【相続放棄シリーズ】19 被相続人が事業を行っていた場合

9月に入りました。

 

徐々に暑さは和らいでいくと考えられるものの,まだまだ猛暑の日もあるかもしれませんので,熱中症対策は重要です。

 

被相続人の財産状況を理由に相続放棄を検討する際,相続財産を調査する必要があることがあります。

 

今回は,相続放棄シリーズ19回目,被相続人が個人で事業を営んでいた場合についてです。

 

法律上は,相続放棄は被相続人が自営業者であったか雇用されていたかは問題になりません。

 

もっとも,前提となる財産の調査は,前者の方が格段に労力を要する傾向にあります。

 

1 被相続人が個人事業主であった場合

法人の代表者ではなく,個人で自営業をされていた場合です。

 

業種や規模にもよりますが,財産状況が非常に複雑になる傾向にあります。

 

小売り業のように,在庫を有する業態の場合,多品種を扱っていると,在庫のカウントと評価額の計算だけでも膨大な作業になることがあります。

 

また,仕入先とお得意様がいくつもある場合,買掛金,売掛金のような金銭債権,金銭債務も多数存在します。

 

意外と盲点なのが,被相続人が医師であった場合です。

 

特に調剤も行っていた場合は,多品種の薬剤が存在することもあり,専門的な分野なので仕入先も区々だったりします。

 

税理士などが被相続人の顧問についていた場合は,会計書類の作成も委任を受けている場合が多いので,まずは顧問税理士の方に話をして,被相続人死亡時点での財産に関する資料を請求するところから始めます。

会計書類には,在庫の状況や,売掛金,買掛金のほか,手元現金や預貯金などの情報が載っているからです。

 

被相続人が自身で会計帳簿等を作成していた場合は,非常に困難になることがあります。

 

この場合は,被相続人の遺産整理を地道に行っていくほかありません。

 

2 被相続人が法人の代表者であり持分や株式を有していた場合

この場合は,相続人は,被相続人の会社の財産・負債を直接相続することはありません。

 

あくまでも会社の財産・負債は会社という法「人」に属しているためです。

 

代わりに,被相続人の持分・株式が相続財産となります。

 

持分・株式を評価する際には,法人の財産を調査する必要があり,この労力は被相続人が個人事業主であった場合と変わりません。

 

時折,代表者であった被相続人が,法人の連帯保証人になっているケースがあります。

 

このような場合,法人の負債が被相続人に降りかかってくることになりますので,法人の負債をしっかり調査する必要があります。

 

上記1,2いずれの場合であっても,しっかり調査を行うとなると非常に時間が掛かる可能性がありますので,予め相続放棄の期限の延期の手続を行っておくことが大切です。

【相続放棄シリーズ】18 相続放棄と時効援用

暑い日が続きます。

 

熱中症の危険があることに加え,寝苦しい日もあることから体調を崩される方もいらっしゃるかもしれません。

 

ひと昔前は冷房が身体に悪いと言われていましたが,今では冷房をかけないと身体に悪いとさえいえそうです。

 

相続・債務整理を担当している弁護士の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ第18回目となります。

 

今回は相続放棄と時効援用についてです。

 

1 どちらも相続債務を負担しないで済む

被相続人が債務を有したまま死亡すると,基本的にその債務は法定相続割合に基づいて相続人が負担することになります。

 

相続放棄をすると,その相続人は初めから相続人でなかったことになりますので,当然債務も相続せず,負担する必要はなくなります。

 

相続放棄は,相続人が個別に行う手続ですので,相続債務を負担する必要がなくなるのは,相続放棄をした相続人だけです。

 

時効援用は,相続債務の消滅時効が完成している場合に限られますが,やはり相続人が債務を負担する必要がなくなります。

 

法的には,相続債務を一旦相続するものの,時効援用により債務を消滅させることができるということになります。

 

初めから債務を相続していないことになる相続放棄とは,理論上は異なりますが,相続債務の支払い義務がなくなるという部分は共通しています。

 

2 実務上は様々な違いがある

相続放棄をする場合も,時効の援用をする場合も,被相続人の相続財産(債務)の調査をする必要はあります。

 

厳密には,相続放棄は,債務を有しているおそれがあることが判明した段階でも行ってしまうことも多いです(たとえば,遺品の中から,少し古い消費者金融からの請求書が出てきたなど)。

 

しっかり相続債務を調査する場合は,債権者に対して,被相続人の取引履歴を提示してもらうよう依頼し,かつ依頼する人が相続人であることを示す書類(被相続人死亡の記載のある除籍,及び相続人の戸籍など)を提示する必要があることもあります。

 

もちろん,債権者に対する取引履歴の請求は弁護士が代理をすることもできますし,弁護士が職務上請求により戸籍謄本類を取得することもできます。

 

債務の調査には時間が掛かることもありますので,相続放棄を視野に入れている場合は,期限の延長手続を行っておくことも大切です。

 

相続債務の状況が判明したら,(他にも債務が存在しているおそれがないことが前提ですが)時効が完成している場合とそうでない場合とで対応が変わってきます。

 

時効が完成していて,預貯金等他の財産を取得することに問題がない場合は,債権者に対して消滅時効の援用を行います。

 

消滅時効の援用は,債権者に対して行われるものですので,弁護士が代理として行う場合は,債権者を相手方とする委任を受ける必要があります。

 

そして,相続人の代理人として,債権者に対して時効援用の通知文を送付するということが行われます。

 

時効が完成していない場合,相続放棄を行います。

 

感覚的にわかりにくい部分ですが,相続放棄は債権者に対してではなく,裁判所に対して行われる手続きです。

 

したがいまして,弁護士が代理で行う場合は,債権者を相手とする委任を受けるのではなく,あくまでも相続放棄の委任を受けた旨を裁判所に対して示すということになります。

 

相続放棄が完了した後,弁護士が債権者に対して相続放棄申述受理通知書を送付することがありますが,これは時効の援用とは異なり,あくまでも依頼者に代わって事実上相続放棄が完了したことを通知する,という形になります。

【相続放棄シリーズ】17 相続債務があるが相続放棄は困難である場合

夏も本番になりました。

 

熱中症対策は十分にしなければなりません。

 

相続,債務整理を中心に担当しております,弁護士の鳥光と申します。

 

今回は相続放棄シリーズ17回目,相続放棄が(事実上)できない場合についてのお話です。

 

1 相続債務があるが,生活に必要な財産もある場合

典型的な例として,被相続人が消費者金融等に債務を有していると同時に,自宅を所有しており,相続人がそこに住み続ける場合がこれにあたります。

 

もちろん,相続放棄をして,(元)自宅から退去するという選択も,理論的には存在します。

 

しかし,新たな家を探すことは簡単なことではありませんし,自宅の価格に比べて債務額が低い場合,もったいない感じもします。

 

このような場合,相続放棄以外の解決手段がないか,検討します。

 

2 解決法は大きく分けて2つ

1つは,自宅を売却し,その売却金で債務を返済することです。

 

