【相続放棄シリーズ】28 相続財産管理人選任申立て

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ28回目は、相続財産管理人選任申立てについてです。

 

正確には、相続放棄とは別個の手続きですが、相続放棄後の相続財産の処理のために必要となる場合もあるので、ここで紹介させていただきます。

 

1 相続財産管理人
一言でいうと、相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を清算する役割を持つ人です。

 

被相続人の財産は、相続人がそもそもいないか、または相続人全員が相続放棄をすると、法概念上、相続財産法人という法人になります。

 

相続財産管理人は、この法人の代表者に位置づけられます。

 

そして、被相続人の財産、たとえば預貯金であれば管理口座に移して管理し、不動産であれば汚損や倒壊等を防ぐ等の管理をします。

 

また、裁判所の許可を得て、必要に応じて財産を換価したり、処分したりします。

 

相続人、受遺者、特別縁故者が現れなかった場合、最終的には相続財産を国庫に納めます。

 

2 相続財産管理人が選任されるケース
大まかに3つのパターンがあります。

 

1つめは、元相続人が相続財産の管理に困っているケースです。

 

特に、古い建物が存在する場合です。

 

建物は人が使っていないと、急速に老朽化します。

 

時が経つにつれ、倒壊の危険が高まったり、不法占拠者が現れるなど、トラブルの発生率が上がります。

 

このようになってしまうと、元相続人に対して、何らかの責任追及がされる可能性もあります(あるいは、法的責任はないにせよ、近隣住民や市役所等から、事実上いろいろな要求がされ、対応に困ることもあります)。

 

そこで、相続財産管理人に相続財産の管理責任を委ね、処分をしてもらうという選択をすることがあります。

 

2つめは、債権者が債権回収をするケースです。

 

被相続人に借金がある場合、相続人が返済を免れるために相続放棄をすることがあります。

 

その結果、債権者は相続人に対して支払いを求めることができなくなるため、相続財産の中にめぼしい財産がある場合には、これを換価して弁済を受けるという選択を取ることがあります。

 

この場合、債権者が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをします。

 

3つめは、市町村等が空き家管理のために申し立てるというケースです。

 

近年、被相続人の家屋が放置され、地域の安全が脅かされたり、土地の有効活用ができなくなるという問題が増えています。

 

空き家の中には、相続人が元々不在のものや、相続人全員が相続放棄をしたものもあります。

 

このような空き家について、市町村等が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをし、空き家の処分をするという形になります。

 

3 相続財産管理人選任申立ての手続き
家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任申立書と、付属資料を提出します。

 

付属書類の中には、財産目録がありますので、可能な限り正確に被相続人の財産を調査して、疎明資料とともに提出します。

 

また、相続人全員が相続放棄をしたことで相続人不在となった場合には、相続放棄申述受理通知書の写しや、相続放棄照会結果の写し等を添付します。

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【情報セキュリティ】4 セミナー受講2

猛暑が続く季節となりました。

 

熱中症予防と体調管理には気を付けたいところです。

 

前回に引き続き、セキュリティ対策セミナーで学んだことについて記していきます。

 

今回は、テレワーク普及に伴って増えたサイバー攻撃についてです。

 

 

1 偽の会議招集等
コロナウィルスの蔓延により、テレワークやオンラインミーティングが普及してきました。

 
士業においてもテレワークをする方は増えましたし、会議やセミナーなどもオンライン出開催されることが増えました。

 
ネットワークを介して業務環境やミーティング環境へ接続する以上、接続先を指定する必要があります。

 
接続先情報は、メールなどで発信されることが多く、メールに記載されたアドレスにアクセスすることで、オンラインでの業務が可能となります。

 
この仕組みを悪用し、あたかもセミナーやオンラインミーティングの招集を装ったメールを送信する手法があります。

 
メールに記載された接続先にアクセスすると、マルウェアを仕込まれたりするという仕掛けです。

 
これに対しては、見覚えのない招集が来た場合、いったん疑ってみる以外の対処法はありません。

 

