【相続放棄シリーズ】12 相続放棄は生前に準備をすることが大切

東京駅八重洲口側周辺は,本当に人が少ないです。

 

いまだかつてゴールデンウイークにこのような光景を見たことはなく,緊急事態宣言の効果を強く感じます。

 

相続放棄シリーズ,第12回目は,生前の準備についてです。

 

1 相続放棄は,ご存命のうちから準備をすることがある

相続放棄というと,被相続人が亡くなった後になって多額の借金の存在が明らかになったり,音信不通だった被相続人が亡くなったことを債権者からの催促で知った,という場合にするものというイメージがあります。

たしかに,そのようなケースも多く存在します。

しかし,被相続人がご存命のうちから,被相続人とご家族とが話し合い,相続放棄をすることを決めておくというケースもあります。

 

被相続人が事業などを営んでいて,融資も受けていた(つまり銀行等から借金をしていた)が,重い病気などにより入院生活となってしまい,事業は事実上停止し負債だけが残ってしまったという場合です。

 

病気が進行し,医者から余命が短い旨を伝えられた際に,家族同士で話し合い,予め相続人となる方々が相続放棄の準備を開始します。

 

このような経緯で,被相続人がご存命のうちから,相続放棄の準備についてご相談に訪れる方もたくさんいらっしゃいました。

 

2 相続放棄の生前準備

相続放棄の生前準備を行うケースにおいて,やるべきことはいくつもあります。

 

被相続人の状況に応じて,個別具体的な対応が必要ですが,一般的には次のことを行います。

 

・財産の把握,特に債務の内容(債権者と金額)と不動産所有状況の整理

 

・残置物になり得るもの(被相続人が亡くなったらゴミになり得るもの)の処分

 

・被相続人死亡後に行ってはならない行為(法定単純承認事由)の把握

 

・賃貸借契約がある場合は解約・解除

 

預貯金等がある場合,葬儀費の準備などのために生前贈与をすることもありますが,債権者との関係においては詐害行為になる可能性もあるので注意が必要です。

 

法定単純承認事由に該当する行為を予め知っておくことは,とても大切です。

 

知らずに法定単純承認事由に該当する行為を行ってしまうと,原則として相続放棄ができなくなります。

 

これを覆すのは容易ではありません。

【相続放棄シリーズ】11 相続放棄は書類を裁判所に提出するだけでは終わらない

緊急事態宣言が延長されました。

 

生活も仕事も,なかなか元には戻れない状況が続きます。

 

弁護士として,法律の側面から,皆様のお悩みを解決するために尽力したい次第です。

 

さて,相続放棄シリーズ11回目は,裁判所へ相続放棄申述書を提出した後の話です。

 

1 相続放棄申述書を提出した時の効果

相続放棄の手続きは,相続放棄申述書とその付属書類を裁判所に提出することで開始されます。

 

同時に,相続放棄の申述期限の問題も解消されます(原則として,相続の開始を知った日から3か月以内に相続放棄申述書を提出すれば,期限内に相続放棄の手続を行ったことになります)。

 

相続放棄申述書を提出することで相続放棄が完了するのではなく,相続放棄の手続が開始されるのです。

 

具体的には,裁判所の中で,形式面,法律面双方から,相続放棄の要件を備えているか否かの検討,審議が開始されます。

 

2 相続放棄申述書提出後の,申述人側の手続き

相続放棄申述書を提出すると,裁判所から申述人(またはその代理人)に対し,連絡がなされたり,必要に応じて書面等の追加提出を求められます。

 

具体的には,次のようなものがあります。

 

(1)照会書兼回答書

裁判所から,照会書兼回答書(裁判所によって名称が異なる)が送られることがあります。

 

これは,申述人に相続放棄の意思があることを再確認するほか,事案に応じて裁判所が詳しく事情を把握したい事項についての質問が記載されたものです。

 

回答次第では,相続放棄を却下することもあり得ます。

 

送付の仕方は,裁判所により区々であり,同じ裁判所であっても部署や書記官により運用が異なることもあります。

 

送付は大きく分けて次の3つのパターンがあります。

 

1つめは,申述人本人に送るパターンです。

 

代理人が就いていない場合は当然ですが,代理人が就いていても本人に照会書兼回答書が送付されることがあります。

 

2つめは,代理人が就いている場合に,代理人宛てに送るパターンです。

 

代理人宛てに書面が郵送されてくることの外,FAXで送付されることや,電話で照会されることもあります。

 

3つめは,正確には送付ではないのですが,代理人が就いているときに限り,照会せずに相続放棄を認めるというパターンです。

(2)審問

審問とは,裁判所に行き,裁判官からの質問に回答する手続きです。

 

行われることは少ないですが,提出した書面だけでは相続放棄の要件を満たしているか否かの判断が難しい場合に行われることがあります。

 

相続放棄申述書を提出した後,裁判官が審判をすべき事案であると判断した場合,裁判所から呼び出しがかかります。

 

原則としては,申述先の裁判所へ行き,裁判所の中の部屋で審問を受けることになります。

 

申述先の裁判所が遠方であると,かなり負担になります。

 

(3)その他
書類の追加提出を求められる場合があります。

 

よくあるのが,兄弟姉妹相続の相続放棄において,第二順位の相続人である直系尊属が全て死亡していることを示す戸籍の追完を求められることです。

 

兄弟姉妹は,直系尊属が全て亡くなっていて,初めて相続人になるため,直系尊属が生存していると相続放棄を行う地位になく,相続放棄の要件を欠くことになります。

 

兄弟姉妹相続の相続放棄においては,兄弟姉妹の出生から死亡までの全ての戸籍を収集して提出しますが,その戸籍に中に親の死亡の記載がない場合や,その上の親の死亡が確認できない場合,提出を求められます。

3 相続放棄申述受理通知書が発行されたら

裁判所において,相続放棄の要件を満たすと認められた場合,相続放棄申述受理通知書という書面が発行され,送付されます。

 

基本的には,この書面を取得することができれば,相続放棄は完了したといえます。

 

相続放棄申述受理通知書があれば,対外的にも相続放棄を行ったことを示すことができますし,多くの場合,債権者に対して写しを提供することで請求を止められます。

 

もっとも,相続放棄を行ったことを示す書類には,相続放棄申述受理通知書のほかに,相続放棄申述受理証明書というものがあります。

 

これは,不動産の登記を行う場合等に,必要となることがあります。

 

申述先の裁判所に対し,相続放棄申述受理証明書の請求用紙と,手数料分の収入印紙を郵送することで取得することができます。