相続財産管理人日誌5

今回は相続財産管理人日誌、第5回目です。

 

相続財産管理人弁護士として体験したことを、秘密の漏洩にならない範囲で紹介していきます。

 

 

相続財産管理人は、選任されたらできるだけ早く、相続財産管理人用の銀行口座を作成します。

 

これは、被相続人名義の預金を移行して管理したり、不動産等を売却した際の売却金を保管する目的で作成します。

 

名義は通常「亡(被相続人の名前)相続財産管理人(管理人の名前)」として作成します。

 

この口座で被相続人に関する金銭を一元管理します。

 

相続財産の管理に必要な金銭を、この口座から引き出して使用することもできます(場合によっては裁判所の許可が要ります)。

 

逆に、仮に自分の事業用の口座や、個人の口座を使用してしまうと、お金の出入りが複雑になり、管理できなくなる可能性があります。

 

場合によっては横領にもなりかねないので、確実に相続財産管理人専用の口座を作成し、一元管理する必要があります。

 

相続財産管理人口座の開設は、金融機関の方から見ると、かなり特殊な手続きです。

 

感覚的には破産管財人口座よりも少ないと思いますので、もはやイレギュラー対応の領域になってくるとも思えます。

 

これに加え、コロナウィルスの影響により、窓口が予約制になっていたりなど、相続財産管理人口座開設にはとても時間を要する可能性がありますので、早めに手続きに着手した方が良いです。

相続財産管理人日誌4

今日もブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

弁護士の鳥光でございます。

 

今回は相続財産管理人日誌第4回目となります。

 

 

相続財産管理人が選任されると、裁判所から、相続財産管理人が選任された旨の官報公告がなされます。

 

これによって、被相続人の相続財産について、相続財産管理人が就いたことが、世間一般の方が知ることができるようになります。

 

ところで、相続財産管理人に選任されると、不動産業者の方からお声がかかるようになります。 

 

理由は次の通りです。

 

相続財産管理人の最終目的は、相続財産の清算です。

 

特に、不動産は、売却換価することになります。

 

相続債務が存在し、預貯金等で返済ができない場合は、不動産を売却した金銭でもって弁済を行います。

 

不動産業者の方としては、この売却換価処分について、仲介を行うことにメリットがあります。

 

不動産の売買において、媒介をすることで、手数料が発生します。

 

媒介をするためには、買い手を探したり、境界問題の有無や法令上の制限を調査したり、売買契約書を作ったり、重要事項説明書の作成及び面前での説明をしたりなど、とても多くのことを行わなければなりません。

 

売主や買主の代わりにこれらをやってもらうのですから、正当な対価としての手数料を受け取ることができます。

 

相続財産管理人は、相続人または特別縁故者が現れた場合及び不動産に買い手がつかなかった場合を除き、通常であれば相続財産に含まれる不動産を確実に売却します。

 

そのため、不動産業者の方から見れば、Win-Winの関係になれます。

 

相続財産管理人の業務を行う弁護士としては、普段から相談しやすい不動産業者の方がいると、とても心強いところです。

相続財産管理人日誌3

本ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

 

相続財産管理人日誌の、第3回目です。

 

 

相続財産管理人に選任されると、初期の段階で申立人との面談を行うことが多いです。

 

申立人本人が申立てをしている場合は、(当然ですが)申立人とお話をします。

 

申立人に代理人がいる場合、代理人と一緒にお話をするということもあります。

 

私が相続財産管理人選任申立ての代理人をしたときは、申立人本人と一緒に相続財産管理人のもとを訪れてお話をしました。

 

コロナウィルスのこともあるので、zoomなどのリモート会議システムを使って面談をするというケースも増えているようです。

 

被相続人の財産に関する資料があれば、面談の際に申立人から相続財産管理人へ引き渡すことも多いです。

 

主なものとしては、自宅・自動車の鍵や、預貯金通帳、現金などがあります。

 

これらを引き渡してもらえると、鍵の開錠作業や、金融機関に対する預貯金照会をせずに済むことがあり、相続財産管理人としてはとても助かります。

 

面談後、自宅土地建物がある場合で、申立人が当該土地建物に詳しい(申立人が被相続人の子であり、同居していた時期があるなど)ときは、申立人と一緒に自宅土地建物へ行くこともあります。

相続財産管理人日誌2

相続財産管理人日誌第2回目です。

 

本ブログをご覧いただき、ありがとうございます。

 

相続財産管理人弁護士としての体験談を、秘密の漏洩にならない範囲で記していきます。

 

 

相続財産管理人に選任され、相続不動産の登記を行うことと並行して、相続財産管理人選任申立てを行った申立人との面談により、詳しい事情を伺いました。

 

今回は、やはり相続財産に関する情報はほとんど得られていないとのことでした。

 

これは特に申立人に非があるのではなく、類型上仕方のないことでした。

 

一方、申立人は立場上、相続財産以外については、様々な資料を取得、提供しやすい方でしたので、申立書の写し一式や、公的な書類を提供してもらうことができました。

 

実は、これは後ほどとても重要な意味を持ってきます。

 

特に、申立書一式に含まれる戸籍謄本類の写しは、被相続人の預貯金の解約・名義変更、金融資産の売却換価の際、必要となるケースがあります。

 
(相続財産管理人選任審判書を示すだけでよい場合が多いですが、保険会社等は、相続人が不存在であることを証明するのに足りる戸籍謄本類一式の写しを要求することがあります。)

 

もしも、改めて戸籍謄本類一式を集めるとなると、膨大な手間と費用がかかります。

 

