相続財産管理人日誌11

相続財産管理人日誌、第11回目です。

 

相続財産管理人弁護士としての日々の体験談を記していきます。

 

今回は、被相続人が有していた自宅不動産の取り扱いです。

 

なお、相続財産管理人の選任申立てがなされる場合、被相続人は不動産を有していることが多いです(そもそも、不動産の清算のために申し立てられることが多いためです)。

 

まずは、自宅不動産について、現地調査を行います。

 
ここでは一軒家を想定します。

 
外側から観察できる事項だけでも、少なくとも次のことを調べます。

 

・雑草や樹木が多い茂っていないか、隣家や道路にはみ出していないか
・占有者がいないか
・害虫がいないか(蜂の巣の有無など)
・家屋が傷んでいないか(倒壊の危険性、屋根や壁の穴の有無など)

 

相続財産管理人になると、原則として1年以上相続財産を管理することになりますので、近隣の方への影響も考える必要があります。

 

雑草や樹木がはみ出している場合は剪定をする必要がありますし、害虫がいる場合は駆除する必要もあります。

 
家屋に倒壊の危険性がある場合、売却までの間、最低限の補修をしておく必要があります。

 

私が管理した家屋には、蜂の巣ができておりました。

 
自宅の鍵がなかったため、鍵交換作業中に蜂の巣があることが発覚し、刺激しないように慎重に鍵交換作業を行った経験があります。

 
その後すぐに申立人と相談したところ、駆除してもらうことができましたが、場合によっては相続財産管理人が害虫駆除業者等を手配して駆除することも考えられます。

 

自宅建物の内部に入ったら、まずは次のことを行います。

 

・老朽化状況の確認(特に床板が腐っていないか)
・腐敗物、害虫の存在の有無の確認
・電気、ガス、水道が止まっているか否かの確認
・間取りの確認
・施錠状況の確認
・相続財産に関わる資料の捜索

 

古い家の場合、床板が老朽化していることがあります。

 
歩行中に床が抜けてしまうと大怪我をする可能性がありますので、場合によっては補強が必要になります。

 
そうでなくても、床に何が落ちているかわからないため、安全靴やワークブーツなど、頑丈な靴を用意していった方が無難です。

 

腐敗物がある場合、臭いがひどいと管理作業に悪影響があります。

 
また、害虫が発生します。

 
これらは早急に処分します。

 
私が管理した家屋には、通電している冷蔵庫が存在していたことがありましたので、中身を処分し、ブレーカーを落としたうえで、冷蔵庫の周りに殺虫剤をまきました。

 

間取りを確認すると同時に、部屋の写真を撮っておきます。

 
これは、後で家財道具を処分する際の目録を作成するために役立ちます。

 

玄関以外の窓、勝手口等について、施錠されているかを確認します。

 
空き家は空き巣の被害に遭うことが多いためです。

 
窓ガラスの場合、雨戸があれば雨戸も閉じておくとガラスを割って侵入されるリスクを低減できます。

 

これらのことを行ったうえで、現金、預金通帳や請求書など、相続財産に関わる資料の捜索を行います。

相続財産管理人日誌10

本日も、本ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

相続財産管理人日誌第10回目となる今回は、預貯金以外の金融資産についてです。

 

被相続人の預貯金を解約し、相続財産管理人口座へ移行することと、被相続人の株式や投資信託の売却換価・保険の解約返戻金等を受け取ることは、一見似ています。

 

しかし、相続財産管理人業務としては大きな違いがあります。

 

預貯金の解約は、相続財産管理人の権限内の行為であるので、裁判所の許可が必要ありません。

 

一方で、株式や投資信託の売却、保険の解約返戻金等の受け取りは、権限外行為となりますので、裁判所に申立てをしたうえで、許可を得る必要があります。

 

証券会社や保険会社も、権限外行為許可審判書の提示を求めてきますので、失念する可能性は高くないとは思いますが、預貯金の解約に比べてプロセスが増えることに注意が必要です。