もっとも,この方法は,売却金の余りを得ることはできるものの,新たな住居を探して転居する負担は残ってしまいます(不動産の売却自体も簡単ではありません)。

 

2つめとして,任意整理,時効援用を行うという方法が考えられます。

 

まず,被相続人の方宛てに送られた請求書や,信用情報機関から取得した情報を元に,債権者と債務額を正確に調査します。

 

この時,返済期限から何年も経っていて,消滅時効が完成しているようでしたら,時効を援用することで債務をなくすことができます。

 

金銭債務は,相続人全員に法定相続割合で分割されているので,相続人それぞれが時効援用をする必要があります。

 

時効が完成していない場合,任意整理を行います。

 

放っておくと遅延損害金が膨れ上がるだけでなく,場合によっては訴訟を提起されたり,裁判所を通して支払督促がなされたりすることがあります。

 

任意整理によって和解契約を締結し,支払金額を固定したうえで分割払い等にすることが一般的ですが,この部分は通常の任意整理(ご存命の方の任意整理)と比較すると複雑になります。

 

上述の通り,消費者金融等に対する金銭債務は,相続人間で法定相続割合で分割されます。

 

そのため,和解契約は相続人それぞれが債権者に対して行う必要があり,支払いも個別に行うことが基本です。

 

もっとも,これは非常に手間がかかりますので,和解契約書の文面において,相続人それぞれが法定相続割合による債務を有していることを確認したうえで,相続人代表者を決めて,その人が債権者に対して全員分の支払いを行うとすることがあります。

あくまでも,代表者は債権者に対して全員分をまとめて支払うだけで,相続人全員の債務を負担するわけではありません。

【相続放棄シリーズ】16 被相続人が賃貸住宅に住んでいた場合

7月に入り,とても湿度の高い日が増えてきました。

 

食中毒等に気を付け,体調管理に気を配りたいところです。

 

相続・債務整理を担当している弁護士の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ第16回目となる今回は,被相続人が賃貸住宅に住んでいた場合についてです。

 

1 民間の賃貸住宅の場合

いわゆる,被相続人が大家さんからアパートやマンション(場合によっては一軒家)を借りて,賃料を払っていた場合です。

 

この場合,被相続人が亡くなると,まずは相続人が賃借人の地位を相続します。

 

そのため,原則としては,解約等により賃貸借契約がなくなるまでの間,相続人には賃料等を支払う義務があります。

 

また,被相続人が賃料等を滞納していた場合,未払賃料や遅延損害金等を支払う義務も生じます。

 

そして,相続人が相続放棄をすると,初めから相続人でなかったことになりますので,賃借人としての地位も,賃料等の支払い義務も,初めからなかったことになります。

 

賃貸人から,解約して欲しい旨の話が来た場合は注意が必要です。

 

解約という言葉の法的意味が問題となります。

 

賃貸人と相続人との間での合意により賃貸借契約を修了させるものである場合,合意解除となるので,相続財産の処分(法定単純承認事由)にあたる可能性が出てきます。

 

そのため,賃料の不払いなどを理由とした,法定解除(賃貸人側の一方的な意思表示で賃貸借契約を修了させるもの)としてもらう必要があります。

 

被相続人と同居していた相続人が,引き続きその賃貸物件に住む場合は,一旦賃貸人と被相続人との間の賃貸借契約を法定解除してもらい,改めて(元)相続人と賃貸借契約をする必要があります。

 

2 資力要件等がある公営住宅の場合

都営住宅など,家賃が低額である公営の住宅は,入居の際に収入や資力の要件を設けている場合があります。

 

ある一定の収入,資力を下回る場合にのみ,入居が許可されるというものです。

 

このような条件が設けられた公営住宅に居住する権利は,被相続人の一身専属権であり,相続の対象にならないとされます。

 

公営住宅の存在意義は,民間においては住宅の確保が困難な低所得者に対し,公共の福祉の観点から低額な住居を提供することにあります。

 

つまり,公営住宅を使用する人の経済的な属性に応じて付与される権利なので,相続人といえども被相続人とは属性が異なる以上,当然に承継するものではないということになります(相続人が被相続人と同等の経済的属性であれば,改めて使用権が認められるということはあり得ます)。

 

そのため,被相続人の死亡と同時に公営住宅の使用権はなくなり,民間の賃貸住宅のように,契約の解除等の問題はありません。

 

一方,自治体によって,配偶者や子が届け出をすることで入居承継を認めている場合があります。

 

この場合,あくまでも相続人の地位としてではなく,配偶者,子固有の権利として入居承継資格が与えられていると考えることができるため,相続放棄をしても入居承継ができることになります。

 

自治体によって扱いが異なりますので,実務上は個別具体的に窓口で確認する必要があります。

 

弁護士法人心では,四日市に新しく事務所を設立しました。

四日市周辺で相続問題にお悩みの方は,ぜひ一度ご連絡ください。

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【相続放棄シリーズ】15 自己破産を検討している場合

今年の梅雨は,かなり雨が降っています。

 

特に西日本では水害に遭われた方も多くいらっしゃるかと思います。

 

一刻も早く復旧できることを祈ります。

 

相続と債務整理を担当している弁護士の鳥光と申します。

 

今回は相続放棄シリーズ15回目です。

 

自己破産手続と相続放棄との関係についてです。

 

1 自己破産手続について

自己破産(・免責)は,債務の弁済(支払い)が不能となったことを要件に,保有する財産で弁済できる範囲で債権者へ債務を弁済し,残った債務は免責される(一部例外の債務もあります)という手続です。

 

破産の申立時に財産を有していない場合には,申立と同時に免責となることもあります。

 

破産を申し立てる際は,債権者の一覧と,それぞれの債権者に対していくらの債務があるのかを明らかにする必要があります。

 

債務を有している被相続人が亡くなった場合,法定相続割合に従って債務を相続しますので,当該債務の債権者と債務額も,破産申立の対象となります。

 

2 自己破産手続開始後の相続放棄

自己破産の申立ての準備をする過程で,被相続人に債務があり,その債務が自分に降りかかていることを知ることがあります(債務調査のため,さまざまな債権者に対して債権の届け出をしてもらうためです)。

 

自己破産手続が開始されていても,相続放棄自体はこれとは別の手続であるため,相続放棄の申述を行うことは問題なくできます。

 

ただし,破産法により,相続放棄の効果に制限がかかります。

 

限定承認(相続によって得た積極財産の限度で,相続債務を弁済することを条件とする相続)としての効果しか生じないこととなります。

 

理由は,債権者の保護のためです。

もし換価価値のある相続財産が存在していた場合,これらを放棄してしまうと債権者への配当原資が減ってしまうからです。

 

もっとも,相続放棄をする場合というのは,多くは被相続人に財産がなく,負債のみがあるというケースです。

 

このような場合,限定承認の効果を持たせる必要がありません。

 

そのため,この場合には,破産管財人が,相続放棄の効力を認める旨を家庭裁判所へ申述することで,相続放棄として扱われることになります。

 

