相続放棄と債務整理

今年の梅雨は,本当によく雨が降ります。

 

夏場の水不足の心配は減りそうですね。

 

小職は,相続に加え,債務整理も担当しております。

 

そこで今回は,相続放棄と債務整理との関係についてお話いたします。

 

1 共通点

相続放棄と債務整理は,どちらも債務をなくすという効果があります。

 

たとえば,複数の債務をお持ちの方が任意整理を行う場合,これらの債務の中に時効となっているものがあれば時効援用によりその債務を消滅させ,相続債務が含まれている場合には相続放棄によってその債務をゼロにします(正確には初めから相続人でなかったことにすることで,相続債務が元々存在していなかったことにします)。

 

また,債務整理のうち,債務を完全になくせる手続として破産・免責があります(一部例外となる債務もあります)。

 

概括的には,相続放棄は債務を一切引き継がない代わりに財産も一切得られないという効果があり,破産・免責は債務の支払い義務がなくなる代わりに財産もなくなるという効果があるので,
両者は似たような効果を持っています。

 

2 相違点

相続放棄は,裁判所に対して必要書類を提出して行われる手続きです。

 

弁護士が代理人となる場合も,あくまでも裁判所に対する代理権を有している形になります。

 

債務整理のうち,破産と再生は裁判所を通じた手続ですが,任意整理は債権者(金融機関,消費者金融,個人等)を相手にして行います。

 

そのため,代理人の代理権も,債権者に対するものとなります。

 

具体的には,弁護士が債務者の代わりに,債務者の財政状況を債権者に伝えるとともに,支払い総額や支払期間(分割回数)などの条件を交渉し,最終的に和解契約を締結するというものです(和解に至らないこともあります)。

 

この違いは,実務上は,相続放棄手続が完了した旨を債権者に対して連絡する際に現れます。

 

相続放棄において,債務者(債務者の相続人)の相続放棄手続が完了した際に,その旨を債権者に対して連絡します。

 

こうすることで,相続人が債務者でなくなったことを債権者に認識してもらって請求を止めることができるためです(債権者としても,回収不能という形で事件をクローズできるようになります)。

 

このとき,受任通知を求められることがあります。

 

債権者側から見ると,債務者に関する事項で弁護士から連絡が入る場合というのは,返済に関する交渉の場合がほどんどであるためです。

 

しかし,相続放棄の代理人弁護士は,あくまでも裁判所に対する代理権を有しているだけで,債権者との債務に関する交渉の代理権を有しているわけではありません。

 

そもそも,債権者を事件の相手方としているわけではないので,受任通知を送るという性質のものではないのです。

 

このことを説明し,相続放棄申述受理通知書の写しを提供する等することで,(元)相続人の方への請求を止めることができます。

【相続放棄シリーズ】14 相続放棄は連鎖する

かなり暑い日も増えてきた半面,まだまだマスクが手放せない状況。

 

水分を多めに取り,熱中症対策をすることが大切であると感じます。

 

今回は,相続放棄シリーズ第14回目,相続放棄の連鎖についてです。

 

1 相続には順位がある

人が亡くなることで,相続が発生します。

 

被相続人が亡くなった時点で子がいた場合,子が相続人となります。

 

子がいない場合,直系尊属(父母,祖父母等)が相続人となります。

 

直系尊属もいない場合(実際には先に亡くなっていることが多いです),兄弟姉妹が相続人となります。

 

被相続人に配偶者がいる場合,常に相続人となります。

 

2 相続放棄をすると次の順位の相続人に相続権が移る

相続放棄が認められると,申述人は初めから相続人でなかったことになります。

 

つまり,相続に関する法律上は,初めからいなかったことになります。

 

被相続人の子が(全員)相続放棄をすると,被相続人には子がいないことになるため,次の順位である直系尊属が相続人となります。

 

そして,生存している直系尊属も相続放棄をすると,直系尊属もいなかったことになるため,さらに次の順位の兄弟姉妹が相続人になります。

 

3 相続人全員が相続放棄をしないと,大きな負担が生じることも

被相続人が資産を持たず,大きな負債を抱えたまま亡くなった場合などは,相続人全員が相続放棄をしないと,放棄をしなかった相続人が大きな負担を抱えることになります。

 

子が全員相続放棄をすると,被相続人の負債は直系尊属にまわってきます。

 

直系尊属が全員相続放棄をした,または直系尊属が既に全員死亡していた場合,被相続人の負債は兄弟姉妹にまわってきます。

 

さらに,兄弟姉妹が複数人いる場合,本来は負債が法定相続割合に基づいて分散されますが,一部の兄弟姉妹だけが相続放棄をすると,残りの兄弟姉妹に負債が集中します。

 

そのため,負債を負担するお気持ちがある場合は別として,先順位相続人が相続放棄をした場合には,次の順位の相続人も相続放棄をしない限り,被相続人の負債から逃れることはできないということになります。

【相続放棄シリーズ】13 相続放棄の増加と備え

一旦は緊急事態宣言が解除され,街には人並みも戻ってきました。

 

もっとも,また感染者が増えている地域もあり,油断は禁物であると感じております。

 

弁護士の鳥光です。

 

今回もご覧いただき,ありがとうございます。

 

相続放棄シリーズ13回目は,相続放棄の動向と対策についてです。

 

1 相続放棄は増えている

相続放棄は,平成25年には約17万件あり,平成30年には21万件を超えています。

 

単純計算では毎年8000件程度増えていることになります。

 

現場の感覚としても,相続に関するご相談の中で,相続放棄をご希望でいらっしゃる方の割合は増えています。

 

データと現場感覚の両面において,相続放棄の需要は増えているといえます。

 

完全に私見ですが,背景には次のような要因があるのではないかと思います。

 

・単に高齢化社会が進んだことにより,相続の発生件数が増え,そのなかに一定の割合で相続放棄をすべきケースが含まれれていることから,相続放棄件数が増えた。

 

・バブル期は順調であったが,その後の不況で一家離散し,音信不通となっていた親が負債を抱えたまま亡くなった。

 

・相続に対する意識が変化した(相続は,せねばならないという考えから,相続関係は断ち切っても良いという考えへ変化)。

 

2 相続放棄は身近になりつつあり,備えも必要

人が亡くなることで相続は発生します。

 

相続放棄は,一旦相続が生じたのちに,遡及的に相続人でなかったことにすることで,相続の効果を消滅させるものです。

 

つまり,本来的に相続放棄は例外的な措置です。

 

そのため,普段生活の中で見聞きすることは少なく,専門家以外の方向けの書籍等もあまりないので,リテラシーの向上がなされていません。

 

一方で,相続放棄を行うべきケースは確実に増えていることから,かつてに比べて相続放棄は身近になっています。

 

相続放棄シリーズにて紹介させていただいております通り,相続放棄には気を付けなければならない点がたくさんあります。

 

裁判所に提出する相続放棄申述書を書くだけであれば,それほど大変ではありません。

 

しかし,相続放棄の期限の起算日の考え方や,法定単純承認事由に該当する行為(相続放棄をするにあたり,やってはならない行為),債権者への対応など,知らないと全く対応できません。

 

特に期限と法定単純承認事由に該当する行為については,手遅れになってしまうと専門家であってもリカバリーが不可能になります。

 

そのため,相続放棄は自分がすることもあり得るという認識でもって,概要レベルでもよいので知識の備えを持っておくことが重要です。