 

株式や投資信託の売却金を受け取るにあたり、証券会社に口座を作らなければならないことがあります。

 

この口座に一度入金され、その後で相続財産管理人口座へ送金するという流れになります。

 

また、保険の解約をし、解約返戻金等を受け取る場合は、保険会社によっては死亡診断書のコピーの提示を求めてきます。

 

申立人がこれを提供できる場合は良いのですが、そうでない場合は非常に厄介です。

 

死亡診断書を作成した病院が分かる場合は、その病院にコピーの提供をお願いするということもあります。

 

しかし、その病院すらわからない場合、被相続人の最後の本籍地を管轄する法務局に対し、死亡届記載事項証明書というものの発行を受けるほかありません。

 

この死亡届記載事項証明書は、申請すれば発行を受けられるというものではなく、民間の保険を受け取る目的では、原則として発行してもらえません。

 

そのため、裁判所に状況を説明して上申したうえで、事務連絡というものを発行してもらい、これを法務局に示すという手続きが必要です。

 

法務局としても極めて例外的な手続きになりますので、これでも死亡届記載事項証明書が発行できないという場合、裁判所からの嘱託によって発行するということもあり得ます。

相続財産管理人日誌9

相続財産管理人日誌、第9回目です。

 

相続財産管理人弁護士としての日々の体験談を、秘密の漏洩にならない範囲で紹介していきます。

 

相続財産管理人口座を作成し、被相続人の預貯金の存在が判明したら、次は預貯金の解約と、相続財産管理人口座への送金を行います。

 

この手続きも非常に時間がかかるため、早めに着手した方が良いです。

 

基本的には、相続財産管理人選任審判書、相続財産管理人の身分証明書、相続財産管理人印鑑証明書と印鑑、相続財産管理人口座の情報が最低限必要になります。

 

かなり例外的な手続きとなりますので、可能な限りは、窓口で金融機関の担当者の指示を仰ぎながら書類等を書く方が得策です。

 

多くの金融機関は、相続財産管理人の代理人でも手続きを認めてくれます。

 

その場合の書類(委任状)についても、事前に記載事項を確認しておくとよいです。

 

ゆうちょ銀行に被相続人の預金がある場合、解約後の送金は、同じゆうちょ銀行の口座にしかできません。

 

相続財産管理人口座がゆうちょ銀行以外である場合は、次の2つの方法で預金を移動します。

 

ひとつは、一旦証券をもらい、現金化したうえで、相続財産管理人口座へ預け入れをするというものです。

 

被相続人の預金が多額である場合、一時的に多額の現金を持ち歩かなければならないため、精神的な負担は大きいですし、実際に危険性もあります。

 

もうひとつは、ゆうちょ銀行にも口座を作る方法です。

 

お金の流れがわからなくなってしまうと危険ですので、ゆうちょ銀行においても相続財産管理人名義の口座を作り、一度この口座に被相続人の預金を移した後で、元々有している相続財産管理人口座へ送金するとよいです。

相続財産管理人日誌8

本ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

 

相続財産管理人日誌第8回目は、預貯金等の金融資産の調査についてです。

 

相続財産管理人選任申立書には、財産目録という添付書類があります。

 
そして、財産目録に記載された財産を疎明する資料(預金通帳の写しや、株式・投資信託のレポートなど)も添付されます。

 

申立人が被相続人の財産について詳しく調査している場合は、財産目録によって、網羅的に大方の相続財産を把握することができます。

 

一方、諸事情により、申立人が被相続人の財産の情報をあまり入手できない場合もあります。

 
被相続人の自宅の鍵がない場合や、債権者等の利害関係者が申立人となる場合です。

 

このときは、金融資産の情報がほとんどない状態で申立がなされます。

 

このような場合、相続財産管理人は、ゼロから金融資産の情報を調査しなければなりません。

 

具体的には、次のステップを踏んで調べます。

 