いずれにしても,破産手続を行っている際に相続放棄をする場合は,申立代理人にしっかりとその旨を伝え,相続放棄申述受理通知書を受取ったら,写しを提供しましょう。

 

 

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【相続放棄シリーズ】14 相続放棄は連鎖する

かなり暑い日も増えてきた半面,まだまだマスクが手放せない状況。

 

水分を多めに取り,熱中症対策をすることが大切であると感じます。

 

今回は,相続放棄シリーズ第14回目,相続放棄の連鎖についてです。

 

1 相続には順位がある

人が亡くなることで,相続が発生します。

 

被相続人が亡くなった時点で子がいた場合,子が相続人となります。

 

子がいない場合,直系尊属(父母,祖父母等)が相続人となります。

 

直系尊属もいない場合(実際には先に亡くなっていることが多いです),兄弟姉妹が相続人となります。

 

被相続人に配偶者がいる場合,常に相続人となります。

 

2 相続放棄をすると次の順位の相続人に相続権が移る

相続放棄が認められると,申述人は初めから相続人でなかったことになります。

 

つまり,相続に関する法律上は,初めからいなかったことになります。

 

被相続人の子が(全員)相続放棄をすると,被相続人には子がいないことになるため,次の順位である直系尊属が相続人となります。

 

そして,生存している直系尊属も相続放棄をすると,直系尊属もいなかったことになるため,さらに次の順位の兄弟姉妹が相続人になります。

 

3 相続人全員が相続放棄をしないと,大きな負担が生じることも

被相続人が資産を持たず,大きな負債を抱えたまま亡くなった場合などは,相続人全員が相続放棄をしないと,放棄をしなかった相続人が大きな負担を抱えることになります。

 

子が全員相続放棄をすると,被相続人の負債は直系尊属にまわってきます。

 

直系尊属が全員相続放棄をした,または直系尊属が既に全員死亡していた場合,被相続人の負債は兄弟姉妹にまわってきます。

 

さらに,兄弟姉妹が複数人いる場合,本来は負債が法定相続割合に基づいて分散されますが,一部の兄弟姉妹だけが相続放棄をすると,残りの兄弟姉妹に負債が集中します。

 

そのため,負債を負担するお気持ちがある場合は別として,先順位相続人が相続放棄をした場合には,次の順位の相続人も相続放棄をしない限り,被相続人の負債から逃れることはできないということになります。

【相続放棄シリーズ】13 相続放棄の増加と備え

一旦は緊急事態宣言が解除され,街には人並みも戻ってきました。

 

もっとも,また感染者が増えている地域もあり,油断は禁物であると感じております。

 

弁護士の鳥光です。

 

今回もご覧いただき,ありがとうございます。

 

相続放棄シリーズ13回目は,相続放棄の動向と対策についてです。

 

1 相続放棄は増えている

相続放棄は,平成25年には約17万件あり,平成30年には21万件を超えています。

 

単純計算では毎年8000件程度増えていることになります。

 

現場の感覚としても,相続に関するご相談の中で,相続放棄をご希望でいらっしゃる方の割合は増えています。

 

データと現場感覚の両面において,相続放棄の需要は増えているといえます。

 

完全に私見ですが,背景には次のような要因があるのではないかと思います。

 

・単に高齢化社会が進んだことにより,相続の発生件数が増え,そのなかに一定の割合で相続放棄をすべきケースが含まれれていることから,相続放棄件数が増えた。

 

・バブル期は順調であったが,その後の不況で一家離散し,音信不通となっていた親が負債を抱えたまま亡くなった。

 

・相続に対する意識が変化した(相続は,せねばならないという考えから,相続関係は断ち切っても良いという考えへ変化)。

 

2 相続放棄は身近になりつつあり,備えも必要

人が亡くなることで相続は発生します。

 

相続放棄は,一旦相続が生じたのちに,遡及的に相続人でなかったことにすることで,相続の効果を消滅させるものです。

 

つまり,本来的に相続放棄は例外的な措置です。

 

そのため,普段生活の中で見聞きすることは少なく,専門家以外の方向けの書籍等もあまりないので,リテラシーの向上がなされていません。

 

一方で,相続放棄を行うべきケースは確実に増えていることから,かつてに比べて相続放棄は身近になっています。

 

相続放棄シリーズにて紹介させていただいております通り,相続放棄には気を付けなければならない点がたくさんあります。

 

裁判所に提出する相続放棄申述書を書くだけであれば,それほど大変ではありません。

 

しかし,相続放棄の期限の起算日の考え方や,法定単純承認事由に該当する行為(相続放棄をするにあたり,やってはならない行為),債権者への対応など,知らないと全く対応できません。

 

特に期限と法定単純承認事由に該当する行為については,手遅れになってしまうと専門家であってもリカバリーが不可能になります。

 

そのため,相続放棄は自分がすることもあり得るという認識でもって,概要レベルでもよいので知識の備えを持っておくことが重要です。

【相続放棄シリーズ】12 相続放棄は生前に準備をすることが大切

東京駅八重洲口側周辺は,本当に人が少ないです。

 

いまだかつてゴールデンウイークにこのような光景を見たことはなく,緊急事態宣言の効果を強く感じます。

 

相続放棄シリーズ,第12回目は,生前の準備についてです。

 

1 相続放棄は,ご存命のうちから準備をすることがある

相続放棄というと,被相続人が亡くなった後になって多額の借金の存在が明らかになったり,音信不通だった被相続人が亡くなったことを債権者からの催促で知った,という場合にするものというイメージがあります。

たしかに,そのようなケースも多く存在します。

しかし,被相続人がご存命のうちから,被相続人とご家族とが話し合い,相続放棄をすることを決めておくというケースもあります。

 

被相続人が事業などを営んでいて,融資も受けていた(つまり銀行等から借金をしていた)が,重い病気などにより入院生活となってしまい,事業は事実上停止し負債だけが残ってしまったという場合です。

 

病気が進行し,医者から余命が短い旨を伝えられた際に,家族同士で話し合い,予め相続人となる方々が相続放棄の準備を開始します。

 

このような経緯で,被相続人がご存命のうちから,相続放棄の準備についてご相談に訪れる方もたくさんいらっしゃいました。

 

2 相続放棄の生前準備

相続放棄の生前準備を行うケースにおいて,やるべきことはいくつもあります。

 

被相続人の状況に応じて,個別具体的な対応が必要ですが,一般的には次のことを行います。

 

・財産の把握,特に債務の内容(債権者と金額)と不動産所有状況の整理

 

・残置物になり得るもの(被相続人が亡くなったらゴミになり得るもの)の処分

 

・被相続人死亡後に行ってはならない行為(法定単純承認事由)の把握

 

・賃貸借契約がある場合は解約・解除

 

預貯金等がある場合,葬儀費の準備などのために生前贈与をすることもありますが,債権者との関係においては詐害行為になる可能性もあるので注意が必要です。

 

法定単純承認事由に該当する行為を予め知っておくことは,とても大切です。

 

