【相続放棄シリーズ】27 債権者側の対応2

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ27回目となる今回も、債権者サイドについてのお話をします。

 

今回は、特に問題となりがちな、被相続人が賃貸住宅に住まわれていた場合の、賃貸人の対応です。

 

1 相続放棄と賃貸物件
相続人が相続放棄をする場合、被相続人の賃貸物件との関係では、大きく分けて2つの問題があります。

 

1つは、賃貸物件の賃貸借契約の問題です。

 
賃貸借契約によって発生する被相続人の賃借権は、相続財産となります。

 
一般論として、賃借権は価値の高い財産であることから、相続人が賃貸借契約を合意解除してしまうと、相続財産の処分に該当してしまう可能性が残ります。

 
その結果、相続放棄ができなくなる可能性があります。

 

もう1つは、被相続人の残置物です。

 
被相続人の残置物も、相続放棄をする場合、原則として一切処分することができません。

 
実務上、売却できない(換価価値がない)ものについては、相続財産を形成しない(いわゆるゴミの扱い)ものとして、処分しても問題ないとすることもあります。

 
しかし、相続財産の処分として見られる可能性も残ります。

 

2 賃貸人側の立場
上記の問題は、相続放棄をしようとしている相続人以上に、賃貸人側として非常に深刻なものだと考えられます。

 

賃貸借契約が解除できず、かつ残置物を除去することもできない状態では、新たな賃貸人に家屋を貸すことができません。

 

そのため、賃料を得ることができない状態が、長期間にわたって生じるリスクがあります。

 

法的に解決するとすれば、すべての相続人が相続放棄をするのを待ち、裁判所へ相続財産管理人選任の申立てをしたうえで、賃貸借契約の解除と残置物の処分をすることになります。

 
(もし被相続人に財産があれば、未回収の賃料等を回収できる可能性もあります)

 

もっとも、相続人全員が相続放棄をするのを待つだけでも相当な時間がかかります。

 

大まかに見ても、兄弟姉妹(場合によってはその代襲相続人)まで相続放棄を終えるには、6か月以上かかる可能性があります。

 

さらに、その後に相続財産管理人選任申立てをし、相続財産管理人の選任を待って財産の処分が完了するまでも、相当の期間を要します。

 

その間、家屋を貸し出すことができませんので、機会損失は相当なものとなります。

 

3 私見
相続放棄と、被相続人の賃貸借契約との間の問題については、現行法での解決には限界があると感じています。

 

被相続人の残置物については、財産的価値がないことを証明できるようにしたうえで処分することもありますが、現行法上、相続人側がリスクを負うことになります。

 

賃貸借契約を消滅させるためには、相続人と賃貸人との間で合意解除をすることはできないため、賃貸人側から賃料未払い等を理由とした法定解除をしてもらう必要があります。

 

そもそも、賃借人が亡くなり、その相続人が相続放棄をするリスク自体が、あまり認識されていないという現状もあるかと思います。

これは私の思い付きでしかありませんが、一つの方法として、賃貸人は賃貸用不動産を取得する際、不動産会社が賃借人の死亡とその相続人が相続放棄をし得る旨を説明し、かつ、そのような場合に備えた保険商品などができてくれればよいのではないかと考えております。

【相続放棄シリーズ】26 債権者側の対応1

令和3年6月になりました。

 

梅雨の時期なので、天候の変化はもちろん、食中毒等にも気を付けたいところです。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ26回目です。

 

今回は、相続放棄がなされた際の、債権者側の対応のうち、金銭債権を有している貸金業者や金融機関側の対応を考えてみます。

 

1 相続放棄の効力

まず、原則の確認です。

 

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになります。

 

この効力は非常に強力です。

 

元相続人は、被相続人の財産・負債に関しては、(管理責任を除き)完全に無関係の存在になります。

 

被相続人にほぼ財産がなく、負債のみがあった場合は、元相続人には管理責任もありません。

 

本来的には、相続人は、被相続人の金銭債務のうち、法定相続割合に該当する部分を負担します。

 

そのため、債権者は、相続人に対し、法定相続割合の限度で、被相続人の債務の弁済を求めることができます。

 

しかし、相続人が相続放棄をした場合、法的に被相続人の債務を負わなくなくなりますので、請求は不可能となります。

 

2 法定単純承認事由

相続放棄は、法定単純承認事由に該当する行為がなされていた場合、効力を失います(正確には、単純承認になります)。

 

債権者としては、債務者である被相続人の相続人が相続放棄をしたとしても、法定単純承認事由が存在することを主張し、相続放棄の効力を覆して、金銭の支払を請求できる途はあります。

 

もっとも、実務上、これを行うのは容易ではないことが多く、実際このような請求がされるケースは非常に少ないです。

 

相続放棄をした元相続人が、任意の支払に応じることはほぼないため、もし支払いを請求するのであれば、訴訟等によるのが通常です。

 

債権者側は、金銭消費貸借契約の存在や、相続の発生を請求の原因として、元相続人に請求します。

 

これに対し、元相続人は、相続放棄をしていることを理由に、支払う義務はない旨の反論をします。

 

そして、債権者側が再反論として、法定単純承認事由の存在を主張することになると考えられますが、この時、法定単純承認事由の存在を、証拠を以て証明しなければなりません。

 

被相続人の不動産を相続し、名義変更も行ったうえで売却したなど、客観的記録である不動産登記情報を以て証明可能であるような場合を除き、法定単純承認事由の存在を証明することは、一般的には非常に困難です。

 

3 実際の金銭債権者の対応

相続放棄をした元相続人に対し、被相続人の金銭債務の履行を求めることは容易ではありません。

 

債権額が大きく、かつ法定単純承認事由の存在を容易に証明できそうな場合を除き、相続放棄をした元相続人に対して支払いを求めることは、労力・費用対効果の面において合理的でないことが多いです。

 

そのため、多くの場合、相続人が相続放棄をすることを伝えた段階で請求を一時停止し、相続人が相続放棄をしたことを知った段階で回収不能として処理します。

 

貸金業者や金融機関としては、相続人が遠縁である場合などは、回収不能として処理をするために、相続放棄申述受理通知書の写しが必要という場合もありますので、相続放棄が完了したら、相続放棄申述受理通知書の写しを早急に提供します。