 

2 PC画面ののぞき見
非常に原始的かつ古典的な情報漏洩です。

 
オンラインで業務をすることができる環境が整うと、当然執務室以外の場所でPCを開く機会が増えます。

 
自宅の自分の部屋や、ホテルの部屋などでPCを開く分には問題は少ないですが、カフェや電車など、他の人が画面を見ることができる環境でPCを開いてしまうと、場合によっては機密情報を見られてしまいます。

 
特に、今はスマホを用いて誰でも長時間の録画が可能です。

 
PCの画面を録画されてしまう可能性もあります。

 
PCののぞき見は、のぞき見が起きる環境でオンライン業務を行わないことでしか、対策を取ることができません。

 

 

3 オンライン会議の盗み聞き
PCののぞき見と同様に、他の人に聞かれる環境でオンライン会議をしてしまうと、会話の内容を知られることがあります。

 
特に、イヤホンをセットしてオンライン会議をしてしまうと、自覚なく大きな声で話してしまうことが多いです。

 
その結果、少し離れている場所にいても、会話の内容が聞こえてしまうことがあります。

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【情報セキュリティ】3 セミナー受講1

令和3年8月になりました。

 

今年も35℃を超えるような日もあり、健康管理上、熱中症対策が大切です。

 

さて、先日弁護士ドットコム様開催の弁護士向けセキュリティセミナーを受講しました。

 

セミナー講師は、前職時代にセキュリティ診断を依頼したこともある、LAC様でした。

 

小職がセキュリティの現場に関わっていたのは10年近く前なので、最新の動向を学ぶうえで、大変参考になりました。

 

以下、今回と次回に渡り、学んだことを、私見を交えて紹介します。

 

 

1 アンチウィルスソフトだけではダメ
サイバーセキュリティ対策の手法として、最も基礎的かつポピュラーなものの一つは、(ネットワークにつながっている)PCにアンチウィルスソフトを導入することです。

 
もちろん、これは必ず行わなければならないと言っても過言ではないセキュリティ対策です。

 
しかし、アンチウィルスソフトは、セキュリティ事故発生の確率を下げることができるにすぎません。

 
アンチウィルスソフトには、2つの弱点があります。

 
1つは、真新しいマルウェアに対しては無防備であるという点です。

 
マルウェア検出方法のうち、最もポピュラーなものは、パターンマッチング法です。

 
これは、プログラムの文字配列を見て、マルウェアであるか否かを判断する手法です。

 
この手法は、前提として、アンチウィルスソフト側で、マルウェアプログラムの文字配列データを保持している必要があります。

 
そのため、文字配列データがない最新のマルウェアを検出することができません。

 
この現象は、ゼロデイ・エクスプロイトなどと呼ばれます。

 
もう1つは、平時行われる動作を用いた攻撃を防げないという点です。

 
具体的には、マルウェアを仕込んだ不正なウェブサイトへのアクセスを防げないという点です。

 
インターネットの閲覧は、通常の業務でも行うため、アンチウィルスソフトからすると、見分けがつきません。

 
このような攻撃に対しては、インターネットゲートウェイにおける出口対策をする必要があります。

 
もっとも、出口対策も、ゼロデイ・エクスプロイトに対しては対抗できません。

 

 

2 サイバー攻撃の多くは金銭を目的としたもの
最近よく聞くマルウェアの一つに、ランサムウェアと呼ばれるものがあります。

 
これは、感染したPC内のファイルを暗号化し、暗号化解除と引き換えに金銭を要求するというマルウェアの一種です。

 
重要なデータが暗号化されてしまうと、業務の進行や取引などの重大な支障が生じることから、身代金支払に応じてしまうケースもあります。

 
サイバー攻撃というと、一般的なイメージとしては、一部のマニアが愉快犯的にマルウェアを作り出してばら撒いたり、特定の思想信条を有する人が国や大資本組織を攻撃するというものがあるかと思います。