知らずに法定単純承認事由に該当する行為を行ってしまうと,原則として相続放棄ができなくなります。

 

これを覆すのは容易ではありません。

【相続放棄シリーズ】11 相続放棄は書類を裁判所に提出するだけでは終わらない

緊急事態宣言が延長されました。

 

生活も仕事も,なかなか元には戻れない状況が続きます。

 

弁護士として,法律の側面から,皆様のお悩みを解決するために尽力したい次第です。

 

さて,相続放棄シリーズ11回目は,裁判所へ相続放棄申述書を提出した後の話です。

 

1 相続放棄申述書を提出した時の効果

相続放棄の手続きは,相続放棄申述書とその付属書類を裁判所に提出することで開始されます。

 

同時に,相続放棄の申述期限の問題も解消されます(原則として,相続の開始を知った日から3か月以内に相続放棄申述書を提出すれば,期限内に相続放棄の手続を行ったことになります)。

 

相続放棄申述書を提出することで相続放棄が完了するのではなく,相続放棄の手続が開始されるのです。

 

具体的には,裁判所の中で,形式面,法律面双方から,相続放棄の要件を備えているか否かの検討,審議が開始されます。

 

2 相続放棄申述書提出後の,申述人側の手続き

相続放棄申述書を提出すると,裁判所から申述人(またはその代理人)に対し,連絡がなされたり,必要に応じて書面等の追加提出を求められます。

 

具体的には,次のようなものがあります。

 

(1)照会書兼回答書

裁判所から,照会書兼回答書(裁判所によって名称が異なる)が送られることがあります。

 

これは,申述人に相続放棄の意思があることを再確認するほか,事案に応じて裁判所が詳しく事情を把握したい事項についての質問が記載されたものです。

 

回答次第では,相続放棄を却下することもあり得ます。

 

送付の仕方は,裁判所により区々であり,同じ裁判所であっても部署や書記官により運用が異なることもあります。

 

送付は大きく分けて次の3つのパターンがあります。

 

1つめは,申述人本人に送るパターンです。

 

代理人が就いていない場合は当然ですが,代理人が就いていても本人に照会書兼回答書が送付されることがあります。

 

2つめは,代理人が就いている場合に,代理人宛てに送るパターンです。

 

代理人宛てに書面が郵送されてくることの外,FAXで送付されることや,電話で照会されることもあります。

 

3つめは,正確には送付ではないのですが,代理人が就いているときに限り,照会せずに相続放棄を認めるというパターンです。

(2)審問

審問とは,裁判所に行き,裁判官からの質問に回答する手続きです。

 

行われることは少ないですが,提出した書面だけでは相続放棄の要件を満たしているか否かの判断が難しい場合に行われることがあります。

 

相続放棄申述書を提出した後,裁判官が審判をすべき事案であると判断した場合,裁判所から呼び出しがかかります。

 

原則としては,申述先の裁判所へ行き,裁判所の中の部屋で審問を受けることになります。

 

申述先の裁判所が遠方であると,かなり負担になります。

 

(3)その他
書類の追加提出を求められる場合があります。

 

よくあるのが,兄弟姉妹相続の相続放棄において,第二順位の相続人である直系尊属が全て死亡していることを示す戸籍の追完を求められることです。

 

兄弟姉妹は,直系尊属が全て亡くなっていて,初めて相続人になるため,直系尊属が生存していると相続放棄を行う地位になく,相続放棄の要件を欠くことになります。

 

兄弟姉妹相続の相続放棄においては,兄弟姉妹の出生から死亡までの全ての戸籍を収集して提出しますが,その戸籍に中に親の死亡の記載がない場合や,その上の親の死亡が確認できない場合,提出を求められます。

3 相続放棄申述受理通知書が発行されたら

裁判所において,相続放棄の要件を満たすと認められた場合,相続放棄申述受理通知書という書面が発行され,送付されます。

 

基本的には,この書面を取得することができれば,相続放棄は完了したといえます。

 

相続放棄申述受理通知書があれば,対外的にも相続放棄を行ったことを示すことができますし,多くの場合,債権者に対して写しを提供することで請求を止められます。

 

もっとも,相続放棄を行ったことを示す書類には,相続放棄申述受理通知書のほかに,相続放棄申述受理証明書というものがあります。

 

これは,不動産の登記を行う場合等に,必要となることがあります。

 

申述先の裁判所に対し,相続放棄申述受理証明書の請求用紙と,手数料分の収入印紙を郵送することで取得することができます。

【相続放棄シリーズ】10 相続放棄を早く行うメリット

コロナウィルスの影響で外出や経済活動の自粛を求められる中,台風並みの荒天や地震なども重なり,非常に厳しい時を過ごさざるを得ない状況です。

 

今は耐え時と捉え,できることをやっていくという意識で日々の業務に取り組んでおります。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所にて相続を担当している,弁護士の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズも今回で10回目を迎えました。

 

今回は,相続放棄の効果について説明します。

 

1 相続人でなかったことになる

相続放棄は非常に強力な効果を持っています。

 

相続放棄をすると,初めから相続人ではなかったことになります。

 

もちろん,実の親子や兄弟であれば,生物としては血のつながりがありますが,法律上は相続人ではなかったことになります。

 

被相続人の遺産相続に関しては,相続債務のことも含め,全く無関係の存在となります。

 

2 相続放棄は個別に効力を生じる

裁判所に対して相続放棄申述手続きをし,相続放棄が認められると,裁判所から相続放棄申述受理通知書というものが発行されます。

 

相続放棄申述受理通知書には受理日付が記載されますので,この日を以て相続放棄をした旨を対外的にも示すことができます。

 

相続放棄の手続きは,各相続人が個別に行うことができます。

 

他の相続人と疎遠であったり,関係が悪かったりする場合でも,特に他の相続人に相続放棄をする旨を伝える必要はなく,相続人自身の判断で相続放棄手続を進められます(これに対して限定承認は相続人全員が行う必要があります)。

 

3 相続放棄は早めに行った方が良い

相続放棄を考えている場合,できるだけ早く行った方が良い理由が2つあります。

 

1つ目は,相続放棄の申述期限がとても短いことです。

 

相続の開始があったことを知った日から3か月しかありません。

 

相続放棄の申述を行うためには,戸籍謄本類等を収集しなければならないので,ギリギリになってから手続きの準備を始めると間に合わなくなる可能性もあります。

 

もう1つは,相続にまつわるトラブルから一早く脱却できることです。

 

相続放棄が完了すると,もはや相続人ではなくなりますので,相続に関わろうとも関わることができない立場になります。

 

相続に争いが生じ,問題のある相続人から,「この(価値のない)土地をお前が相続しろ」ですとか,「被相続人の借金はお前が背負え」とか言われたとしても,拒否するまでもなく,しようがないのです。

 

問題のある相続人は,相続放棄をすることを妨害してくることも考えられます。

 

そのため,思い立ったら迅速に相続放棄をしてしまうのも手です。

 

