【相続放棄シリーズ】10 相続放棄を早く行うメリット

コロナウィルスの影響で外出や経済活動の自粛を求められる中,台風並みの荒天や地震なども重なり,非常に厳しい時を過ごさざるを得ない状況です。

 

今は耐え時と捉え,できることをやっていくという意識で日々の業務に取り組んでおります。

 

弁護士法人心東京駅法律事務所にて相続を担当している,弁護士の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズも今回で10回目を迎えました。

 

今回は,相続放棄の効果について説明します。

 

1 相続人でなかったことになる

相続放棄は非常に強力な効果を持っています。

 

相続放棄をすると,初めから相続人ではなかったことになります。

 

もちろん,実の親子や兄弟であれば,生物としては血のつながりがありますが,法律上は相続人ではなかったことになります。

 

被相続人の遺産相続に関しては,相続債務のことも含め,全く無関係の存在となります。

 

2 相続放棄は個別に効力を生じる

裁判所に対して相続放棄申述手続きをし,相続放棄が認められると,裁判所から相続放棄申述受理通知書というものが発行されます。

 

相続放棄申述受理通知書には受理日付が記載されますので,この日を以て相続放棄をした旨を対外的にも示すことができます。

 

相続放棄の手続きは,各相続人が個別に行うことができます。

 

他の相続人と疎遠であったり,関係が悪かったりする場合でも,特に他の相続人に相続放棄をする旨を伝える必要はなく,相続人自身の判断で相続放棄手続を進められます(これに対して限定承認は相続人全員が行う必要があります)。

 

3 相続放棄は早めに行った方が良い

相続放棄を考えている場合,できるだけ早く行った方が良い理由が2つあります。

 

1つ目は,相続放棄の申述期限がとても短いことです。

 

相続の開始があったことを知った日から3か月しかありません。

 

相続放棄の申述を行うためには,戸籍謄本類等を収集しなければならないので,ギリギリになってから手続きの準備を始めると間に合わなくなる可能性もあります。

 

もう1つは,相続にまつわるトラブルから一早く脱却できることです。

 

相続放棄が完了すると,もはや相続人ではなくなりますので,相続に関わろうとも関わることができない立場になります。

 

相続に争いが生じ,問題のある相続人から,「この(価値のない)土地をお前が相続しろ」ですとか,「被相続人の借金はお前が背負え」とか言われたとしても,拒否するまでもなく,しようがないのです。

 

問題のある相続人は,相続放棄をすることを妨害してくることも考えられます。

 

そのため,思い立ったら迅速に相続放棄をしてしまうのも手です。

 

また,相続放棄をすれば,債権者から請求を受けることもなくなります。

 

請求を受けたとしても,相続放棄申述受理通知書の写し等を提供することで請求を止めることができます。

 

被相続人の債権者が分かっている場合,早々に相続放棄を行ったことを伝え,他の相続放棄をするつもりのない相続人へ請求してもらうことで,煩わしさから解放されます。

【相続放棄シリーズ】9 相続放棄は被相続人が死亡後3か月以内にしたい

東京都には緊急事態宣言がなされ,人通りもかなり減ってきました。

 

相続放棄の申述期限は延期されないため,相続放棄手続代理人としての仕事は平常運転となっております。

 

弁護士法人心で相続を担当している,鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズも9回目となりました。

 

今回は,相続放棄の期限について,改めて考えてみます。

 

1 相続放棄の申述期限

相続放棄は,相続の開始があったことを知った日から3か月以内,と定められています。

 

相続が開始した日(=被相続人が死亡した日)から3か月以内ではありません。

 

これは,相続放棄手続の機会及び熟慮期間の保障のためであると考えられます。

 

何らかの事情で3か月以上被相続人が死亡したことを知ることができず,知った時には申述期限を過ぎてしまっていた,という事態に陥ることを防ぐということです。

 

2 相続の開始があったことを知った日

では,相続の開始があったことを知った,とは具体的にはどのようなことをいうのでしょうか。

 

以下に,典型的なものを挙げてみます。

 

①被相続人が死亡したことを看取った場合

被相続人が死亡した日に,死亡したことを知ったことになるので,被相続人死亡日が,相続の開始があったことを知った日になります。

 

②他の相続人や親族から,被相続人が死亡した旨の連絡を受けた場合
連絡を受けた日が,相続の開始があったことを知った日となります。

被相続人が遠方に住んでいて,あまり交流をしていなかった場合等は,被相続人が死亡してから数日経った後に連絡が来ることもあるので,被相続人死亡日よりも後の日付になります。