1 被相続人の所持品、家屋の調査
被相続人が所有していた物を調べます。

 
遺留品を預かっている人がいれば、その人から遺留品を受け取ります。

 
また、基本的には、被相続人の自宅を訪問し、捜索を行います。

 
具体的には、預金通帳や、証券会社のレポート、保険証券・保険レポート等を探します。

 
(なお、預金通帳など重要な物については、相続人のいない被相続人が孤独死などをされていると、警察から市役所等に預けられ、相続人不在として処分されていることもあります)

 
これらにより、被相続人が資産をを有していたであろう金融機関が判明しますので、当該金融機関に対して、しらみつぶしに照会を行うという手順になります。

 

2 預金通帳等が一切見つからない場合
遺留品や自宅を捜索しても、預金通帳等が見つからない場合は、とても大変です。

 
一般的に、銀行口座を一つも持っていないという人は非常に稀です。

 
そのため、一応の調査を行う必要があります。

 
この場合は、まずゆうちょ銀行とメガバンクから照会をかけます。

 
お歳を召していた方であれば、ゆうちょ銀行に口座を持っていることは多いです。

 
また、被相続人が地方にお住いであった場合、自宅近くにある地銀や農協、信用金庫も当たってみるとよいです。

相続財産管理人日誌7

今回は相続財産管理人日誌、第7回目です。

 

相続財産管理人弁護士としての体験談を紹介していきます。

 

前回、相続財産管理人用の口座開設の際に必要となる具体的な資料等について述べました。

 

今回は、口座開設の際に一緒に行ってしまうとよい手続きについて説明します。

 

相続財産管理人に選任された際、不動産登記や相続財産管理人口座開設と並行して、相続財産の調査を行います。

 
これは、相続財産管理人の業務の一つとして、相続財産目録を作成の上、裁判所へ提出する必要があるためです。

 
相続財産目録の提出時期は、通常、相続財産管理人選任の日から2か月後です。

 
相続財産調査には時間がかかることもあるので、かなり急ぐ必要があります。

 
なお、2か月では調査を終えられない事情がある場合、その旨を裁判所へ説明し、一旦は審判から2か月後の時点で判明している財産の報告をします。

 

申立人提供資料により、金融資産の具体的な情報が揃っている場合には、金融機関を訪れた際、その時点における残高を教えてもらうと、すぐに財産目録へ反映することができます。

 

申立人が元相続人や親族以外の者である場合など、申立人の金融資産に関する情報がない場合は、一旦、口座開設窓口において、被相続人の口座が存在していないか、質問してみます(銀行側から教えてくれることもあります)。

 
メガバンクなどの場合、被相続人が口座を持っていることも多いです。

 
その際、口座番号、支店名、残高を教えてもらうと、財産目録を早めに作ることができます。

 
私は、相続財産管理人口座開設をした銀行に、たまたま被相続人の口座があることが判明し、残高もそれなりにあることがわかったため、その後の管理費用の見通しを早期に立てることができました。

相続財産管理人日誌6

今回も本ブログをご覧いただき、誠にありがとうございます。

相続財産管理人弁護士の日誌、第6回目です。

 

前回、相続財産管理人に選任された後、相続財産管理人用の銀行口座を作成するというお話をしました。

 

その際に、通常金融機関から求められる資料につき、次の通り説明します。

 

1 相続財産管理人選任審判書原本
被相続人が死亡したこと、被相続人に相続人がいないこと、自身が裁判所から相続財産管理人として選任されたことを金融機関に示すために必要です。

 
相続財産管理人口座作成の際の書類に記載する住所や名称も、通常は審判書に書かれた通りにします。

 
なお、金融機関によっては、戸籍謄本類の提出を求めてくることがあります。

 
しかし、本来的には提出の必要はないと考えられます。

 
理由は、相続財産管理人選任申立ての段階で、すでに被相続人に関するすべての戸籍謄本類が裁判所に提出され、裁判所が審査をしたうえで、相続人が不在であることが確認されているためです。