また,相続放棄をすれば,債権者から請求を受けることもなくなります。

 

請求を受けたとしても,相続放棄申述受理通知書の写し等を提供することで請求を止めることができます。

 

被相続人の債権者が分かっている場合,早々に相続放棄を行ったことを伝え,他の相続放棄をするつもりのない相続人へ請求してもらうことで,煩わしさから解放されます。

【相続放棄シリーズ】9 相続放棄は被相続人が死亡後3か月以内にしたい

東京都には緊急事態宣言がなされ,人通りもかなり減ってきました。

 

相続放棄の申述期限は延期されないため,相続放棄手続代理人としての仕事は平常運転となっております。

 

弁護士法人心で相続を担当している,鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズも9回目となりました。

 

今回は,相続放棄の期限について,改めて考えてみます。

 

1 相続放棄の申述期限

相続放棄は,相続の開始があったことを知った日から3か月以内,と定められています。

 

相続が開始した日(=被相続人が死亡した日)から3か月以内ではありません。

 

これは,相続放棄手続の機会及び熟慮期間の保障のためであると考えられます。

 

何らかの事情で3か月以上被相続人が死亡したことを知ることができず,知った時には申述期限を過ぎてしまっていた,という事態に陥ることを防ぐということです。

 

2 相続の開始があったことを知った日

では,相続の開始があったことを知った,とは具体的にはどのようなことをいうのでしょうか。

 

以下に,典型的なものを挙げてみます。

 

①被相続人が死亡したことを看取った場合

被相続人が死亡した日に,死亡したことを知ったことになるので,被相続人死亡日が,相続の開始があったことを知った日になります。

 

②他の相続人や親族から,被相続人が死亡した旨の連絡を受けた場合
連絡を受けた日が,相続の開始があったことを知った日となります。

被相続人が遠方に住んでいて,あまり交流をしていなかった場合等は,被相続人が死亡してから数日経った後に連絡が来ることもあるので,被相続人死亡日よりも後の日付になります。

後述しますが,電話連絡があった場合でも,その日が知った日になりますが,相続放棄申述書に添付する資料があると安心ですので,日付の入った手紙やメールなどがあるとベターです。

 

③市役所等から書面等により被相続人が死亡した旨の連絡を受けた場合

正確には,書面等を受取って読んだ日が,相続の開始があったことを知った日になります。

もっとも,この書面の写しを相続があったことを知った日を根拠づける資料として裁判所へ提出することが多いので,書面に記載された日付を,相続の開始があったことを知った日とする対応をすることもあります。

 

④債権者等から書面により被相続人が死亡した旨の連絡を受けた場合

③と同様,書面を読んだ日が,相続の開始があったことを知った日となりますが,便宜上書面に記載された日付をもって,相続の開始があったことを知った日とすることがあります。

3 相続放棄は被相続人が死亡した日から3か月以内に行った方が良い

 

相続放棄は,理論上は,相続の開始があったことを知った日から3か月以内に行えばよいので,被相続人が死亡した日から10年後であっても,被相続人が死亡したことを知った日から3か月以内であれば行えます。

 

もっとも,裁判所としては,被相続人が死亡した日から3か月以上経って相続放棄の申述がなされた場合,相続の開始があったことを知った日が,被相続人死亡日より遅くなった理由を確認します。

事情を説明する文書を作成するとともに,手に入る範囲で根拠となる資料も添付しなければならない場合もあります。
審査も厳格になる可能性があり,場合によっては却下されないとも限りません。

 

そのため,被相続人死亡日よりも後に被相続人が死亡したことを知った場合であっても,被相続人死亡日から3か月以内に申述が可能であれば,急いででも被相続人死亡日3か月以内に相続放棄の申述書を裁判所に提出した方が安心です。

【相続放棄シリーズ】8 相続放棄の定義を今一度

4月に入り,桜の花も散り始めました。

 

これから暖かくなっていくにつれ,アクティブに行動をしたくもなりますが,コロナウィルスの影響下においては極力外出を控えたいところでございます。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ8回目となる今回は,今一度相続放棄の定義について考察します。

 

1 事実上の相続放棄

相続放棄という単語は,とても抽象的です。

 

一般的には,相続が発生した際に,他の相続人に対して相続財産を取得しない旨を伝えるという意味で使用されることもあります。

 

具体的には,遺産分割協議書等において,署名・押印部分には相続人として名前が表示されていても,条項においては遺産の取得者としては登場しないという形になります。

 

これは,専門家の世界では事実上の相続放棄などと呼ばれます。

 

後述する民法上の相続放棄と比較すると,プラスの相続財産を取得しないという点では効果は同じです。

 

一方,あくまでも相続人という法的地位がなくなるわけではないので,相続財産に含まれるマイナスの負債については,そうなりません。

 

遺産分割協議書において,プラスの相続財産を取得しない代わりに,被相続人の負債も負担しない(他の相続人が負担する)旨を記載しても,債権者には対抗できないので,別途免責的債務引受などを行わないと負債から逃れることはできません。

 

また,事実上の相続放棄は,遺産分割協議書後に新たに相続財産や相続債務が発見された場合も,都度遺産分割協議に加わり,財産を取得しない旨を記載した書面に署名・押印しなければならないという手間も生じます。

 

2 民法上の相続放棄

民法には,相続放棄についての条文が明記されています。

 

民法上の相続放棄をすると,初めから相続人でなかったことになります。

 

つまり,相続人としての法的地位が消滅するという点が,事実上の相続放棄との大きな違いです。

 

例外としての相続財産の管理責任が生じる点を除き,被相続人の相続とは無関係の存在になります。

 

生物学的には夫婦,親子,兄弟関係にあっても,相続に関する法律上は赤の他人というイメージです。

 

当然,被相続人の財産も負債も無関係ということになります。

 

相続は,原則として,相続人の意思とは関係なく,被相続人との家族関係によって自動的に発生してしまいます。

 

相続放棄は,この原則に対する例外として設けられている制度です。

 

民法上の相続放棄は,管轄の裁判所に対し,相続放棄申述書と附属書類を提出し,相続放棄申述が受理されることで初めて成立します。

 

事実上の相続放棄と異なり,決まった手続きを行い,裁判所に受理してもらわなければなりません。

 

事実上の相続放棄には原則として期限はありませんが,民法上の相続放棄は厳格な期限が設けられている点にも注意です。

 

期限は,相続の開始を知った日から3か月以内です。

【相続放棄シリーズ】7 債権者の立場

年度の終わりも近づき,世間では新年度を迎える準備に追われている方もいらっしゃるかもしれません。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所でも,4月から新入社員が加わります。

 

相続放棄シリーズ7回目は,債権者の立場の考察です。

 

1 債権者

債権者という言葉はとても広い意味を持ちますが,相続放棄の際の債権者とは,多くの場合被相続人に対して金銭を請求する権利(金銭債権)を有する人のことを指します。

 

銀行やクレジットカード会社,賃貸物件の賃貸人,税金の滞納がある場合には国や市町村が債権者になることが多いです。

 