 
もちろん、このようなケースもありますが、大半は金銭目的によるものです。

 
もっとも、金銭目的による攻撃者は、闇サイトから攻撃ツールや脆弱性情報を取得して、攻撃を行います。

 
その大元の攻撃ツール、脆弱性情報を提供している人は、愉快犯なのかもしれません。

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【情報セキュリティ】2 原始的な対応が一番大切

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

本格的に暑くなる時期が迫って参りました。

 

体調管理には気を付けたいところです。

 

今回は、前回に引き続き、情報セキュリティのお話です。

 

 

1 システム分野における情報漏洩のイメージ
情報を外部から盗み出すというと、どのようなイメージを持たれますでしょうか。

 

高度な技術を持ちながらも、これを悪用する人が、日夜黒い画面(CUI)に複雑なコマンドを入力し続け、企業等のシステムに侵入して情報を抜き出す、という場面を想像するかもしれません。

 

あるいは、何万行ものプログラムで構成されたコンピューターウィルス(マルウェア)を作成し、ネットワークに載せて流すことで、コンピューターウィルスに感染したシステムから情報を流させるというイメージもあるかもしれません。

 

もちろん、これは間違いではないです。

 

実際、このような形でデータが流出することもあります。

 

(企業のウェブシステムのアウトサイドファイアウォールのログなどを見ると、毎秒のようにポート番号をスキャンされていたりします)

 

このような攻撃に対する対応はもちろん大切ですが、これはシステム技術者に任せるしかありません。

 

情報漏洩対策は、上記のような高度な技術を持った攻撃に対するものだけでは足りません。

 

むしろ、もっと身近な場所で、原始的な手法によって発生する情報漏洩の方が多く、これに対する対応の方が重要です。

 

そしてこれは、システム技術者はもちろんですが、事業に携わる方全てが行わなければなりません。

 

 

2 原始的な原因による情報漏洩
先に例を列挙すれば、パスワードの盗み見・盗み聞き、書類の持ち出し・スマホでの撮影、メール・FAXの誤送信、USBメモリによるデータの抜き出しなどが挙げられます。

 

これらは、いずれも特殊な技術は要りません。

 

システム技術者でなくても、誰でもできてしまう(起こってしまう)ことです。

 

私の知っている事務所では、辞めた従業員が夜中に顧客ファイルをごっそり運び出し、そのまま連絡が取れなくなったいうこともありました。

 

従業員の出入りの管理や、鍵の回収等、システムとは全く無関係な、原始的な対策をしっかり行わないと、このような形で情報セキュリティが保てなくなります。

 

情報漏洩の多くは、内部の者(内部に出入りする者含む)による、意図的な持ち出しか、または過失による流出です。

 

意図的な持ち出しは論外ですが、過失による情報漏洩は、起こしてしまった当の本人も、深刻な精神的ダメージ(場合によっては損害賠償責任)を負います。

 

そのため、仕組みでもって、原始的なセキュリティ事故が起こらないようにすることが大切です。

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【情報セキュリティ】1 情報セキュリティスペシャリスト

令和3年7月になりました。

 

これから暑い日も増えてくると予想されます。

 

熱中症には気を付け、しっかりエアコンを入れ、水分補給を行うことが大切です。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は、情報セキュリティについてのお話です。

 

 

1 顧客情報
私は、弁護士になる前、航空会社の情報システム部門に勤務していたことがあります。

 

航空会社は、膨大な数の搭乗者の方の情報を扱います。

 

また、マイレージ関連のサービスにおいては、ご住所やご家族の情報など、非常にセンシティブな情報を扱わなければなりません。

 

航空サービスは、政治家や著名人の方なども使用します。

 

そのため、顧客情報は極めて厳重に取り扱わなければなりません。

 

もちろん、航空業界に限らず、お客様の重要な情報を扱うお仕事であれば、顧客情報の管理は重要な課題となります。

 

