかありません。

 

2 被相続人が法人の代表者であり持分や株式を有していた場合

この場合は,相続人は,被相続人の会社の財産・負債を直接相続することはありません。

 

あくまでも会社の財産・負債は会社という法「人」に属しているためです。

 

代わりに,被相続人の持分・株式が相続財産となります。

 

持分・株式を評価する際には,法人の財産を調査する必要があり,この労力は被相続人が個人事業主であった場合と変わりません。

 

時折,代表者であった被相続人が,法人の連帯保証人になっているケースがあります。

 

このような場合,法人の負債が被相続人に降りかかってくることになりますので,法人の負債をしっかり調査する必要があります。

 

上記1,2いずれの場合であっても,しっかり調査を行うとなると非常に時間が掛かる可能性がありますので,予め相続放棄の期限の延期の手続を行っておくことが大切です。

【相続放棄シリーズ】18 相続放棄と時効援用

暑い日が続きます。

 

熱中症の危険があることに加え,寝苦しい日もあることから体調を崩される方もいらっしゃるかもしれません。

 

ひと昔前は冷房が身体に悪いと言われていましたが,今では冷房をかけないと身体に悪いとさえいえそうです。

 

相続・債務整理を担当している弁護士の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ第18回目となります。

 

今回は相続放棄と時効援用についてです。

 

1 どちらも相続債務を負担しないで済む

被相続人が債務を有したまま死亡すると,基本的にその債務は法定相続割合に基づいて相続人が負担することになります。

 

相続放棄をすると,その相続人は初めから相続人でなかったことになりますので,当然債務も相続せず,負担する必要はなくなります。

 

相続放棄は,相続人が個別に行う手続ですので,相続債務を負担する必要がなくなるのは,相続放棄をした相続人だけです。

 

時効援用は,相続債務の消滅時効が完成している場合に限られますが,やはり相続人が債務を負担する必要がなくなります。

 

法的には,相続債務を一旦相続するものの,時効援用により債務を消滅させることができるということになります。

 

初めから債務を相続していないことになる相続放棄とは,理論上は異なりますが,相続債務の支払い義務がなくなるという部分は共通しています。

 

2 実務上は様々な違いがある

相続放棄をする場合も,時効の援用をする場合も,被相続人の相続財産(債務)の調査をする必要はあります。

 

厳密には,相続放棄は,債務を有しているおそれがあることが判明した段階でも行ってしまうことも多いです(たとえば,遺品の中から,少し古い消費者金融からの請求書が出てきたなど)。

 

しっかり相続債務を調査する場合は,債権者に対して,被相続人の取引履歴を提示してもらうよう依頼し,かつ依頼する人が相続人であることを示す書類(被相続人死亡の記載のある除籍,及び相続人の戸籍など)を提示する必要があることもあります。

 

もちろん,債権者に対する取引履歴の請求は弁護士が代理をすることもできますし,弁護士が職務上請求により戸籍謄本類を取得することもできます。

 

債務の調査には時間が掛かることもありますので,相続放棄を視野に入れている場合は,期限の延長手続を行っておくことも大切です。

 

相続債務の状況が判明したら,(他にも債務が存在しているおそれがないことが前提ですが)時効が完成している場合とそうでない場合とで対応が変わってきます。

 

時効が完成していて,預貯金等他の財産を取得することに問題がない場合は,債権者に対して消滅時効の援用を行います。

 

消滅時効の援用は,債権者に対して行われるものですので,弁護士が代理として行う場合は,債権者を相手方とする委任を受ける必要があります。

 

そして,相続人の代理人として,債権者に対して時効援用の通知文を送付するということが行われます。

 

時効が完成していない場合,相続放棄を行います。

 

感覚的にわかりにくい部分ですが,相続放棄は債権者に対してではなく,裁判所に対して行われる手続きです。

 

したがいまして,弁護士が代理で行う場合は,債権者を相手とする委任を受けるのではなく,あくまでも相続放棄の委任を受けた旨を裁判所に対して示すということになります。

 

相続放棄が完了した後,弁護士が債権者に対して相続放棄申述受理通知書を送付することがありますが,これは時効の援用とは異なり,あくまでも依頼者に代わって事実上相続放棄が完了したことを通知する,という形になります。

【相続放棄シリーズ】17 相続債務があるが相続放棄は困難である場合

夏も本番になりました。

 

熱中症対策は十分にしなければなりません。

 

相続,債務整理を中心に担当しております,弁護士の鳥光と申します。

 