2 相続放棄と債権者との関係

被相続人に対して金銭債権を有していた人は,その相続人に対して,債権額に対応する金銭を支払うよう請求できるのが原則です(複数の相続人がいる場合,各相続人には法定相続割合に対応する金銭の支払い義務が生じます)。

 

相続人が相続放棄をすると,基本的に債権者はその(元)相続人に対して請求をすることができなくなります。

 

つまり,一般論としては,債権者にとって相続放棄とはとても都合の悪い制度ともいえます。

 

3 実際には

これはあくまでも個人的な経験ですが,債権者にとって相続放棄が必ずしも悪いものではないようです。

 

もちろん,債権が回収できなくなるので,損失が生じてしまうという点は揺るぎません。

 

もっとも,通常,債権者は回収不能のリスクを初めから織り込んでいます。

 

そして,支払いが滞った債権がある場合,回収作業,手続きを開始するのですが,これには人手もかかりますし,支払い交渉などタフなコミュニケーションを長期間行わなければならない可能性もあります。

 

相続人に対して回収をしようとするならば,そもそも相続人調査を行わなければならず,骨が折れます。

 

これだけの労力を割いてもなお,必ず支払われるという保証もないので,金額が少額である場合や,あまりにも遠い相続人に請求しなければならない場合など,場合によっては早く貸し倒れ処理をし,案件をクローズしまいたいケースもあるようなのです。

 

そこで,小職は,相続放棄を受任した際,債権者が判明している場合には,相続放棄手続き完了後に債権者へ連絡を取り,相続放棄申述受理通知書の写しを送付するなどの対応を行っております。

【相続放棄シリーズ】6 相続放棄の理由はさまざま

暖かい日が増え,東京駅前では桜も咲き始めました。

 

もっとも,新型コロナウィルスの影響もあり,昨年に比べて桜を鑑賞しに来る人も減っているように感じます。

 

相続放棄シリーズ第6回目です。

 

今回は,相続放棄をする理由についてです。

 

1 相続放棄申述書記載事項

相続放棄の手続きを行う場合,裁判所に対して相続放棄申述書という書面を提出します。

 

通常,書面には,「申述の趣旨」と「申述の理由」を記載します。

 

「申述の趣旨」とは,申述人が裁判所に求める事項を端的に表したもので,「被相続人の相続を放棄する」というような書き方をします。

 

「申述の理由」とは,文字通りですが,相続放棄をしたい理由を書きます。

 

相続放棄を考えるに至った理由というと,一番初めにイメージされるのは,被相続人が有していたプラスの財産よりも,借金などマイナスの負債の方が大きい場合です。

 

たしかに,経験上もこのケースが一番多いです。

 

しかし,これ以外の理由でも全く問題ありません。

 

極端なことを言えば,被相続人に十分な財産があったとしても,他の相続人と関わりたくない,遺産分割協議が面倒なので無関係になりたい,という動機で相続放棄をしても構わないのです。

 

実際に,以下のようなケースもありました。

 

依頼者様のお父様がお亡くなりになったのですが,お父様の配偶者(依頼者様のお母様)は,昔から自己中心的で全く話が通じない性格であり,突然激昂して過激な行動を起こすこともあったため,遺産分割の話をしようもなく,仮にしたとしても何が起こるかわからない状況でした。

 

依頼者様は既にお母様とは離れた場所で暮らしていたため,「他の相続人と関わりたくないため」という理由にて,小職が代理人弁護士となって相続放棄手続きを行ったうえで,相続放棄申述受理通知書をお母様宛に送付しました。

 

2 被相続人死亡後3か月以上経過している場合には詳細な説明をする

相続放棄の申述の期限は,相続の開始があったことを知った日から3か月です。

 

理論上は,相続の開始があったことを知った日から3か月以内に相続放棄申述を行えば,相続放棄は認められます。

 

もっとも,被相続人死亡日から3か月以上経過してから相続放棄を行う場合には,被相続人死亡日よりも後になって相続の開始を知ったことを,裁判所に対して示さなければなりません。

 

言い換えますと,被相続人死亡から3か月以内であれば,理由は簡素なもので良く,極端に言えば,相続に関わりたくないという,消極的なものでも構わないことになります。

 

他方,被相続人死亡から3か月以上経過しているのであれば,裁判所を納得させられるだけの理由が必要です。

 

被相続人が孤独死しており,ご遺体の損壊が激しかったため,DNA鑑定等によって身元が判明したのが死亡日から6か月後であったというケース,10年以上も前に音信不通になった親が1年以上前に死亡しており,親の債権者から金銭の支払いを求められて初めて親の死亡を知ったケースなどは,相続放棄申述書に詳しい事情を記載したうえ,可能な限り根拠となる資料を添付します。

 

特に,被相続人が死亡したことは知っていたが,3か月以上経過した後になって,多額の債務の存在が判明した場合などは,相続放棄をする理由を「債務超過のため」であるとし,債務の内容や債務の存在を知った経緯を詳細に記述する必要があります。

 

3 相続放棄の理由は多様化する可能性

先述の通り,現時点においては,相続放棄の理由の大半は債務超過(またはそのおそれ)です。

 

しかし,これは私見ですが,ライフスタイルの変化とともに,相続放棄の理由も変わってくると考えております。

 

相続が発生すると,法律上・事実上,非常にたくさんの手続きや作業が発生しますし,遺産分割に争いが生じると数年に渡って他の相続人とネガティブなコミュニケーションをしなければならなくなります。

 

私生活における面倒ごとや判断しなければならないものの数を極力減らすという思考も増えてきている傾向からすると,相続が発生したら,機械的に相続放棄をし,完全に無関係の立場を作るという人も出てくるのではないかと思います。

 

相続放棄は,遺産を相続することが原則であるとするならば例外処理にあたりますが,相続放棄の方が主流になるという可能性もゼロではないのかもしれません。

【相続放棄シリーズ】5 お悩みー後順位相続人への連絡

3月も後半になり,かなり気温が上がる予報も出てくるようになりました。

 

個人的には,今年は花粉も強くない感じがします。

 

別の理由でマスクは手放せませんが。

 

今回は相続放棄シリーズ5回目,相続放棄後の後順位相続人への連絡について取り上げます。

 

1 後順位相続人

相続は,順番が決まっています。

 

第1順位は,被相続人の子です。

 

第2順位は,被相続人の直系尊属(両親,祖父母など)です。

 

第3順位は,被相続人の兄弟姉妹です。

 

被相続人に子がいない場合,または先に死亡しておりその子(代襲相続人といいます)もいない場合,第2順位の直系尊属が相続人になります。

 

第2順位の直系尊属もいない場合(実際には既に死亡していて,いない場合が多いです),第3順位の兄弟姉妹が相続人になります。

 

ちなみに,被相続人の配偶者は,常に相続人になりますので,順位は関係ありません。

 

2 後順位相続人は,順番待ちをしなければならない

先の順位の相続人がいる場合,後順位相続人には,まだ相続が発生しません。

 

