【相続放棄シリーズ】18 相続放棄と時効援用

暑い日が続きます。

 

熱中症の危険があることに加え,寝苦しい日もあることから体調を崩される方もいらっしゃるかもしれません。

 

ひと昔前は冷房が身体に悪いと言われていましたが,今では冷房をかけないと身体に悪いとさえいえそうです。

 

相続・債務整理を担当している弁護士の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ第18回目となります。

 

今回は相続放棄と時効援用についてです。

 

1 どちらも相続債務を負担しないで済む

被相続人が債務を有したまま死亡すると,基本的にその債務は法定相続割合に基づいて相続人が負担することになります。

 

相続放棄をすると,その相続人は初めから相続人でなかったことになりますので,当然債務も相続せず,負担する必要はなくなります。

 

相続放棄は,相続人が個別に行う手続ですので,相続債務を負担する必要がなくなるのは,相続放棄をした相続人だけです。

 

時効援用は,相続債務の消滅時効が完成している場合に限られますが,やはり相続人が債務を負担する必要がなくなります。

 

法的には,相続債務を一旦相続するものの,時効援用により債務を消滅させることができるということになります。

 

初めから債務を相続していないことになる相続放棄とは,理論上は異なりますが,相続債務の支払い義務がなくなるという部分は共通しています。

 

2 実務上は様々な違いがある

相続放棄をする場合も,時効の援用をする場合も,被相続人の相続財産(債務)の調査をする必要はあります。

 

厳密には,相続放棄は,債務を有しているおそれがあることが判明した段階でも行ってしまうことも多いです(たとえば,遺品の中から,少し古い消費者金融からの請求書が出てきたなど)。

 

しっかり相続債務を調査する場合は,債権者に対して,被相続人の取引履歴を提示してもらうよう依頼し,かつ依頼する人が相続人であることを示す書類(被相続人死亡の記載のある除籍,及び相続人の戸籍など)を提示する必要があることもあります。

 

もちろん,債権者に対する取引履歴の請求は弁護士が代理をすることもできますし,弁護士が職務上請求により戸籍謄本類を取得することもできます。

 

債務の調査には時間が掛かることもありますので,相続放棄を視野に入れている場合は,期限の延長手続を行っておくことも大切です。

 

相続債務の状況が判明したら,(他にも債務が存在しているおそれがないことが前提ですが)時効が完成している場合とそうでない場合とで対応が変わってきます。

 

時効が完成していて,預貯金等他の財産を取得することに問題がない場合は,債権者に対して消滅時効の援用を行います。

 

消滅時効の援用は,債権者に対して行われるものですので,弁護士が代理として行う場合は,債権者を相手方とする委任を受ける必要があります。

 

そして,相続人の代理人として,債権者に対して時効援用の通知文を送付するということが行われます。

 

時効が完成していない場合,相続放棄を行います。

 

感覚的にわかりにくい部分ですが,相続放棄は債権者に対してではなく,裁判所に対して行われる手続きです。

 

したがいまして,弁護士が代理で行う場合は,債権者を相手とする委任を受けるのではなく,あくまでも相続放棄の委任を受けた旨を裁判所に対して示すということになります。

 

相続放棄が完了した後,弁護士が債権者に対して相続放棄申述受理通知書を送付することがありますが,これは時効の援用とは異なり,あくまでも依頼者に代わって事実上相続放棄が完了したことを通知する,という形になります。

【相続放棄シリーズ】17 相続債務があるが相続放棄は困難である場合

夏も本番になりました。

 

熱中症対策は十分にしなければなりません。

 

相続,債務整理を中心に担当しております,弁護士の鳥光と申します。

 

今回は相続放棄シリーズ17回目,相続放棄が(事実上)できない場合についてのお話です。

 

1 相続債務があるが,生活に必要な財産もある場合

典型的な例として,被相続人が消費者金融等に債務を有していると同時に,自宅を所有しており,相続人がそこに住み続ける場合がこれにあたります。

 

もちろん,相続放棄をして,(元)自宅から退去するという選択も,理論的には存在します。

 

しかし,新たな家を探すことは簡単なことではありませんし,自宅の価格に比べて債務額が低い場合,もったいない感じもします。

 

このような場合,相続放棄以外の解決手段がないか,検討します。

 

2 解決法は大きく分けて2つ

1つは,自宅を売却し,その売却金で債務を返済することです。

 

もっとも,この方法は,売却金の余りを得ることはできるものの,新たな住居を探して転居する負担は残ってしまいます(不動産の売却自体も簡単ではありません)。

 

2つめとして,任意整理,時効援用を行うという方法が考えられます。

 

まず,被相続人の方宛てに送られた請求書や,信用情報機関から取得した情報を元に,債権者と債務額を正確に調査します。

 

この時,返済期限から何年も経っていて,消滅時効が完成しているようでしたら,時効を援用することで債務をなくすことができます。

 

金銭債務は,相続人全員に法定相続割合で分割されているので,相続人それぞれが時効援用をする必要があります。

 

時効が完成していない場合,任意整理を行います。

 

放っておくと遅延損害金が膨れ上がるだけでなく,場合によっては訴訟を提起されたり,裁判所を通して支払督促がなされたりすることがあります。

 

任意整理によって和解契約を締結し,支払金額を固定したうえで分割払い等にすることが一般的ですが,この部分は通常の任意整理(ご存命の方の任意整理)と比較すると複雑になります。

 

上述の通り,消費者金融等に対する金銭債務は,相続人間で法定相続割合で分割されます。

 

そのため,和解契約は相続人それぞれが債権者に対して行う必要があり,支払いも個別に行うことが基本です。

 

もっとも,これは非常に手間がかかりますので,和解契約書の文面において,相続人それぞれが法定相続割合による債務を有していることを確認したうえで,相続人代表者を決めて,その人が債権者に対して全員分の支払いを行うとすることがあります。

あくまでも,代表者は債権者に対して全員分をまとめて支払うだけで,相続人全員の債務を負担するわけではありません。