今回は相続放棄シリーズ17回目,相続放棄が(事実上)できない場合についてのお話です。

 

1 相続債務があるが,生活に必要な財産もある場合

典型的な例として,被相続人が消費者金融等に債務を有していると同時に,自宅を所有しており,相続人がそこに住み続ける場合がこれにあたります。

 

もちろん,相続放棄をして,(元)自宅から退去するという選択も,理論的には存在します。

 

しかし,新たな家を探すことは簡単なことではありませんし,自宅の価格に比べて債務額が低い場合,もったいない感じもします。

 

このような場合,相続放棄以外の解決手段がないか,検討します。

 

2 解決法は大きく分けて2つ

1つは,自宅を売却し,その売却金で債務を返済することです。

 

もっとも,この方法は,売却金の余りを得ることはできるものの,新たな住居を探して転居する負担は残ってしまいます(不動産の売却自体も簡単ではありません)。

 

2つめとして,任意整理,時効援用を行うという方法が考えられます。

 

まず,被相続人の方宛てに送られた請求書や,信用情報機関から取得した情報を元に,債権者と債務額を正確に調査します。

 

この時,返済期限から何年も経っていて,消滅時効が完成しているようでしたら,時効を援用することで債務をなくすことができます。

 

金銭債務は,相続人全員に法定相続割合で分割されているので,相続人それぞれが時効援用をする必要があります。

 

時効が完成していない場合,任意整理を行います。

 

放っておくと遅延損害金が膨れ上がるだけでなく,場合によっては訴訟を提起されたり,裁判所を通して支払督促がなされたりすることがあります。

 

任意整理によって和解契約を締結し,支払金額を固定したうえで分割払い等にすることが一般的ですが,この部分は通常の任意整理(ご存命の方の任意整理)と比較すると複雑になります。

 

上述の通り,消費者金融等に対する金銭債務は,相続人間で法定相続割合で分割されます。

 

そのため,和解契約は相続人それぞれが債権者に対して行う必要があり,支払いも個別に行うことが基本です。

 

もっとも,これは非常に手間がかかりますので,和解契約書の文面において,相続人それぞれが法定相続割合による債務を有していることを確認したうえで,相続人代表者を決めて,その人が債権者に対して全員分の支払いを行うとすることがあります。

あくまでも,代表者は債権者に対して全員分をまとめて支払うだけで,相続人全員の債務を負担するわけではありません。

【相続放棄シリーズ】16 被相続人が賃貸住宅に住んでいた場合

7月に入り,とても湿度の高い日が増えてきました。

 

食中毒等に気を付け,体調管理に気を配りたいところです。

 

相続・債務整理を担当している弁護士の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ第16回目となる今回は,被相続人が賃貸住宅に住んでいた場合についてです。

 

1 民間の賃貸住宅の場合

いわゆる,被相続人が大家さんからアパートやマンション(場合によっては一軒家)を借りて,賃料を払っていた場合です。

 

この場合,被相続人が亡くなると,まずは相続人が賃借人の地位を相続します。

 

そのため,原則としては,解約等により賃貸借契約がなくなるまでの間,相続人には賃料等を支払う義務があります。

 

また,被相続人が賃料等を滞納していた場合,未払賃料や遅延損害金等を支払う義務も生じます。

 

そして,相続人が相続放棄をすると,初めから相続人でなかったことになりますので,賃借人としての地位も,賃料等の支払い義務も,初めからなかったことになります。

 

賃貸人から,解約して欲しい旨の話が来た場合は注意が必要です。

 

解約という言葉の法的意味が問題となります。

 

賃貸人と相続人との間での合意により賃貸借契約を修了させるものである場合,合意解除となるので,相続財産の処分(法定単純承認事由)にあたる可能性が出てきます。

 

そのため,賃料の不払いなどを理由とした,法定解除(賃貸人側の一方的な意思表示で賃貸借契約を修了させるもの)としてもらう必要があります。

 

被相続人と同居していた相続人が,引き続きその賃貸物件に住む場合は,一旦賃貸人と被相続人との間の賃貸借契約を法定解除してもらい,改めて(元)相続人と賃貸借契約をする必要があります。

 

2 資力要件等がある公営住宅の場合

都営住宅など,家賃が低額である公営の住宅は,入居の際に収入や資力の要件を設けている場合があります。

 

ある一定の収入,資力を下回る場合にのみ,入居が許可されるというものです。

 

このような条件が設けられた公営住宅に居住する権利は,被相続人の一身専属権であり,相続の対象にならないとされます。

 