 
そして、このプロセスを経なければ相続財産管理人の審判書は発行されませんので、審判書を以て、戸籍謄本類のチェックは不要であると説明がつきます。

 
もしも、それでも金融機関が応じない場合は、裁判所へ相談します。

 
それでも難しい場合、申立人から戸籍謄本類の写しが提供してもらえればそれで対応し、提供してもらえない場合の最終手段として、改めて戸籍謄本類を収集します。

 

2 身分証明書(弁護士会発行のカードのほか、運転免許証などが求められることもあります)
自身が、審判書に記載された相続財産管理人と相違ないことを証明するために用います。

 
通常、顔写真付きの身分証明書を用います。

 

3 裁判所が発行する印鑑証明書
家庭裁判所に申請することで、相続財産管理人用の印鑑証明書を発行してくれます。職印でも登録できます。

 

4 印鑑証明書に登録した印鑑

金融機関によって、当日口座が開設されて通帳等が発行されるところと、後日口座を開設し通帳を引き渡すところがあります。

 
スケジュール繰りには注意が必要です。

【相続放棄シリーズ】28 相続財産管理人選任申立

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ28回目は、相続財産管理人選任申立てについてです。

 

正確には、相続放棄とは別個の手続きですが、相続放棄後の相続財産の処理のために必要となる場合もあるので、ここで紹介させていただきます。

 

 

1 相続財産管理人
一言でいうと、相続財産管理人は、相続人が不在となった相続財産を清算する役割を持つ人です。

 

被相続人の財産は、相続人がそもそもいないか、または相続人全員が相続放棄をすると、法概念上、相続財産法人という法人になります。

 

相続財産管理人は、この法人の代表者に位置づけられます。

 

そして、被相続人の財産、たとえば預貯金であれば管理口座に移して管理し、不動産であれば汚損や倒壊等を防ぐ等の管理をします。

 

また、裁判所の許可を得て、必要に応じて財産を換価したり、処分したりします。

 

相続人、受遺者、特別縁故者が現れなかった場合、最終的には相続財産を国庫に納めます。

 

 

2 相続財産管理人が選任されるケース
大まかに3つのパターンがあります。

1つめは、元相続人が相続財産の管理に困っているケースです。

 

特に、古い建物が存在する場合です。

 

建物は人が使っていないと、急速に老朽化します。

 

時が経つにつれ、倒壊の危険が高まったり、不法占拠者が現れるなど、トラブルの発生率が上がります。

 

このようになってしまうと、元相続人に対して、何らかの責任追及がされる可能性もあります(あるいは、法的責任はないにせよ、近隣住民や市役所等から、事実上いろいろな要求がされ、対応に困ることもあります)。

 

そこで、相続財産管理人に相続財産の管理責任を委ね、処分をしてもらうという選択をすることがあります。

 

2つめは、債権者が債権回収をするケースです。

 

被相続人に借金がある場合、相続人が返済を免れるために相続放棄をすることがあります。

 

その結果、債権者は相続人に対して支払いを求めることができなくなるため、相続財産の中にめぼしい財産がある場合には、これを換価して弁済を受けるという選択を取ることがあります。

 

この場合、債権者が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをします。

 

3つめは、市町村等が空き家管理のために申し立てるというケースです。

 

近年、被相続人の家屋が放置され、地域の安全が脅かされたり、土地の有効活用ができなくなるという問題が増えています。

 

空き家の中には、相続人が元々不在のものや、相続人全員が相続放棄をしたものもあります。

 

このような空き家について、市町村等が利害関係人として相続財産管理人選任申立てをし、空き家の処分をするという形になります。

 

 

3 相続財産管理人選任申立ての手続き
家庭裁判所に対し、相続財産管理人選任申立書と、付属資料を提出します。

 

付属書類の中には、財産目録がありますので、可能な限り正確に被相続人の財産を調査して、疎明資料とともに提出します。

 

また、相続人全員が相続放棄をしたことで相続人不在となった場合には、相続放棄申述受理通知書の写しや、相続放棄照会結果の写し等を添付します。