弁護士の業務も、お客様の財産に関する情報や、身分関係の情報など、非常にセンシティブなものを扱いますので、細心の注意が必要となります。

 

 

2 情報セキュリティスペシャリスト
そこで当時の私は、仕事の一環として情報セキュリティを体系的に学ぶため、情報セキュリティスペシャリスト(現在は廃止され、後継資格として情報処理安全確保支援士)という資格試験の勉強をしていました。

 

情報セキュリティスペシャリストは、情報処理の促進に関する法律に基づき、経済産業省の管轄で、独立行政法人情報処理推進機構が実施する、国家認定資格のうち、専門性、複雑性、責任性、規模が大きい高度情報処理技術者試験の一つとして位置づけられていました。

 

1回不合格となったものの、高度情報処理技術者試験としては珍しく春と秋の年2回試験が実施されていたので、1年以内に2回目の受験で合格することができました。

 

出題範囲は幅広く、暗号化やサイバー攻撃手法の意義を問うものから、プログラミングの脆弱性、ネットワーク(ファイアウォール含む)の構築・設定ポリシー、人的対策など、様々な問題が出題されました。

 

 

3 セキュリティのリテラシーはシステム関係者以外にとっても重要
システムに関する分野は非常に多岐にわたります。

 

多くは、システム関係者側にとって必要な知識です。

 

もっとも、セキュリティ関しては、システム関係者だけでなく、システムを利用する側も十分に知っておくべきものであると考えております。

 

さらにいえば、情報漏洩は、システムに起因するとは限りません。

 

極端な話、事業所の鍵を閉め忘れた隙に、顧客ファイルを持ち去られるということもあります。

 

このような事象に対する対策も含め、セキュリティリテラシーは、事業に関わる方すべてにおいて、高度なものが求められると考えております。

 

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【相続放棄シリーズ】27 債権者側の対応2

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ27回目となる今回も、債権者サイドについてのお話をします。

 

今回は、特に問題となりがちな、被相続人が賃貸住宅に住まわれていた場合の、賃貸人の対応です。

 

1 相続放棄と賃貸物件
相続人が相続放棄をする場合、被相続人の賃貸物件との関係では、大きく分けて2つの問題があります。

 

1つは、賃貸物件の賃貸借契約の問題です。

 
賃貸借契約によって発生する被相続人の賃借権は、相続財産となります。

 
一般論として、賃借権は価値の高い財産であることから、相続人が賃貸借契約を合意解除してしまうと、相続財産の処分に該当してしまう可能性が残ります。

 
その結果、相続放棄ができなくなる可能性があります。

 

もう1つは、被相続人の残置物です。

 
被相続人の残置物も、相続放棄をする場合、原則として一切処分することができません。

 
実務上、売却できない(換価価値がない)ものについては、相続財産を形成しない(いわゆるゴミの扱い)ものとして、処分しても問題ないとすることもあります。

 
しかし、相続財産の処分として見られる可能性も残ります。

 

2 賃貸人側の立場
上記の問題は、相続放棄をしようとしている相続人以上に、賃貸人側として非常に深刻なものだと考えられます。

 

賃貸借契約が解除できず、かつ残置物を除去することもできない状態では、新たな賃貸人に家屋を貸すことができません。

 

そのため、賃料を得ることができない状態が、長期間にわたって生じるリスクがあります。

 

法的に解決するとすれば、すべての相続人が相続放棄をするのを待ち、裁判所へ相続財産管理人選任の申立てをしたうえで、賃貸借契約の解除と残置物の処分をすることになります。

 
(もし被相続人に財産があれば、未回収の賃料等を回収できる可能性もあります)

 

もっとも、相続人全員が相続放棄をするのを待つだけでも相当な時間がかかります。

 

大まかに見ても、兄弟姉妹(場合によってはその代襲相続人)まで相続放棄を終えるには、6か月以上かかる可能性があります。

 