公営住宅の存在意義は,民間においては住宅の確保が困難な低所得者に対し,公共の福祉の観点から低額な住居を提供することにあります。

 

つまり,公営住宅を使用する人の経済的な属性に応じて付与される権利なので,相続人といえども被相続人とは属性が異なる以上,当然に承継するものではないということになります(相続人が被相続人と同等の経済的属性であれば,改めて使用権が認められるということはあり得ます)。

 

そのため,被相続人の死亡と同時に公営住宅の使用権はなくなり,民間の賃貸住宅のように,契約の解除等の問題はありません。

 

一方,自治体によって,配偶者や子が届け出をすることで入居承継を認めている場合があります。

 

この場合,あくまでも相続人の地位としてではなく,配偶者,子固有の権利として入居承継資格が与えられていると考えることができるため,相続放棄をしても入居承継ができることになります。

 

自治体によって扱いが異なりますので,実務上は個別具体的に窓口で確認する必要があります。

 

弁護士法人心では,四日市に新しく事務所を設立しました。

四日市周辺で相続問題にお悩みの方は,ぜひ一度ご連絡ください。

⇒弁護士法人心四日市法律事務所 相続サイト

【相続放棄シリーズ】15 自己破産を検討している場合

今年の梅雨は,かなり雨が降っています。

 

特に西日本では水害に遭われた方も多くいらっしゃるかと思います。

 

一刻も早く復旧できることを祈ります。

 

相続と債務整理を担当している弁護士の鳥光と申します。

 

今回は相続放棄シリーズ15回目です。

 

自己破産手続と相続放棄との関係についてです。

 

1 自己破産手続について

自己破産(・免責)は,債務の弁済(支払い)が不能となったことを要件に,保有する財産で弁済できる範囲で債権者へ債務を弁済し,残った債務は免責される(一部例外の債務もあります)という手続です。

 

破産の申立時に財産を有していない場合には,申立と同時に免責となることもあります。

 

破産を申し立てる際は,債権者の一覧と,それぞれの債権者に対していくらの債務があるのかを明らかにする必要があります。

 

債務を有している被相続人が亡くなった場合,法定相続割合に従って債務を相続しますので,当該債務の債権者と債務額も,破産申立の対象となります。

 

2 自己破産手続開始後の相続放棄

自己破産の申立ての準備をする過程で,被相続人に債務があり,その債務が自分に降りかかていることを知ることがあります(債務調査のため,さまざまな債権者に対して債権の届け出をしてもらうためです)。

 

自己破産手続が開始されていても,相続放棄自体はこれとは別の手続であるため,相続放棄の申述を行うことは問題なくできます。

 

ただし,破産法により,相続放棄の効果に制限がかかります。

 

限定承認(相続によって得た積極財産の限度で,相続債務を弁済することを条件とする相続)としての効果しか生じないこととなります。

 

理由は,債権者の保護のためです。

もし換価価値のある相続財産が存在していた場合,これらを放棄してしまうと債権者への配当原資が減ってしまうからです。

 

もっとも,相続放棄をする場合というのは,多くは被相続人に財産がなく,負債のみがあるというケースです。

 

このような場合,限定承認の効果を持たせる必要がありません。

 

そのため,この場合には,破産管財人が,相続放棄の効力を認める旨を家庭裁判所へ申述することで,相続放棄として扱われることになります。

 

いずれにしても,破産手続を行っている際に相続放棄をする場合は,申立代理人にしっかりとその旨を伝え,相続放棄申述受理通知書を受取ったら,写しを提供しましょう。

 

 

弁護士法人心では,四日市に新しく事務所を設立しました。

四日市周辺で相続にお悩みの方は,ぜひご連絡ください。

⇒弁護士法人心四日市法律事務所 相続サイト

【相続放棄シリーズ】14 相続放棄は連鎖する

かなり暑い日も増えてきた半面,まだまだマスクが手放せない状況。

 

水分を多めに取り,熱中症対策をすることが大切であると感じます。

 

今回は,相続放棄シリーズ第14回目,相続放棄の連鎖についてです。

 

1 相続には順位がある

人が亡くなることで,相続が発生します。

 

被相続人が亡くなった時点で子がいた場合,子が相続人となります。

 

子がいない場合,直系尊属(父母,祖父母等)が相続人となります。

 

直系尊属もいない場合(実際には先に亡くなっていることが多いです),兄弟姉妹が相続人となります。

 

被相続人に配偶者がいる場合,常に相続人となります。

 