後述しますが,電話連絡があった場合でも,その日が知った日になりますが,相続放棄申述書に添付する資料があると安心ですので,日付の入った手紙やメールなどがあるとベターです。

 

③市役所等から書面等により被相続人が死亡した旨の連絡を受けた場合

正確には,書面等を受取って読んだ日が,相続の開始があったことを知った日になります。

もっとも,この書面の写しを相続があったことを知った日を根拠づける資料として裁判所へ提出することが多いので,書面に記載された日付を,相続の開始があったことを知った日とする対応をすることもあります。

 

④債権者等から書面により被相続人が死亡した旨の連絡を受けた場合

③と同様,書面を読んだ日が,相続の開始があったことを知った日となりますが,便宜上書面に記載された日付をもって,相続の開始があったことを知った日とすることがあります。

3 相続放棄は被相続人が死亡した日から3か月以内に行った方が良い

 

相続放棄は,理論上は,相続の開始があったことを知った日から3か月以内に行えばよいので,被相続人が死亡した日から10年後であっても,被相続人が死亡したことを知った日から3か月以内であれば行えます。

 

もっとも,裁判所としては,被相続人が死亡した日から3か月以上経って相続放棄の申述がなされた場合,相続の開始があったことを知った日が,被相続人死亡日より遅くなった理由を確認します。

事情を説明する文書を作成するとともに,手に入る範囲で根拠となる資料も添付しなければならない場合もあります。
審査も厳格になる可能性があり,場合によっては却下されないとも限りません。

 

そのため,被相続人死亡日よりも後に被相続人が死亡したことを知った場合であっても,被相続人死亡日から3か月以内に申述が可能であれば,急いででも被相続人死亡日3か月以内に相続放棄の申述書を裁判所に提出した方が安心です。

【相続放棄シリーズ】8 相続放棄の定義を今一度

4月に入り,桜の花も散り始めました。

 

これから暖かくなっていくにつれ,アクティブに行動をしたくもなりますが,コロナウィルスの影響下においては極力外出を控えたいところでございます。

 

弁護士法人心の鳥光でございます。

 

相続放棄シリーズ8回目となる今回は,今一度相続放棄の定義について考察します。

 

1 事実上の相続放棄

相続放棄という単語は,とても抽象的です。

 

一般的には,相続が発生した際に,他の相続人に対して相続財産を取得しない旨を伝えるという意味で使用されることもあります。

 

具体的には,遺産分割協議書等において,署名・押印部分には相続人として名前が表示されていても,条項においては遺産の取得者としては登場しないという形になります。

 

これは,専門家の世界では事実上の相続放棄などと呼ばれます。

 

後述する民法上の相続放棄と比較すると,プラスの相続財産を取得しないという点では効果は同じです。

 

一方,あくまでも相続人という法的地位がなくなるわけではないので,相続財産に含まれるマイナスの負債については,そうなりません。

 

遺産分割協議書において,プラスの相続財産を取得しない代わりに,被相続人の負債も負担しない(他の相続人が負担する)旨を記載しても,債権者には対抗できないので,別途免責的債務引受などを行わないと負債から逃れることはできません。

 

また,事実上の相続放棄は,遺産分割協議書後に新たに相続財産や相続債務が発見された場合も,都度遺産分割協議に加わり,財産を取得しない旨を記載した書面に署名・押印しなければならないという手間も生じます。

 

2 民法上の相続放棄

民法には,相続放棄についての条文が明記されています。

 

民法上の相続放棄をすると,初めから相続人でなかったことになります。

 

つまり,相続人としての法的地位が消滅するという点が,事実上の相続放棄との大きな違いです。

 

例外としての相続財産の管理責任が生じる点を除き,被相続人の相続とは無関係の存在になります。

 

生物学的には夫婦,親子,兄弟関係にあっても,相続に関する法律上は赤の他人というイメージです。

 

当然,被相続人の財産も負債も無関係ということになります。

 

相続は,原則として,相続人の意思とは関係なく,被相続人との家族関係によって自動的に発生してしまいます。

 

相続放棄は,この原則に対する例外として設けられている制度です。

 

民法上の相続放棄は,管轄の裁判所に対し,相続放棄申述書と附属書類を提出し,相続放棄申述が受理されることで初めて成立します。

 

事実上の相続放棄と異なり,決まった手続きを行い,裁判所に受理してもらわなければなりません。

 

事実上の相続放棄には原則として期限はありませんが,民法上の相続放棄は厳格な期限が設けられている点にも注意です。

 

期限は,相続の開始を知った日から3か月以内です。