さらに、その後に相続財産管理人選任申立てをし、相続財産管理人の選任を待って財産の処分が完了するまでも、相当の期間を要します。

 

その間、家屋を貸し出すことができませんので、機会損失は相当なものとなります。

 

3 私見
相続放棄と、被相続人の賃貸借契約との間の問題については、現行法での解決には限界があると感じています。

 

被相続人の残置物については、財産的価値がないことを証明できるようにしたうえで処分することもありますが、現行法上、相続人側がリスクを負うことになります。

 

賃貸借契約を消滅させるためには、相続人と賃貸人との間で合意解除をすることはできないため、賃貸人側から賃料未払い等を理由とした法定解除をしてもらう必要があります。

 

そもそも、賃借人が亡くなり、その相続人が相続放棄をするリスク自体が、あまり認識されていないという現状もあるかと思います。

これは私の思い付きでしかありませんが、一つの方法として、賃貸人は賃貸用不動産を取得する際、不動産会社が賃借人の死亡とその相続人が相続放棄をし得る旨を説明し、かつ、そのような場合に備えた保険商品などができてくれればよいのではないかと考えております。

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【相続放棄シリーズ】26 債権者側の対応1

令和3年6月になりました。

 

梅雨の時期なので、天候の変化はもちろん、食中毒等にも気を付けたいところです。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ26回目です。

 

今回は、相続放棄がなされた際の、債権者側の対応のうち、金銭債権を有している貸金業者や金融機関側の対応を考えてみます。

 

1 相続放棄の効力

まず、原則の確認です。

 

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになります。

 

この効力は非常に強力です。

 

元相続人は、被相続人の財産・負債に関しては、(管理責任を除き)完全に無関係の存在になります。

 

被相続人にほぼ財産がなく、負債のみがあった場合は、元相続人には管理責任もありません。

 

本来的には、相続人は、被相続人の金銭債務のうち、法定相続割合に該当する部分を負担します。

 

そのため、債権者は、相続人に対し、法定相続割合の限度で、被相続人の債務の弁済を求めることができます。

 

しかし、相続人が相続放棄をした場合、法的に被相続人の債務を負わなくなくなりますので、請求は不可能となります。

 

2 法定単純承認事由

相続放棄は、法定単純承認事由に該当する行為がなされていた場合、効力を失います(正確には、単純承認になります)。

 

債権者としては、債務者である被相続人の相続人が相続放棄をしたとしても、法定単純承認事由が存在することを主張し、相続放棄の効力を覆して、金銭の支払を請求できる途はあります。

 

もっとも、実務上、これを行うのは容易ではないことが多く、実際このような請求がされるケースは非常に少ないです。

 

相続放棄をした元相続人が、任意の支払に応じることはほぼないため、もし支払いを請求するのであれば、訴訟等によるのが通常です。

 

債権者側は、金銭消費貸借契約の存在や、相続の発生を請求の原因として、元相続人に請求します。

 

これに対し、元相続人は、相続放棄をしていることを理由に、支払う義務はない旨の反論をします。

 

そして、債権者側が再反論として、法定単純承認事由の存在を主張することになると考えられますが、この時、法定単純承認事由の存在を、証拠を以て証明しなければなりません。

 

被相続人の不動産を相続し、名義変更も行ったうえで売却したなど、客観的記録である不動産登記情報を以て証明可能であるような場合を除き、法定単純承認事由の存在を証明することは、一般的には非常に困難です。

 

3 実際の金銭債権者の対応

相続放棄をした元相続人に対し、被相続人の金銭債務の履行を求めることは容易ではありません。

 

債権額が大きく、かつ法定単純承認事由の存在を容易に証明できそうな場合を除き、相続放棄をした元相続人に対して支払いを求めることは、労力・費用対効果の面において合理的でないことが多いです。

 

そのため、多くの場合、相続人が相続放棄をすることを伝えた段階で請求を一時停止し、相続人が相続放棄をしたことを知った段階で回収不能として処理します。

 