2 相続放棄をすると次の順位の相続人に相続権が移る

相続放棄が認められると,申述人は初めから相続人でなかったことになります。

 

つまり,相続に関する法律上は,初めからいなかったことになります。

 

被相続人の子が(全員)相続放棄をすると,被相続人には子がいないことになるため,次の順位である直系尊属が相続人となります。

 

そして,生存している直系尊属も相続放棄をすると,直系尊属もいなかったことになるため,さらに次の順位の兄弟姉妹が相続人になります。

 

3 相続人全員が相続放棄をしないと,大きな負担が生じることも

被相続人が資産を持たず,大きな負債を抱えたまま亡くなった場合などは,相続人全員が相続放棄をしないと,放棄をしなかった相続人が大きな負担を抱えることになります。

 

子が全員相続放棄をすると,被相続人の負債は直系尊属にまわってきます。

 

直系尊属が全員相続放棄をした,または直系尊属が既に全員死亡していた場合,被相続人の負債は兄弟姉妹にまわってきます。

 

さらに,兄弟姉妹が複数人いる場合,本来は負債が法定相続割合に基づいて分散されますが,一部の兄弟姉妹だけが相続放棄をすると,残りの兄弟姉妹に負債が集中します。

 

そのため,負債を負担するお気持ちがある場合は別として,先順位相続人が相続放棄をした場合には,次の順位の相続人も相続放棄をしない限り,被相続人の負債から逃れることはできないということになります。

【相続放棄シリーズ】13 相続放棄の増加と備え

一旦は緊急事態宣言が解除され,街には人並みも戻ってきました。

 

もっとも,また感染者が増えている地域もあり,油断は禁物であると感じております。

 

弁護士の鳥光です。

 

今回もご覧いただき,ありがとうございます。

 

相続放棄シリーズ13回目は,相続放棄の動向と対策についてです。

 

1 相続放棄は増えている

相続放棄は,平成25年には約17万件あり,平成30年には21万件を超えています。

 

単純計算では毎年8000件程度増えていることになります。

 

現場の感覚としても,相続に関するご相談の中で,相続放棄をご希望でいらっしゃる方の割合は増えています。

 

データと現場感覚の両面において,相続放棄の需要は増えているといえます。

 

完全に私見ですが,背景には次のような要因があるのではないかと思います。

 

・単に高齢化社会が進んだことにより,相続の発生件数が増え,そのなかに一定の割合で相続放棄をすべきケースが含まれれていることから,相続放棄件数が増えた。

 

・バブル期は順調であったが,その後の不況で一家離散し,音信不通となっていた親が負債を抱えたまま亡くなった。

 

・相続に対する意識が変化した(相続は,せねばならないという考えから,相続関係は断ち切っても良いという考えへ変化)。

 

2 相続放棄は身近になりつつあり,備えも必要

人が亡くなることで相続は発生します。

 

相続放棄は,一旦相続が生じたのちに,遡及的に相続人でなかったことにすることで,相続の効果を消滅させるものです。

 

つまり,本来的に相続放棄は例外的な措置です。

 

そのため,普段生活の中で見聞きすることは少なく,専門家以外の方向けの書籍等もあまりないので,リテラシーの向上がなされていません。

 

一方で,相続放棄を行うべきケースは確実に増えていることから,かつてに比べて相続放棄は身近になっています。

 

相続放棄シリーズにて紹介させていただいております通り,相続放棄には気を付けなければならない点がたくさんあります。

 

裁判所に提出する相続放棄申述書を書くだけであれば,それほど大変ではありません。

 

しかし,相続放棄の期限の起算日の考え方や,法定単純承認事由に該当する行為(相続放棄をするにあたり,やってはならない行為),債権者への対応など,知らないと全く対応できません。

 

特に期限と法定単純承認事由に該当する行為については,手遅れになってしまうと専門家であってもリカバリーが不可能になります。

 

そのため,相続放棄は自分がすることもあり得るという認識でもって,概要レベルでもよいので知識の備えを持っておくことが重要です。

【相続放棄シリーズ】12 相続放棄は生前に準備をすることが大切

東京駅八重洲口側周辺は,本当に人が少ないです。

 

いまだかつてゴールデンウイークにこのような光景を見たことはなく,緊急事態宣言の効果を強く感じます。

 

相続放棄シリーズ,第12回目は,生前の準備についてです。

 

1 相続放棄は,ご存命のうちから準備をすることがある

相続放棄というと,被相続人が亡くなった後になって多額の借金の存在が明らかになったり,音信不通だった被相続人が亡くなったことを債権者からの催促で知った,という場合にするものというイメージがあります。