相続財産管理人選任申立てのために必要な戸籍謄本類は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍、すべての相続人の死亡記載戸籍(または相続放棄をしたことを示す書類)のほか、被相続人の父母の出生から死亡までの連続した戸籍です。

 

これらを改めて収集するのは、非常に大変です。

 

相続財産の換価処分にも大きな影響を与えます。

 

そのため、申立人から、相続財産管理人選任申立の際の書類一式をいただくことは、とても大切なのです。

相続財産管理人日誌1

今日もブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

私は弁護士業務の中でも、相続放棄にとても注力しております。

 

そんな中、先日相続財産管理人に選任され、業務を進めております。

 

相続放棄シリーズのスピンオフとして、相続財産管理人業務のことについても、これから記していこうと思います。

 

 

相続財産管理人に選任されたのは、少し前です。

 

家庭裁判所からご連絡をいただき、引き受けさせていただく旨の回答をしました。

 

その後、まず裁判所へ足を運び、事案概要の説明を受けます。

 

同時に、記録の閲覧も行います。

 

あまり具体的には記せませんが、今回は相続人全員が相続放棄をしたケースではなく、当初から相続人が不存在であるケースでした。

 

相続財産に関する情報が少ない類型ですので、相続財産調査が大きな課題になることが予想されました。

 

相続財産の中に自宅土地建物が存在していましたので、すぐに現地に行きました。

 

老朽化が進んでいる場合は補強等が必要になりますし、占有者が存在する可能性もあります。

 

実務上の問題として、害虫や害獣が住み着いていることもあり、業務を円滑に進めるためには、これらの駆除も必要になることがあります。
(実際、蜂に襲われました。これについては、別の記事で紹介します。)

 

一見したところでは、特に問題はなさそうでした。

 

特段傷んでいるところもなく、雑草等も少ない状態でした。

 

家庭裁判所より、相続財産管理人選任審判書を受け取ったら、すぐに登記を行います。

 

これは、亡くなった方の名義であった土地建物が、相続人不存在によって相続財産法人になったことを示すとともに、その管理人が誰であるかを公に示すことを目的とします。

 

これを行っておかないと、後日土地建物を売却換価することもできなくなります。

 

相続財産である土地建物を管轄する法務局(支局)へ行き、登記申請書と審判書等を用い、登記手続きを行います。

 

一般的な相続登記に比べると、必要な書類は少なく、かなり簡単に手続きを完了することができます。

 

もっとも、被相続人の登記上の住所の名称が変わっていた(物理的な住所は同じ)ため、市役所で住所表記が変更された証明書も取得して提出する必要がありました。

 

これにより、約2週間で登記が完了したので、変更後の登記(全部事項証明書)を取得し、裁判所へ報告しました。

【相続放棄シリーズ】28 相続財産管理人選任申立て

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ28回目は、相続財産管理人選任申立てについてです。

 

正確には、相続放棄とは別個の手続きですが、相続放棄後の相続財産の処理のために必要となる場合もあるので、ここで紹介させていただきます。

 

1 相続財産管理人
一言でいうと、相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を清算する役割を持つ人です。

 

被相続人の財産は、相続人がそもそもいないか、または相続人全員が相続放棄をすると、法概念上、相続財産法人という法人になります。

 

相続財産管理人は、この法人の代表者に位置づけられます。

 

そして、被相続人の財産、たとえば預貯金であれば管理口座に移して管理し、不動産であれば汚損や倒壊等を防ぐ等の管理をします。

 

また、裁判所の許可を得て、必要に応じて財産を換価したり、処分したりします。

 

相続人、受遺者、特別縁故者が現れなかった場合、最終的には相続財産を国庫に納めます。

 

2 相続財産管理人が選任されるケース
大まかに3つのパターンがあります。

 

1つめは、元相続人が相続財産の管理に困っているケースです。

 

特に、古い建物が存在する場合です。

 

建物は人が使っていないと、急速に老朽化します。

 

時が経つにつれ、倒壊の危険が高まったり、不法占拠者が現れるなど、トラブルの発生率が上がります。

 

このようになってしまうと、元相続人に対して、何らかの責任追及がされる可能性もあります(あるいは、法的責任はないにせよ、近隣住民や市役所等から、事実上いろいろな要求がされ、対応に困ることもあります)。

 

そこで、相続財産管理人に相続財産の管理責任を委ね、処分をしてもらうという選択をすることがあります。

 

2つめは、債権者が債権回収をするケースです。

 

被相続人に借金がある場合、相続人が返済を免れるために相続放棄をすることがあります。

 

その結果、債権者は相続人に対して支払いを求めることができなくなるため、相続財産の中にめぼしい財産がある場合には、これを換価して弁済を受けるという選択を取ることがあります。

 

この場合、債権者が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをします。

 

3つめは、市町村等が空き家管理のために申し立てるというケースです。

 

近年、被相続人の家屋が放置され、地域の安全が脅かされたり、土地の有効活用ができなくなるという問題が増えています。

 

空き家の中には、相続人が元々不在のものや、相続人全員が相続放棄をしたものもあります。

 

このような空き家について、市町村等が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをし、空き家の処分をするという形になります。

 

3 相続財産管理人選任申立ての手続き
家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任申立書と、付属資料を提出します。

 

付属書類の中には、財産目録がありますので、可能な限り正確に被相続人の財産を調査して、疎明資料とともに提出します。

 

また、相続人全員が相続放棄をしたことで相続人不在となった場合には、相続放棄申述受理通知書の写しや、相続放棄照会結果の写し等を添付します。