貸金業者や金融機関としては、相続人が遠縁である場合などは、回収不能として処理をするために、相続放棄申述受理通知書の写しが必要という場合もありますので、相続放棄が完了したら、相続放棄申述受理通知書の写しを早急に提供します。

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【受験シリーズ】11 純粋未修者

令和3年も5月になりました。

 

暖かくなってきたので、コロナウィルス感染も減っていくことを祈ります。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は、受験シリーズ第11回目です。

 

1 純粋未修者
ロースクールにおける造語(スラング)の一つに、純粋未修者という言葉があります。

これは、ロースクールの未修者コース(3年間)に入学し、法学部出身ではない人のことを指します。

前提として、ロースクールには大きく2つのコースがあります。

1つは、法律を勉強したことがない人(未修者)向けのコースです。

3年間のカリキュラムで修了となります。

もう1つは、法学部などで法律を勉強した人(既修者)向けのコースです。

2年間のカリキュラムで修了となり、入学試験に合格しないと入れません。

本来的には、未修者向けコースは、法学部出身者ではない人を想定したコースです。

しかし、現実には、法学者出身の人がたくさんいます。

少なくとも、私が入学したときはそうでした。

そのため、未修者向けコースの中でも、法学部出身者でない人のことを、法学部出身者と分ける趣旨で、「純粋」未修者と呼ぶことがあります。

私は理工学部出身で、法律とは関係のない仕事をしたのちにロースクールへ入学しましたので、純粋未修者でした。

 

2 純粋未修者には厳しい現実
純粋未修者は、法律に関するバックグラウンドが全くありません。

既修者や、法学部出身の未修者と比べ、スタートラインで大きく出遅れる形となります。

法律の知識だけでなく、答案作成経験や、点取りテクニックなど、あらゆる面で差があります。

ロースクールは基本的に相対評価であり、ロースクールによっては相対的成績下位者を留年させることもありますので、純粋未修者は進級すら危ぶまれることになります。

3年で無事修了できる純粋未修者は、入学時の半分以下になることもあります。

 

3 それでも合格できる
私は純粋未修者ですが、何とか1回で司法試験に合格することができました。

純粋未修者であるだけでなく、受験時には30代後半であり、体力も思考力も、大半の受験生よりも劣っていました。

もともとの学力がずば抜けて高いわけでもありません。

本来、司法制度改革は、法律以外の分野出身の人材を法曹界に増やそうという狙いがありました。

純粋未修者が司法試験に合格できないどころか、受験に至ることすらできない現実を、私は変えたいと思っています。

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【受験シリーズ】10 趣旨と規範

令和3年も5月に入りました。

 

昨年の5月は、初の緊急事態宣言が出され、外出者が非常に少ないという、異例の光景が見られました。

 

今年も、再度コロナウィルスの影響が強まっていますので、日ごろから気を付けたいものです。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

今回は受験シリーズの10回目です。

 

1 納得と記憶
司法試験においては、考え方や理解が非常に大切といわれます。

もちろん、それはその通りです。

一方で、やはり覚えなければどうにもならないものもあります。

規範は、その最たるものの一つであると考えられます。

問題は、覚え方にあると考えられます。

判例規範や、論証パターンを、文字列として暗記をするのは、目の前の点数を取得しなければならない状況下においては、応急処置としては良いかもしれません。

しかし、応用が利きませんし、記憶が長続きしません。

人間の記憶は、納得が得られたとき、長期記憶として残るといわれています。

納得と理解は、この場面においてはほぼ同義です。

では、同じことを覚えるとしても、納得を得て覚えるためにはどうすればよいのでしょうか。

 