先順位相続人が相続放棄をすると,初めて後順位相続人に相続が発生します。

 

そのため,後順位相続人の人は,先順位相続人が相続放棄をするまで,相続放棄手続を行うこと自体ができないのです。

 

言い換えますと,先順位相続人が相続放棄をしたことを知った日から,相続放棄の申述期限のカウントダウンが始まってしまいます。

 

3 後順位相続人への連絡

先順位相続人が相続放棄をしたことを知った日とはなんでしょうか。

 

厳密にいえば先順位相続人から相続放棄をしたことを口頭で聞かされた日であっても,これにあたります。

 

しかし通常,裁判所に対して,先順位相続人が相続放棄をしたことを知った日を裏付ける資料を付けることが多いので,日付入りの書面で通知をすることが多いです。

 

弁護士であれば,先順位相続人の代理人として相続放棄を行った後,先順位相続人に代わって後順位相続人へ連絡をすることがよくあります。

 

そうしないと,知らないうちに後順位相続人に(利用価値の少ない)不動産の所有権が移っていたり,債権者からの支払い催促がなされてしまうことがあり,後順位相続人の方に不要な不安が生じてしまうことがあるためです。

【相続放棄シリーズ】4 お悩みー質問状対応

我が国において3月から4月は,年度が変わる時期でもあり,とてもあわただしい場面もあります。

 

法律関係の手続きなどでもお忙しい方がたくさんいらっしゃるかと思います。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所で相続案件を中心に取り扱っている,鳥光でございます。

 

さて,今回で相続放棄シリーズも4回目となります。

 

以外と知られていない,そして多種多様なパターンがある,相続放棄に関する質問状(照会書兼回答書)について,お話をします。

 

1 質問状(照会書兼回答書)について

相続放棄の手続きと聞くと,相続放棄申述書とその付属書類を裁判所に提出することを想像する方が多いと思います。

 

もちろん,これも相続放棄の手続きに必要な行為ですが,一部に過ぎません。

 

相続放棄は,相続放棄申述書を裁判所に提出しただけでは終わりません。

 

裁判所は,相続放棄申述書を受取ると,書類の内容を審査します。

 

そして,審査がある程度の段階まで進むと,基本的に裁判所は,申述人に対し,書面で質問をします。

 

照会書兼回答書という名称で送付されてくることが多いです(裁判所によって運用が異なる)。

 

質問の目的は,申述人が本当にその意志で相続放棄の手続きを行っているか(なりすましや強要でないか),法定単純承認事由に該当する行為を行っていないか,を確認することにあると考えられます。

 

答え方によっては,相続放棄が認められなくなる可能性もあるので,回答は慎重に検討する必要があります。

 

2 質問状(照会書兼回答書)の送付先のパターン

質問状の送付は,裁判所によって運用が区々ですが,次の3つのパターンが多いです。

 

①申述人本人に対し,申述人の住所へ送付する(申述人が裁判所へ回答を返送する)

 

②代理人弁護士がいる場合,代理人弁護士の事務所宛に送付する(代理人が回答を返送する)

 

③代理人弁護士がいる場合に限り,そもそも質問状を送らない

 

仮に小職が相続放棄のご依頼をいただいた場合,①のパターンであれば,質問状のコピー等をいただき,内容を検討したうえで,回答を作成しアドバイスさせていただきます。

 

②のパターンであれば,小職が回答を作成し,裁判所へ返送します。

 

③のパターンであった場合は,質問状への回答によって相続放棄が認められなくなるリスクをゼロにできます。

 

手前味噌ですが,これは弁護士が代理人に就くことの大きな価値の一つです。

 

3 質問の内容

質問状(照会書兼回答書)に記載されている質問についても,裁判所によって区々です。

 

1,2問程度の簡単な質問しかしない裁判所もあれば,10問以上の質問をし,しかもやや専門的な内容が混じるような裁判所もあります。

 

どの裁判所がどのような運用をしているかは,申述を行ってみるまでわかりません。

 

経験上,申述人本人に質問状を送付する裁判所は,質問が多く,かつ高度なものである傾向があると考えられます。

 

代理人に質問状が来る場合,簡素なものであることが多いです(代理人により,事前に申述人に対するチェックが働いているという前提なのだと思います)。

 

申述人ご本人様に質問状が送付された場合,焦らず,専門家に内容を伝えて,回答を検討すれば安心です。

【相続放棄シリーズ】3 お悩みー金銭請求

春は暮らしやすいものの,天候が不安定な日もあり,外出や出張の際の持ち物に悩みます。

 

急な天候変化にはお気を付けください。

 

東京駅前にある弁護士法人で相続案件を扱っている鳥光と申します。

 

相続放棄シリーズ3回目となります。

 

今回は,被相続人に関する金銭請求についてお話します。

 

1 被相続人に関する金銭

被相続人がお亡くなりになった際,受取ることができるお金が発生することがあります。

 

典型的なものとしては,生命保険金,未支給年金,退職金などが挙げられます。

 

そして,相続放棄を検討されている方にとって,これが最も悩ましいものとなります。

 

2 被相続人に関する金銭を受取るべきか否か

相続放棄を検討する際,法定単純承認事由に該当する行為を行ってはいけません。

 

法定単純承認事由に該当する行為の一つとして,債権の取り立てがあります。

 

ここでいう債権とは,被相続人の債権であり,取り立てとは,お金を請求できる権利を行使してお金を受取ることです。

 

つまり,被相続人が亡くなられたことに伴って受取ることができるお金が,被相続人の債権に基づくものであった場合,受け取ってしまうと法定単純承認事由に該当する可能性があるのです。

 

そして,とても悩ましいことに,被相続人が亡くなった際に受取ることができるお金には,被相続人の債権に基づくものと,相続人固有の権利に基づくものがあります。

 

前者に該当する債権に基づくお金を受取ることはできませんが,後者に属する債権に基づくものであれば,そもそも相続財産ではないので受け取っても法定単純承認事由にはなりません。

 

被相続人が生前貸し付けていたお金の返済のために支払われる金銭などは前者に該当しますので,受取るべきではありません。

 

被相続人が契約者・被保険者で相続人が受取人となっている生命保険金,相続人を受取人として定めている死亡退職金・未支給年金,葬儀を主宰する者に支給する旨が条例等で定められている葬儀費用補助金などは,相続人等固有の権利ですので受取ることができます。

 

3 実務上の問題

受け取っても法定単純承認事由に該当しないお金について述べましたが,実務の現場ではもっと大きな問題があります。

 

それは,受取ろうとしている金銭が,本当に受取っても法定単純承認事由に該当しないものであるかを確定させることです。

 

抽象的に受け取ってよいお金とそうでないお金を述べることはできます。

 

しかし,本当に受け取ってよいかを厳密に判断するには,個別具体的に書類等を精査し,場合によっては会社や市町村の窓口まで行き,相続人固有の権利に基づく支払いである旨の確認まで取らなければなりません。

