【相続放棄シリーズ】21 判明していない相続債務

令和3年1月になりました。

 

つい最近元号が変わったという感覚でしたが,もう3年目にもなるのですね。

 

今回は相続放棄シリーズ21回目,被相続人の相続債務についてです。

 

1 相続債務

相続放棄の大きな効果の一つに,被相続人の債務を免れることができるというものがあります。

 

自己破産と異なり,租税に関する債務も免れることができます。

 

被相続人に債務があるか否かについては,遺品の中に債権者からの請求書があったり,被相続人死亡後に債権者からの通知書が送られてきたりすることで判明します。

 

もっとも,問題は,すべての債務を網羅的に把握することが簡単ではないという点です。

 

債権者からの請求書が発見されたりすると,他にも債務が存在するのではないかという疑いが生じます。

 

相続人の立場で,CICやJICCから被相続人の信用情報を取得することで,どの貸金業者から,どの程度の金銭の借入をしているかを把握することはできます。

 

もっとも,債権譲渡がなされていたり,個人からの借入があったりする場合は,信用情報によっても調査しきることができないこともあります。

 

2 真の動機は「どんな債務が潜んでいるかわからない」こと

相続放棄の動機は,「債務超過」すなわち被相続人の保有資産よりも,負債の方が多いため,負債から免れたいというものが非常に多いです。

 

もっとも,上記の通り,負債の全貌が明らかになっていることは稀です。

 

むしろ,債務者本人が死亡してしまっている以上,どこにどれだけの債務を有していたかを100%調査しきることは,理論的にも困難です。

 

そこで,相続人でなくなることで包括的に相続債務を免れる,という相続放棄が功を奏します。

 

相続放棄をしてしまえば,将来突然判明していなかった債務の弁済を迫られたとしても,対応できるためです。

 

相続債務をすることで,いつ誰から債務の弁済を求められるかわからない,という恐怖から解放されます。

 

3 実際に,相続放棄をしてからしばらく経って債権者から支払請求されることもある

相続放棄の手続をした時点で判明していた相続債務の債権者に対しては,相続放棄申述受理証明書を提示するなどにより,請求をストップしてもらいます。

 

ところが,相続放棄を終えてからしばらくして,債権者を名乗る者から相続人に対する請求がなされることがあります。

 

これは,相続放棄をしたことは公開されないため,債権者側は相続人が相続放棄をしていることを認識できないことに起因します(正確には,裁判所に対して相続放棄の申述の有無を照会することはできますが,債権者にはそこまで調査するメリットがありません)。

 

そのような場合も,やる事は同じです。

 

まず債権者に連絡を取り,相続放棄をしたことを伝えます。

 

そのうえで,相続放棄申述書を提示することで,通常は解決します。

 

もっとも,法律の専門家でない本人が,債権取立のプロに連絡を取り,お話をすることはとても怖いかもしれません。

 

もしかすると,答え方によっては,支払い義務を発生させられるかもしれないという心理が働くためです。

 

そのような場合,相続放棄を担当した弁護士を通じて,債権者との話を付けてもらうことが有効です。

【相続放棄シリーズ】20 質問状のあれこれ

新年が明け,1月になりました。

 

思えば,コロナウィルスは昨年の1月くらいに話題に上り始め,それからいろいろな面で生活が変わりました。

 

相続放棄シリーズ第20回目の今回は,裁判所から送付されてくる質問状についてです。

 

1 相続放棄申述後の流れ

法律上の相続放棄を行う際には,相続放棄申述書という書類を作成し,戸籍謄本類などの必要書類を添付して,期限内に管轄の裁判所に提出します。

 

なお,申述書を提出して,裁判所で事件番号が付与されれば,原則として期限の問題はなくなります。

 

裁判所によって受付がなされた後,裁判所によって,質問状が送付されます。

 

質問状は,「照会書」や「照会書兼回答書」などの名称が付けられることが多いです。

 

質問状は,送付の仕方や,質問の内容などが裁判所によって区々です。

 

2 送付の仕方

本人が相続放棄の申述を行っている場合,通常は申述書に記載した住所地へ質問状が送られてきます。

 

本人が裁判所へ直接申述書を持ち込む場合,受付の場所で質問状を記入するよう指示されることもあります。

 

裁判所で記入した場合は,特に不備等がなければ,後で質問状が送られることはないです。

 

代理人弁護士が本人の代理として申述を行っている場合は,さらにバリエーションが増えます。

 

代理人弁護士宛ての質問状が代理人事務所に送付される場合,本人宛の質問状が本人の住所地に送付される場合のほか,本人宛の質問状(本人が記入する必要がある)が代理人弁護士の事務所に送付されることもあります。

 

代理人宛ての質問状の場合,郵送の場合もあれば,FAXの場合もあります。

 

また,裁判所によっては,電話照会ということもあります。

 

3 質問状の内容

裁判所が質問状を送付する趣旨は,本人の真意で申述していることの確認,および法定単純承認事由に該当する行為の有無の確認にあると考えられます。

 

質問の内容は,この2点にフォーカスしたものが中心となります。

 

質問の数は,3~5問程度の場合もあれば,10問以上に及ぶ場合もあります。

 

裁判所によって運用が異なることに加え,相続人死亡から3か月以上経過している場合など,イレギュラーな事情があると質問が増えたり,複雑化する傾向があります。

 

代理人弁護士宛てに質問状が発行される場合,経験上は,かなり質問がシンプルです。

 

弁護士が介入していることから,ある程度の信用性が担保されているという前提があるためだと考えられます。

 

なお,弁護士が代理人に就いている場合に限り,質問状を送付しない(つまり質問なし)裁判所もあります。