【相続放棄シリーズ】8 相続放棄の定義を今一度

4月に入り,桜の花も散り始めました。

 

これから暖かくなっていくにつれ,アクティブに行動をしたくもなりますが,コロナウィルスの影響下においては極力外出を控えたいところでございます。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ8回目となる今回は,今一度相続放棄の定義について考察します。

 

1 事実上の相続放棄

相続放棄という単語は,とても抽象的です。

 

一般的には,相続が発生した際に,他の相続人に対して相続財産を取得しない旨を伝えるという意味で使用されることもあります。

 

具体的には,遺産分割協議書等において,署名・押印部分には相続人として名前が表示されていても,条項においては遺産の取得者としては登場しないという形になります。

 

これは,専門家の世界では事実上の相続放棄などと呼ばれます。

 

後述する民法上の相続放棄と比較すると,プラスの相続財産を取得しないという点では効果は同じです。

 

一方,あくまでも相続人という法的地位がなくなるわけではないので,相続財産に含まれるマイナスの負債については,そうなりません。

 

遺産分割協議書において,プラスの相続財産を取得しない代わりに,被相続人の負債も負担しない(他の相続人が負担する)旨を記載しても,債権者には対抗できないので,別途免責的債務引受などを行わないと負債から逃れることはできません。

 

また,事実上の相続放棄は,遺産分割協議書後に新たに相続財産や相続債務が発見された場合も,都度遺産分割協議に加わり,財産を取得しない旨を記載した書面に署名・押印しなければならないという手間も生じます。

 

2 民法上の相続放棄

民法には,相続放棄についての条文が明記されています。

 

民法上の相続放棄をすると,初めから相続人でなかったことになります。

 

つまり,相続人としての法的地位が消滅するという点が,事実上の相続放棄との大きな違いです。

 

例外としての相続財産の管理責任が生じる点を除き,被相続人の相続とは無関係の存在になります。

 

生物学的には夫婦,親子,兄弟関係にあっても,相続に関する法律上は赤の他人というイメージです。

 

当然,被相続人の財産も負債も無関係ということになります。

 

相続は,原則として,相続人の意思とは関係なく,被相続人との家族関係によって自動的に発生してしまいます。

 

相続放棄は,この原則に対する例外として設けられている制度です。

 

民法上の相続放棄は,管轄の裁判所に対し,相続放棄申述書と附属書類を提出し,相続放棄申述が受理されることで初めて成立します。

 

事実上の相続放棄と異なり,決まった手続きを行い,裁判所に受理してもらわなければなりません。

 

事実上の相続放棄には原則として期限はありませんが,民法上の相続放棄は厳格な期限が設けられている点にも注意です。

 

期限は,相続の開始を知った日から3か月以内です。