【相続放棄シリーズ】6 相続放棄の理由はさまざま

暖かい日が増え,東京駅前では桜も咲き始めました。

 

もっとも,新型コロナウィルスの影響もあり,昨年に比べて桜を鑑賞しに来る人も減っているように感じます。

 

相続放棄シリーズ第6回目です。

 

今回は,相続放棄をする理由についてです。

 

1 相続放棄申述書記載事項

相続放棄の手続きを行う場合,裁判所に対して相続放棄申述書という書面を提出します。

 

通常,書面には,「申述の趣旨」と「申述の理由」を記載します。

 

「申述の趣旨」とは,申述人が裁判所に求める事項を端的に表したもので,「被相続人の相続を放棄する」というような書き方をします。

 

「申述の理由」とは,文字通りですが,相続放棄をしたい理由を書きます。

 

相続放棄を考えるに至った理由というと,一番初めにイメージされるのは,被相続人が有していたプラスの財産よりも,借金などマイナスの負債の方が大きい場合です。

 

たしかに,経験上もこのケースが一番多いです。

 

しかし,これ以外の理由でも全く問題ありません。

 

極端なことを言えば,被相続人に十分な財産があったとしても,他の相続人と関わりたくない,遺産分割協議が面倒なので無関係になりたい,という動機で相続放棄をしても構わないのです。

 

実際に,以下のようなケースもありました。

 

依頼者様のお父様がお亡くなりになったのですが,お父様の配偶者(依頼者様のお母様)は,昔から自己中心的で全く話が通じない性格であり,突然激昂して過激な行動を起こすこともあったため,遺産分割の話をしようもなく,仮にしたとしても何が起こるかわからない状況でした。

 

依頼者様は既にお母様とは離れた場所で暮らしていたため,「他の相続人と関わりたくないため」という理由にて,小職が代理人弁護士となって相続放棄手続きを行ったうえで,相続放棄申述受理通知書をお母様宛に送付しました。

 

2 被相続人死亡後3か月以上経過している場合には詳細な説明をする

相続放棄の申述の期限は,相続の開始があったことを知った日から3か月です。

 

理論上は,相続の開始があったことを知った日から3か月以内に相続放棄申述を行えば,相続放棄は認められます。

 

もっとも,被相続人死亡日から3か月以上経過してから相続放棄を行う場合には,被相続人死亡日よりも後になって相続の開始を知ったことを,裁判所に対して示さなければなりません。

 

言い換えますと,被相続人死亡から3か月以内であれば,理由は簡素なもので良く,極端に言えば,相続に関わりたくないという,消極的なものでも構わないことになります。

 

他方,被相続人死亡から3か月以上経過しているのであれば,裁判所を納得させられるだけの理由が必要です。

 

被相続人が孤独死しており,ご遺体の損壊が激しかったため,DNA鑑定等によって身元が判明したのが死亡日から6か月後であったというケース,10年以上も前に音信不通になった親が1年以上前に死亡しており,親の債権者から金銭の支払いを求められて初めて親の死亡を知ったケースなどは,相続放棄申述書に詳しい事情を記載したうえ,可能な限り根拠となる資料を添付します。

 

特に,被相続人が死亡したことは知っていたが,3か月以上経過した後になって,多額の債務の存在が判明した場合などは,相続放棄をする理由を「債務超過のため」であるとし,債務の内容や債務の存在を知った経緯を詳細に記述する必要があります。

 

3 相続放棄の理由は多様化する可能性

先述の通り,現時点においては,相続放棄の理由の大半は債務超過(またはそのおそれ)です。

 

しかし,これは私見ですが,ライフスタイルの変化とともに,相続放棄の理由も変わってくると考えております。

 

相続が発生すると,法律上・事実上,非常にたくさんの手続きや作業が発生しますし,遺産分割に争いが生じると数年に渡って他の相続人とネガティブなコミュニケーションをしなければならなくなります。

 

私生活における面倒ごとや判断しなければならないものの数を極力減らすという思考も増えてきている傾向からすると,相続が発生したら,機械的に相続放棄をし,完全に無関係の立場を作るという人も出てくるのではないかと思います。

 

相続放棄は,遺産を相続することが原則であるとするならば例外処理にあたりますが,相続放棄の方が主流になるという可能性もゼロではないのかもしれません。