2 趣旨と規範
条文や条文上の単語の解釈について、納得を得るためには、趣旨を読むことです。

ある条文が、何のために生み出されたのかを知ることで、単語の解釈の仕方にも納得がいきます。

納得さえすれば、忘れにくくなるので、試験本番でも自然に引き出すことができるようになります。

そして、趣旨は、規範ともつながってきます。

規範は、趣旨からさかのぼって生み出されることが多いためです。

条文の趣旨を知っていれば、(一字一句正確にではないにせよ)規範を思い出すことがしやすくなります。

意味も分からず、無理矢理文字列として覚えた規範を捻りだすのとは、根本的に違います。

時には、判例のパターンから、少しずらした事案が出題されることもあります。

このような場合こそ、趣旨からさかのぼって、判例規範に応用を加えるということもできるようになります。

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【相続放棄シリーズ】25 付随問題への対応2

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ25回目の今回は、前回に引き続き、相続放棄に付随する問題への対処法を説明していきます。

 

1 被相続人の負債
結論としては、支払う必要はありません。

相続放棄が成立した後は、はじめから相続人ではなかったことになります。

被相続人の負債を相続しませんので、支払いに応じる法的根拠がなくなります。

実務上の対処法としては、まず相続放棄をすることを決めた段階で、債権者へ連絡します。

債権者側へ伝えることで、いったん請求を停めてもらえるためです。

相続放棄が完了し、相続放棄申述受理通知書が発行されたら、その写しを債権者へ提供します。

 

2 残置物
法律上は、何もする必要がありません。

原則論でいえば、相続人全員が相続放棄をした後、賃貸人が相続財産管理人選任の申立てをし、相続財産管理人に明渡を求めればよいためです。

もっとも、賃貸人からの明渡要求が厳しく、精神的に辛いというケースもあります。

また、後述するように、被相続人の保証人になっている場合は、明渡完了までの間の家賃(相当額)を支払わなければならなくなります。

相続財産管理人選任を待っていると、保証人として支払う金額が大きくなる恐れがあります。

実務上は、明らかに財産的価値のない残置物は、いわゆるゴミとして扱い、相続財産を形成しないと解釈し、処分して明渡すこともされています。

ただし、裁判所が明確に認めたわけではないので、法定単純承認事由となるリスクが残ることは認識が必要です。

財布(現金)や預金通帳など、財産的価値があるものは、しっかり保管しておきます。

 

3 不動産(建物)、自動車
現行法上、これらを処分すると、原則として、法定単純承認事由に該当することになります。

土地建物を売却することはもとより、建物を取り壊すことも法定単純承認事由に該当します。

自動車の廃車手続、廃棄も同様です。

これらを、法定単純承認事由に該当することなく処分するには、相続財産管理人選任の申立てが必要になります。

被相続人に債権者がいて、かつ売却価値のある不動産、自動車であれば、債権者側が相続財産管理人選任の申立てをする可能性もあります。

 

4 被相続人の保証人になっている
結論としては、相続放棄をしても保証債務を免れることはできないため、支払いに応じる必要があります。

保証の範囲は、保証契約によって変わる可能性があるため、保証契約の中身をしっかり確認します。

特に住宅の賃貸借の場合、原則として、保証人には明渡義務そのものはなく、原状回復義務および明渡遅延期間の賃料相当額の支払義務があります。

明渡ができないため、法律論的には、相続財産管理人選任の申立てをし、賃貸物件内の残置物処分と、賃貸借契約の解除をする必要があります。

もっとも、非常に時間も費用も要することから、実務上は、残置物を別の場所に保管するか、リスクを負って財産的価値がないものを処分するという方法がとられることも多いです。

また、保証人になっている場合に気を付けたいのは、被相続人が賃貸物件で死亡した場合です。

いわゆる事故物件になったとして、保証人に対し、損害賠償を求められることがあります。

被相続人が自殺をしたのか、病気や事故で亡くなったのかによっても、損害賠償義務の有無や額が変わってきます。

自殺の場合には、損害賠償義務を認めた裁判例もあります。

そのため、死因についてはしっかりと資料、証拠を集めたうえ、厳格な交渉を行います。

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