たしかに,そのようなケースも多く存在します。

しかし,被相続人がご存命のうちから,被相続人とご家族とが話し合い,相続放棄をすることを決めておくというケースもあります。

 

被相続人が事業などを営んでいて,融資も受けていた(つまり銀行等から借金をしていた)が,重い病気などにより入院生活となってしまい,事業は事実上停止し負債だけが残ってしまったという場合です。

 

病気が進行し,医者から余命が短い旨を伝えられた際に,家族同士で話し合い,予め相続人となる方々が相続放棄の準備を開始します。

 

このような経緯で,被相続人がご存命のうちから,相続放棄の準備についてご相談に訪れる方もたくさんいらっしゃいました。

 

2 相続放棄の生前準備

相続放棄の生前準備を行うケースにおいて,やるべきことはいくつもあります。

 

被相続人の状況に応じて,個別具体的な対応が必要ですが,一般的には次のことを行います。

 

・財産の把握,特に債務の内容(債権者と金額)と不動産所有状況の整理

 

・残置物になり得るもの(被相続人が亡くなったらゴミになり得るもの)の処分

 

・被相続人死亡後に行ってはならない行為(法定単純承認事由)の把握

 

・賃貸借契約がある場合は解約・解除

 

預貯金等がある場合,葬儀費の準備などのために生前贈与をすることもありますが,債権者との関係においては詐害行為になる可能性もあるので注意が必要です。

 

法定単純承認事由に該当する行為を予め知っておくことは,とても大切です。

 

知らずに法定単純承認事由に該当する行為を行ってしまうと,原則として相続放棄ができなくなります。

 

これを覆すのは容易ではありません。

【相続放棄シリーズ】11 相続放棄は書類を裁判所に提出するだけでは終わらない

緊急事態宣言が延長されました。

 

生活も仕事も,なかなか元には戻れない状況が続きます。

 

弁護士として,法律の側面から,皆様のお悩みを解決するために尽力したい次第です。

 

さて,相続放棄シリーズ11回目は,裁判所へ相続放棄申述書を提出した後の話です。

 

1 相続放棄申述書を提出した時の効果

相続放棄の手続きは,相続放棄申述書とその付属書類を裁判所に提出することで開始されます。

 

同時に,相続放棄の申述期限の問題も解消されます(原則として,相続の開始を知った日から3か月以内に相続放棄申述書を提出すれば,期限内に相続放棄の手続を行ったことになります)。

 

相続放棄申述書を提出することで相続放棄が完了するのではなく,相続放棄の手続が開始されるのです。

 

具体的には,裁判所の中で,形式面,法律面双方から,相続放棄の要件を備えているか否かの検討,審議が開始されます。

 

2 相続放棄申述書提出後の,申述人側の手続き

相続放棄申述書を提出すると,裁判所から申述人(またはその代理人)に対し,連絡がなされたり,必要に応じて書面等の追加提出を求められます。

 

具体的には,次のようなものがあります。

 

(1)照会書兼回答書

裁判所から,照会書兼回答書(裁判所によって名称が異なる)が送られることがあります。

 

これは,申述人に相続放棄の意思があることを再確認するほか,事案に応じて裁判所が詳しく事情を把握したい事項についての質問が記載されたものです。

 

回答次第では,相続放棄を却下することもあり得ます。

 

送付の仕方は,裁判所により区々であり,同じ裁判所であっても部署や書記官により運用が異なることもあります。

 

送付は大きく分けて次の3つのパターンがあります。

 

1つめは,申述人本人に送るパターンです。

 

代理人が就いていない場合は当然ですが,代理人が就いていても本人に照会書兼回答書が送付されることがあります。

 

2つめは,代理人が就いている場合に,代理人宛てに送るパターンです。

 

代理人宛てに書面が郵送されてくることの外,FAXで送付されることや,電話で照会されることもあります。

 

3つめは,正確には送付ではないのですが,代理人が就いているときに限り,照会せずに相続放棄を認めるというパターンです。

(2)審問

審問とは,裁判所に行き,裁判官からの質問に回答する手続きです。

 

行われることは少ないですが,提出した書面だけでは相続放棄の要件を満たしているか否かの判断が難しい場合に行われることがあります。

 

相続放棄申述書を提出した後,裁判官が審判をすべき事案であると判断した場合,裁判所から呼び出しがかかります。

 

