【相続放棄シリーズ】25 付随問題への対応2

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ25回目の今回は、前回に引き続き、相続放棄に付随する問題への対処法を説明していきます。

 

1 被相続人の負債
結論としては、支払う必要はありません。

相続放棄が成立した後は、はじめから相続人ではなかったことになります。

被相続人の負債を相続しませんので、支払いに応じる法的根拠がなくなります。

実務上の対処法としては、まず相続放棄をすることを決めた段階で、債権者へ連絡します。

債権者側へ伝えることで、いったん請求を停めてもらえるためです。

相続放棄が完了し、相続放棄申述受理通知書が発行されたら、その写しを債権者へ提供します。

 

2 残置物
法律上は、何もする必要がありません。

原則論でいえば、相続人全員が相続放棄をした後、賃貸人が相続財産管理人選任の申立てをし、相続財産管理人に明渡を求めればよいためです。

もっとも、賃貸人からの明渡要求が厳しく、精神的に辛いというケースもあります。

また、後述するように、被相続人の保証人になっている場合は、明渡完了までの間の家賃(相当額)を支払わなければならなくなります。

相続財産管理人選任を待っていると、保証人として支払う金額が大きくなる恐れがあります。

実務上は、明らかに財産的価値のない残置物は、いわゆるゴミとして扱い、相続財産を形成しないと解釈し、処分して明渡すこともされています。

ただし、裁判所が明確に認めたわけではないので、法定単純承認事由となるリスクが残ることは認識が必要です。

財布(現金)や預金通帳など、財産的価値があるものは、しっかり保管しておきます。

 

3 不動産(建物)、自動車
現行法上、これらを処分すると、原則として、法定単純承認事由に該当することになります。

土地建物を売却することはもとより、建物を取り壊すことも法定単純承認事由に該当します。

自動車の廃車手続、廃棄も同様です。

これらを、法定単純承認事由に該当することなく処分するには、相続財産管理人選任の申立てが必要になります。

被相続人に債権者がいて、かつ売却価値のある不動産、自動車であれば、債権者側が相続財産管理人選任の申立てをする可能性もあります。

 

4 被相続人の保証人になっている
結論としては、相続放棄をしても保証債務を免れることはできないため、支払いに応じる必要があります。

保証の範囲は、保証契約によって変わる可能性があるため、保証契約の中身をしっかり確認します。

特に住宅の賃貸借の場合、原則として、保証人には明渡義務そのものはなく、原状回復義務および明渡遅延期間の賃料相当額の支払義務があります。

明渡ができないため、法律論的には、相続財産管理人選任の申立てをし、賃貸物件内の残置物処分と、賃貸借契約の解除をする必要があります。

もっとも、非常に時間も費用も要することから、実務上は、残置物を別の場所に保管するか、リスクを負って財産的価値がないものを処分するという方法がとられることも多いです。

また、保証人になっている場合に気を付けたいのは、被相続人が賃貸物件で死亡した場合です。

いわゆる事故物件になったとして、保証人に対し、損害賠償を求められることがあります。

被相続人が自殺をしたのか、病気や事故で亡くなったのかによっても、損害賠償義務の有無や額が変わってきます。

自殺の場合には、損害賠償義務を認めた裁判例もあります。

そのため、死因についてはしっかりと資料、証拠を集めたうえ、厳格な交渉を行います。

【相続放棄シリーズ】24 付随問題への対応1

令和3年4月になりました。

 

暖かい日も増え、日によっては暑いくらいかもしれません。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ24回目です。

 

今回と次回は、私が今まで相続放棄業務を行ってきた中で、相続放棄に付随して発生する問題や、これに対する対応法について記していきます。

 

1 相続放棄は手続そのものより付随問題対応が難しい
相続放棄の手続き自体は、例外的なケースを除き、相続放棄申述書を作成し、戸籍謄本等の添付資料と一緒に家庭裁判所へ提出することでできます。

これだけであれば、そこまで大変な手続きではありません。(子が亡くなった場合の親の相続放棄や、兄弟姉妹の相続放棄は、集める戸籍謄本類が多いため、専門家でない方が行うのは簡単ではありません)

しかし、相続放棄を希望される方は、被相続人に関する何らかの付随問題を抱えていることが多いです。

単に相続放棄申述書を裁判所に提出しただけでは解決しないことがあります。

そして、あくまでも私見ですが、専門家としても、相続放棄の手続きをするだけではなく、依頼者の方が抱えている諸問題も一緒に解決するべきであると思います。

では、相続放棄に付随する問題としてどのようなものがあるのでしょうか。

 

2 相続放棄に付随する問題

(1) 被相続人の負債
被相続人が貸金業者等からお金を借りていた、家賃を滞納していた、入院費を滞納していた、等があります。

原則としては、相続人が債務を相続しますので、相続人へ支払い請求がされることになります。

 

(2) 残置物
被相続人が賃貸物件に住んでいた場合、生前に使用していた衣類や家財道具等が残ります。

賃借権や明け渡しの義務も相続の対象となりますので、賃貸人は相続人に対して明け渡し等を求めることになります。

 

(3) 不動産(建物)、自動車
相続人全員が相続放棄をすると、不動産や建物は相続人不在となります。

もっとも、不動産や自動車は、物理的には残存し続け、元相続人は管理責任を負うことになります。

建物がある場合、倒壊等の危険があり、何らかの責任を問われる可能性が残ります(管理責任の内容は、明確には確立していません)。

自動車についても、他人の土地上にある場合、撤去を求めてくることがあります。

 

(4) 被相続人の保証人になっている
相続人が、被相続人の保証人になっている場合があります。

被相続人の借金の保証人になっている場合もあれば、被相続人が自宅の賃貸借契約をする際の保証人になっている場合もあります。

保証人になっている場合、保証契約はあくまでも債権者と相続人との間で締結されるものであるため、相続放棄をしても保証債務から免れることができません。

 

次回、これらについての対処法について説明します。