 

これはマンパワーの側面においても,容易なことではありません。

 

そのため,相続放棄検討段階では請求はせず,相続放棄を終えたあと,または並行して時間をかけて受け取れる金銭であるかを検討する方が良いです。

 

通常,相続放棄申述期限のうちに受け取らなければならないという金銭はないため,受け取れることが確定出来たら,ゆっくりと受取ればよいのです。

【相続放棄シリーズ】2 お悩み-債権者対応

3月は暖かい日,寒い日,雨の日,風が強い日が入り混じり,天気が安定しません。

 

外出の際の準備には悩みます。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所で相続案件を担当している鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ2回目は,相続放棄を検討されている方が非常に悩むことの多い,債権者対応についてでございます。

 

1 被相続人の債権者

債権者という言葉は専門的なので,具体的にはどのような人を指すかイメージが付きにくいと思います。

 

わかりやすいものとしては,クレジットカード会社,消費者金融,銀行などがあります。

 

その他,これら債権者に対して保証金を支払った事業者もいます(求償権の行使)。

 

保証会社は,消費者金融のように広く一般的に知られていないものですし,求償権の行使は法律構成がやや複雑になりますので,一見すると何を請求されているのか,専門家でないとわかりにくいこともあります。

 

また,債権者から回収を依頼された弁護士から連絡が来ることもあります(この場合,弁護士はあくまでも代理です)。

 

さらに,イメージしにくいですが,被相続人が税金を滞納していた場合,市町村等から支払い請求が来ることがあります。

 

この場合,市町村等も債権者です。

 

2 債権者からの通知

上記の債権者は,何かしらの形で,お金を支払ってほしいという連絡をします。

 

ほとんどの場合,書面で連絡があります。

 

圧着式のハガキや,封筒に,支払いを請求する旨の通知が記載されることが多いです。

 

たまに,地方などでは銀行の担当者が直接訪問してきて,被相続人負債の話をすることもありますが,最終的には書面を渡される形になります。

 

宛先は,被相続人になっていることもあれば,相続人になっていることもあります。

 

被相続人名義で送られる場合は,おそらく債権者が被相続人が亡くなったことを知りません。

 

つまり,相続人に債務が移っているという認識がありません。

 

宛先が相続人になっている場合,債権者は被相続人の死亡を知っているとともに,相続人の調査も行っています。

 

どちらが強いということはないのですが,後者はコストをかけて相続人調査をしているということを考えると,より請求する意思が高いとも考えられます。

 

3 相続放棄をする場合の債権者対応

① 検討段階

まだ相続放棄をすることを決め切っていない場合や,専門家への依頼を完了していない段階では,とにかく支払いに応じないことが大切です。

 

支払いに応じないといっても,通常であれば単に債権者からの通知をそのままにしておくだけで済みます。

 

仮に電話連絡などが来てしまった場合は,相続放棄を検討中であることだけ答えます。

 

たまに,申述期限が過ぎているからできない,などと言われることもあるようですが,下手に反論しないことが大切です。

 

② 相続放棄手続段階

実際に裁判所に対し相続放棄申述を行ったり,専門家に相続放棄を依頼した段階になっても,あまりやることは変わりません。

 

通知書面は基本的に手を付けずにおき,電話連絡等があった場合には相続放棄手続中である旨だけ答えます。

 

③ 相続放棄完了後

相続放棄が完了すると,裁判所から相続放棄申述受理通知書というものが届きます。

 

債権者に対しては,この写しを提供します。

 

通常,債権者側は相続放棄申述受理通知書の写しの提供を受けることで,回収不可能と判断し,その後の請求を止めてくれます。

 

とはいえ,債権者へ連絡することはとても勇気がいります。

 

特に債権回収の代理人が弁護士であったりすると,とても連絡がしにくいと思います。

 

そのような場合,小職は相続放棄完了後に,各債権者に対して債権の状況確認を行ったうえで,相続放棄申述受理通知書の写しを提供し,これ以上請求が起きないようにするサービスも行っております。

【相続放棄シリーズ】1 相続放棄にはご法度がある

3月に入り,暖かい日が増えてきました。

 

もっとも,この時期は例年花粉症に悩まされる時期であり,しかも今年はコロナウィルスの問題もあるので,外出には気を付けたいところです。

 

東京駅前にある弁護士法人心にて,相続案件を扱っている,鳥光でございます。

 

相続放棄に関する相談を受けることが非常に増えたことから,今後ブログにて相続放棄に関する情報を発信していこうと考えております。

 

今回は,第1弾として,相続放棄を検討している段階において,行ってはならないことをまとめます。

 

1 原則

相続財産の処分をしてはいけません。

これを行うと,相続放棄が認められなくなります(法定単純承認事由)。

 

2 処分って何?

もっとも,条文には「処分」としか書いておらず,具体的に何が処分にあたるかについては,未だ明確になっていません。

 

不動産の名義変更をして売り払ったり,預貯金の払い戻しを受けて自分のために費消することは,処分の典型にあたりますので,絶対に行ってはならないということはわかります。

 

しかし,(普通に考えればゴミのような)残置物を処分したり,亡くなった人の携帯電話の解約をしたり,公的な支給金を取得したり,被相続人の宛ての請求の支払い等についてはいかがでしょうか。

 

これらについては,通説,実務上は法定単純承認事由とならないケースもありますが,明確に条文や判例において認められているわけではないので,非常に悩ましいと言わざるを得ません。

 

ネット上には様々な情報が存在しています。

そのほとんどは正しい情報であると考えられますが,抽象的なものであるため,実際にご自身が行おうとしている行為が本当に法定単純承認事由に該当しないか否かは,個別具体的に当てはめを行って判断しなければならず,簡単には判断できないのです。

 

これは私見ですが,相続放棄はここ数年で急激に増えていることもあり,相続放棄制度に付随する上記問題について,法整備が追い付いていないのではないかと感じることもあります。

 

3 では,どうするか?

相続放棄の可能性があるならば,とにかく,余分なことをしないという意識を持つことが一番重要です。

極論すれば,被相続人がお亡くなりになったことを知った際,とりあえず何もしないのが一番安全です。

 

さらに言えば,被相続人がご存命のうちから,相続放棄制度について理解し,うっかり法定単純承認に該当しそうな行為を行ってしまわないように予備知識を入れておくことが大切です。

 

音信不通で疎遠な親族がいる場合にも同じことが言えます。

当該親族が亡くなると,突然相続人に対して借金や滞納家賃等の請求が来ることもあります。

そのような時に,相続放棄の知識がないと,焦って請求に応じてしまい,後戻りが困難になる可能性もあります。

 

しかし,現実には,相続放棄のご相談をいただいた時点において,すでに法定単純承認事由に該当するかもしれない行為を行ってしまっているケースの方が多いです。

 

そのような場合,事情を詳しくお聞かせいただき,法律構成の仕方によっては,相続放棄が認められるようにできる可能性もありますので,ぜひご相談ください。

相続放棄をお考えの方はこちら