原則としては,申述先の裁判所へ行き,裁判所の中の部屋で審問を受けることになります。

 

申述先の裁判所が遠方であると,かなり負担になります。

 

(3)その他
書類の追加提出を求められる場合があります。

 

よくあるのが,兄弟姉妹相続の相続放棄において,第二順位の相続人である直系尊属が全て死亡していることを示す戸籍の追完を求められることです。

 

兄弟姉妹は,直系尊属が全て亡くなっていて,初めて相続人になるため,直系尊属が生存していると相続放棄を行う地位になく,相続放棄の要件を欠くことになります。

 

兄弟姉妹相続の相続放棄においては,兄弟姉妹の出生から死亡までの全ての戸籍を収集して提出しますが,その戸籍に中に親の死亡の記載がない場合や,その上の親の死亡が確認できない場合,提出を求められます。

3 相続放棄申述受理通知書が発行されたら

裁判所において,相続放棄の要件を満たすと認められた場合,相続放棄申述受理通知書という書面が発行され,送付されます。

 

基本的には,この書面を取得することができれば,相続放棄は完了したといえます。

 

相続放棄申述受理通知書があれば,対外的にも相続放棄を行ったことを示すことができますし,多くの場合,債権者に対して写しを提供することで請求を止められます。

 

もっとも,相続放棄を行ったことを示す書類には,相続放棄申述受理通知書のほかに,相続放棄申述受理証明書というものがあります。

 

これは,不動産の登記を行う場合等に,必要となることがあります。

 

申述先の裁判所に対し,相続放棄申述受理証明書の請求用紙と,手数料分の収入印紙を郵送することで取得することができます。

【相続放棄シリーズ】10 相続放棄を早く行うメリット

コロナウィルスの影響で外出や経済活動の自粛を求められる中,台風並みの荒天や地震なども重なり,非常に厳しい時を過ごさざるを得ない状況です。

 

今は耐え時と捉え,できることをやっていくという意識で日々の業務に取り組んでおります。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所にて相続を担当している,弁護士の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズも今回で10回目を迎えました。

 

今回は,相続放棄の効果について説明します。

 

1 相続人でなかったことになる

相続放棄は非常に強力な効果を持っています。

 

相続放棄をすると,初めから相続人ではなかったことになります。

 

もちろん,実の親子や兄弟であれば,生物としては血のつながりがありますが,法律上は相続人ではなかったことになります。

 

被相続人の遺産相続に関しては,相続債務のことも含め,全く無関係の存在となります。

 

2 相続放棄は個別に効力を生じる

裁判所に対して相続放棄申述手続きをし,相続放棄が認められると,裁判所から相続放棄申述受理通知書というものが発行されます。

 

相続放棄申述受理通知書には受理日付が記載されますので,この日を以て相続放棄をした旨を対外的にも示すことができます。

 

相続放棄の手続きは,各相続人が個別に行うことができます。

 

他の相続人と疎遠であったり,関係が悪かったりする場合でも,特に他の相続人に相続放棄をする旨を伝える必要はなく,相続人自身の判断で相続放棄手続を進められます(これに対して限定承認は相続人全員が行う必要があります)。

 

3 相続放棄は早めに行った方が良い

相続放棄を考えている場合,できるだけ早く行った方が良い理由が2つあります。

 

1つ目は,相続放棄の申述期限がとても短いことです。

 

相続の開始があったことを知った日から3か月しかありません。

 

相続放棄の申述を行うためには,戸籍謄本類等を収集しなければならないので,ギリギリになってから手続きの準備を始めると間に合わなくなる可能性もあります。

 

もう1つは,相続にまつわるトラブルから一早く脱却できることです。

 

相続放棄が完了すると,もはや相続人ではなくなりますので,相続に関わろうとも関わることができない立場になります。

 

相続に争いが生じ,問題のある相続人から,「この(価値のない)土地をお前が相続しろ」ですとか,「被相続人の借金はお前が背負え」とか言われたとしても,拒否するまでもなく,しようがないのです。

 

問題のある相続人は,相続放棄をすることを妨害してくることも考えられます。

 

そのため,思い立ったら迅速に相続放棄をしてしまうのも手です。

 

また,相続放棄をすれば,債権者から請求を受けることもなくなります。

 

請求を受けたとしても,相続放棄申述受理通知書の写し等を提供することで請求を止めることができます。

 

被相続人の債権者が分かっている場合,早々に相続放棄を行ったことを伝え,他の相続放棄をするつもりのない相続人へ請求してもらうことで,煩わしさから解放されます。